ランボルギーニ・アヴェンタドールSクーペ(4WD/7AT)
いよいよSVの領域へ 2017.02.03 試乗記 「ランボルギーニ・アヴェンタドール」がさらなるパワーと洗練を得て「アヴェンタドールS」に進化。同社史上最速とうたわれた「アヴェンタドールSV(スーパーヴェローチェ)」の領域に近づいたファイティングブルの実力をスペイン・バレンシアで解き放った。車名をよりシンプルに
アヴェンタドールSは、正式名を「アヴェンタドールSクーペ」という。もちろん、このあとに「アヴェンタドールSロードスター」の登場がスタンバイしている。“S”が付くモデルには、過去に「ミウラS」や「ハラマS」などがあった。これはそもそも、惜しくも先日逝去した、ランボルギーニ伝説のエンジニアであり、ある意味、中興の祖であるパオロ・スタンツァーニのアイデアで始まった。何か、スペシャルで超越した存在、といった意味である。
お気付きになっただろうか。これまでのネーミング手法にのっとれば、この正式名には、「LP740-4」というサブネームが添えられているはず。エンジン縦置きミドシップ+740ps+四輪駆動を意味していた。
けれども、新型にはこのサブネームは付かない。ステファノ・ドメニカリ新CEO就任後に、ネーミング方法の変更が行われたからだ。いわく、「若い世代にも分かりやすいよう、煩雑な名前を避けたかった」らしい。確かに、LP740-4などと言われても、知らない人には、暗号か何かにしか思えない。最近では、マクラーレンが「MP4-12C」という名前を「12C」とシンプルに変えたことが記憶に新しい(その後、また少し、ややこしくなってしまったけれど)。
同時に、他モデルの名前も変えられた。例えば「ウラカンLP610-4」系は「ウラカンクーペ」と「同スパイダー」、「ウラカンLP580-2」系は「ウラカンRWDクーペ」と「同RWDスパイダー」という風に。前期型のフラッグシップも、「アヴェンタドールクーペ」に、「アヴェンタドールスパイダー」だ(過去にさかのぼっての変更もまた珍しい)。「ウルス」も含め、ランボルギーニのデフォルトは4WDであるという言外のアピールでもあるのだろう。
エアロダイナミクスを徹底改良
アヴェンタドールSは、いったい、どこがどのように進化したのだろう。大きなポイントとして挙げたい点は、以下の3つである。
(1)エアロダイナミクスを徹底改良し、新しいディテールのエクステリアとした。
(2)4WS(四輪操舵)に加え、アヴェンタドールSVやウラカンで既に実績のある磁性流体ダンパーや可変ギアレシオステアリングを採用。
(3)可変バルブタイミングと可変インテークシステムのチューニングで高回転域におけるパワー&トルクアップを実現。SVとほぼ同等のエンジンパフォーマンスに。
まずは、(1)について。見た目のスタイリングはご覧のとおり、基本のシルエットはそのままに、よりワイドさを強調した。すべての変更点には意味があり、空気の流れを車体制御はもちろんのこと、パワートレインやブレーキの冷却にも効果的に使えるようリデザインされている。見どころは、リアホイールアーチと、リア後方に設置されたエアインテーク。どこか「カウンタック」を思わせるデザイン処理が、スーパーカー世代を喜ばせる。
結果、前期型に比べて、フロントのダウンフォースが130%も増加し、さらにドライブモード対応の可変ウイングが最適な状態において高いダウンフォースが掛かっている状態の空力効率も40%増しとなった。
(2)の4WSに関していうと、クルマに詳しい読者諸兄であれば、それが特にアヴェンタドールのように大型でホイールベースの長い4WDミドシップカーにおいて劇的な変化をもたらすことは、想像に難くないはず。つまり、低速域においては前後輪が逆位相となって小回りしやすく旋回性が高まり、高速域(120~130km/h)では前後輪とも同位相となって安定したコーナリングが楽しめる、というわけだ。
ピークパワーは740psに
4WSの解説を続けよう。アヴェンタドールSでは、重量のかさむ(約20kg増)トルクベクタリング方式を採用せず、後輪それぞれに小型のアクチュエーターを置き、その他の各種システムと統合制御して作動させている。高速域の安定感のみならず、街中での使い勝手向上にも気を配ったゆえ、この後輪操舵システムを選んだのだろう。しかも、アクチュエーターシステムによる重量増はわずかに6kg/台。この増分は、新エキゾーストシステムを6kg軽く設計することで相殺され、乾燥車両重量は前期型と変わらず1575kgとした。
ちなみに、低速域における後輪操舵角は最大3度で仮想ホイールベースが片側500mm短くなり、一方、高速域では、最大1.5度で700mm長くなる計算になる。
この4WSシステムを含め、新たに採用された可変ステアリングギアレシオのLDSや磁性流体サスペンションのLMS、さらにはESCを、車体のブレーンたる統合制御ユニットLDVAがコントロールする。この統合制御の概念は、既にウラカンをはじめ、他のスーパーカーでも採用されている。
エンジンのパフォーマンス向上は、もはやスーパーカーにとって、逃れられない宿命となった。今や1000ps以上も存在する。この先、いつまでも馬力競争が続くとは思えないが、それこそ、フェラーリやランボルギーニといったスーパースポーツのトップブランドが先陣を切らないことには、どうしようもない。車名の簡素化という背景に、その意思が少しでも入っていることを願うばかりだ。
ともかく、エンジン性能は、ほぼSVと同等になったとみていい。すなわち、最高回転数が8350rpmから8500rpmとなり、最高出力は前期型+40psの740ps(SVは750ps)に。最大トルク数値こそ変わらないものの、高回転域でのトルク落ちがかなり緩やかになっている。このあたり、SVのときとほぼ同じ考え方のセットだ。
ハルデックス電子制御4WDシステムや、カーボンファイバー製のモノコックキャビンなど、その他の基本スペックに大きな変更点はない。また、多くのユーザーがデュアルクラッチトランスミッションへの変更を希望するなか、ISRミッションも進化版にとどめた。理由は単純だ。「6000台も売れた=支持を得ている」「アメリカ市場でユニークだと人気」「他がDSGを選ぶからといって安易に変えることはフォロワーになることを意味する」、そして「シンプルにカーボンモノコックに入らない」からだった。
まずはサーキットでテストドライブ
そろそろ、肝心のドライブフィールについて、報告しておこう。
試乗会は、まずスペイン・バレンシアのリカルド・トルモ・サーキットで行われ、ウエットからセミウエット、部分ドライまで存分に楽しんだのちに、海岸のホテルまでワインディングロードと高速道路を含む一般道を駆る、という申し分のない趣向であった。
前日からの雨風が奇跡的にやんで、コースはまだ存分にぬれてはいるものの、遠くには晴れ間さえ見えてきた。大雨だった予報を考えれば、もはや晴天といってよいほどの気分。テンションをガンガンあげて、パールホワイトにアドペルソナムのブラウンレザーという洒落(しゃれ)た仕様のアヴェンタドールSに乗り込んだ。
インテリアの雰囲気に、大きな変更点はない。TFTメーターのデザインが変わり、ドライブモードごとに変化するようになったことと、そのドライビングモード選択に、これまでのコルサ(サーキット)、スポルト(スポーツ)、ストラーダ(ノーマル)に加えて、エゴが加わっていること、くらい。エゴモードは、いわゆるインディビジュアルモードで、パワートレイン&トラクション、ステアリング、サスペンションをそれぞれ好みのモードに組み合わせることができるようになった。例えば、ニュルブルクリンクでのタイムアタックでは、順に、コルサ&コルサ&ストラダーレ、という風に。
まずは路面もビショぬれであることだし、安全重視、ストラーダモードで走りだす。オートマチック変速を選ぶと、パーシャルスロットルでは妙なしゃくりもなく、スムーズに、しかも矢継ぎ早にシフトアップ。これじゃサーキットでは大変走りづらい、ということで、慌ててマニュアル変速に切り替えた。
このモードでは、前輪に40%の駆動がかかる。滑りやすい路面では、こと安心して走るという点で有利である。けれども、それゆえちょっと攻め込むとすぐにアンダーステア傾向、つまり安定方向にクルマが制御され、つまらないったらありゃしない。雨はやんだとはいえ、いまなお前を行くクルマの水しぶきでワイパーが必要な状況ではあったけれども、ここはクルマの性能(というか制御)を信じて、スポルト+マニュアルモードに切り替えてみた。
信じる者は楽しめる!
スポルトモードの前後駆動力配分は、なんと10:90だ。しかもアクセルレスポンスは軽く、操舵フィールも重いが鋭い。加えて、SVで先導するプロドライバーのペースも上がってきた。相変わらず、温まってない段階でのカーボンコンポジットブレーキは、利きが甘い。
盛大なアフターファイア音を響かせつつ、早めのダウンシフトで何とか速度を落とし、タイトなコーナーへ入る。ノーズが驚くほど速く内を向いた。4WSのおかげだ。すぐさま出口方向へと切り返し、スロットルを開けると、リアが途端に滑り出す。わずかに前輪が突っ張るものの、リアのスライドはかなりの量で、最初のうちはビビってすぐにアクセルを戻し、制御の介入を許していたが、慣れてくるに従って、そのまま踏み込み量をコントロールしつつ、リアスライドを一定に保って立ち上がれるようになった。740psのミドシップスーパーカーを、びしょぬれの中で! 信じる者は、楽しめる。
コースの後半には、やや逆カント気味の高速コーナーがあって、そこではリアステアによる安定しながら最短距離でコーナーを駆けぬけるという心地いい感覚を経験する。逆位相にしろ、同位相にしろ、ドライバーの意思がどこにあって、どうしたいのか、ドリフトなのか単なる方向転換なのか、そのあたりの判断と制御が素晴らしく、脳みそ=LDVAの優秀さを実感する。
路面がどんどん乾いてきた。乾ききる前にコルサモードを試す。前後駆動力配分は20:80だ。あらゆる意味でニュートラル&シャープ。全4輪の様子が分かりやすく、必死になって先導車にくらいついて走るような状況でも、安心して踏んでいける。オーバーステアになり過ぎず、かといってアンダーステアはドライバーの技量でしっかり抑え込め、ドリフトモードの維持もたやすい。なるほど、こっちはもっと速く走れてしまいそう。つまり、ラップタイム派向けだ。
せっかくのエゴモードも試してみる。下手の横向け好き、派手なアクション好みの筆者は、パワートレインをスポルトにセット、ステアリングはコルサでびしっと固め、ぬれた路面を考慮し、アシのセットをストラーダに。乾かぬうちは、多少なりとも上下移動を感じられたほうが運転しやすいと思ったからだが、案の定、気持ちよく、しかもド派手にドライブできた。もっとも、デフォルトを含めると、モードの種類は27もある。すべてを試せたわけではないが、乾きはじめた路面では、アシもスポルトにした状態が面白かった。
4WSシステムの効果は絶大
サーキットからホテルまでは、山伝いの高速道路を使って、海岸のホテルまで走る。サーキットにおいて、縁石を軽く踏んだときのショックの感じ方からして、マグネットライドを得た“SVではないアヴェンタドール”の乗り心地は、きっとウラカン並みに良いだろう、と想像したが、それは期待が過ぎたようだ。プッシュロッド式サスペンションの限界だろうか。ストラーダモードでも乗り心地は、やはりアヴェンタドールそのもの(当然だ)。
SVほどのソリッドな硬さこそ感じないものの、決して洗練されてはいない。アヴェンタドール初期は相当に頑固(特にフロント)な硬さが気になったものだが、年次改良でどんどん良くなっていたのが実情で、そう考えると、少し心地よくなった、という程度だと考えておいた方が、実際に買う方は落胆も少ないだろう。
それにしても、4WSは狭いワインディングや方向転換にも、かなり効く。カーボンモノコック&キャビンの造り込み精度も確実に上がっているのだろう。総合的にみて、“小さなアヴェンタドール”に乗っている気分。本当に運転しやすいクルマになった。
そして、サウンド。抑制のきいた、けれどもV12の精緻さと滑らかさを見事に表現する排気音の演出は、新エキゾーストシステム(3本出しは主にサウンド演出のため)によるものだ。高回転域で、エンジンにつながったアクセルペダルに、右足がぐんぐん吸い込まれてしまいそうな気がする(物理的にそうではないが)。スポルト&コルサモードでは、アクセルオフ時に盛大なアフターファイアサウンドが響き渡った。ちょっと気恥ずかしいくらいに。
走りを楽しむ大人のスポーツカー好きの心を、激しく揺さぶるサウンド演出だ。爆音“まき散らし”好きには、モノ足りないだろうけれども、もうそんなのはやらない。
(文=西川 淳/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・アヴェンタドールSクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4797×2030×1136mm
ホイールベース:2700mm
車重:1575kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:740ps(544kW)/8400rpm
最大トルク:70.4kgm(690Nm)/5500rpm
タイヤ:(前)255/30ZR20/(後)355/25ZR21(ピレリPゼロ)
燃費:16.9リッター/100km(約5.9km/リッター 欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:トラック&ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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