三菱eKスペース カスタムT セーフティーパッケージ (FF/CVT)
挽回のための進化 2017.02.10 試乗記 「三菱eKスペース」がデザイン変更と装備の強化を中心とした大幅改良を受けた。後発の軽スーパーハイトワゴンは、ライバルの多いこの市場で独自性をアピールすることができるのか? 従来モデルとの違いをもとに考察した。「変わった感」をアピールする
eKスペースは三菱自動車と日産自動車が折半で出資した新会社NMKV(Nissan Mitsubishi Kei Vehicle)が、2014年2月に送り出した軽スーパーハイトワゴンであるが、時代はその後大きく変化し、三菱は日産の傘下に入った。
NMKVはもちろん、企業としてのシナリオが具体的に見えてこない中でもビジネスを続けなければならない。ekスペースも2015年4月に一部改良を行っているが、こと軽自動車に絞ってみてもニューモデルや新技術は続々と登場。群雄割拠ではないが、限られたマーケットの奪い合いが繰り広げられている。厳しい言い方だが、三菱ブランドの立ち位置は戦国時代に例えても地方の中堅大名程度で、天下を狙うレベルには達していない。
そんな状況にあって行われた今回の大幅改良の中心は、外装の変更である。特に「eKスペース カスタム」については、同社がデザインコンセプトとして掲げている「ダイナミックシールド」に基づいて、フロントグリルを刷新した。それについては成功と言っていいだろう。何しろ変更前のカスタムは「グリルの部分だけ若干ワイルドにしました」的で、標準モデルとの差が少なかった。もちろん好みはあるだろうが、日本の、いや軽自動車のマーケットでこの手のモデルに求められているもの、言い換えれば「売れるための必須条件」はまさにそこで、“若干”では満足してもらえない。
ロアグリルのメッキバーが4本(!)も組み込まれた造形は押し出し感と同時に安定感を表現するのにかなり役立っている。同時に標準モデルのフロントマスクはもっと優しい方向にリデザインされているので、両車の差別化もうまくいっている。それでもやっと他社モデルに追いついたレベルで、まずは及第点というところだろうか……。
一番の武器に磨きをかける
内装においてもシート表皮を変えるなどの変更が施されているが、一番のポイントはeKスペース独自の装備であり、後席室内の空気を循環させる「リアサーキュレーター」にパナソニックの環境技術である「ナノイー」を組み込んだことだ。
家電的な話をすると、この手の技術ではシャープの「プラズマクラスターイオン」、ダイキン工業の「ギガストリーマー」、そしてパナソニックのナノイーが大勢力。クルマに関して言えば、パナソニックとシャープが二分する格好になっている。
ナノイー自体は、その優れた消臭機能がすでに家電において評価されている。これに、こちらも新規採用となる専用の「クリーンエアフィルタープラス」を装着することで、今年は発生が早いうえに例年の2倍以上が飛散するといわれる花粉の除去をはじめ、車内空間の環境改善の効果が期待できる。
軽自動車、特にこの手のスーパーハイトワゴンは子育て世代にターゲティングした商品群。「やっと」と言っては失礼だが、自社の持つ“飛び道具”をレベルアップさせたことで商品力は向上したと言っていいだろう。
このほかにも、降雨時の雨音を低減し、車内温度の上昇を抑制するため、天井の裏側にフェルト素材を追加したとのことだが、この部分は試乗当日が晴天だったこともあり、効果を感じることができなかった。
ターボの余裕はこのクルマには必須
搭載されるエンジンは改良前から変わりなく、「3B20」型のMIVECインタークーラー付きターボ。64ps(47kW)/10.0kgm(98Nm)のスペックにも変更はない。実用回転域から大トルクを発生するので、市街地から流れの良い郊外路、そして高速道路まで、過不足のない走りを担保している。
直進時は問題はないが、やはり重心高の高いモデルゆえに高速でのカーブなどではやや頭部がふられるような感覚となる。それでも、意外と言っては失礼だが、タイヤの接地性は確保されている。
路面からの突き上げも基本は変わっていないが、装着されているタイヤの影響もあり、入力に対して不快なショックはかなり抑えられている。特に顕著なのが後席で、ファミリーで使うケースの多いこのクルマのキャラクターには合っていると感じた。
また、今回メカニズム上の変更としてはターボ車のアイドリングストップに13km/h以下でエンジンを停止させるコーストストップ機能が追加された。
他社はもちろん、三菱でもすでに導入済みのシステムではあるが、当初のものはエンジンが早めに停止した後のブレーキペダルの操作性に違和感があった。要は踏み増しをしないと自分のイメージした距離で停止できないような感覚だったのだが、eKスペースのシステムはその辺がうまく仕上がっている。ただアイドリングストップ自体については、ストップ&ゴーの多い市街地などでの利用の多いクルマゆえに、他社(具体的にはスズキ)同様、もう少し保持できる時間が長くなるとありがたい。
また、気になる燃費だが、今回約200kmを走行して車載の平均燃費計では13.4km/リッターという結果になった。これが順当な実力とは思うが、郊外路のみを測定した際は17.2km/リッターまで伸ばすことはできた。ターボ車には回生エネルギーをバッテリーに充電できる「アシストバッテリー」機能が搭載されないので、これが入ることで実用燃費は向上するはず。この部分も、今後の商品改良時にはぜひ実現してほしい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
買うなら「セーフティーパッケージ」!
今回は高速道路も試乗してみたが、ターボ車に追加されたクルーズコントロールが重宝した。ACC(アダブティプクルーズコントロール)ではないが、あればやはり便利なもの。面白いのが、ダイハツはこの装備について消極的、ホンダとスズキは積極的、と考え方が異なる点だ。
このモデルではハードウエアの改良も含めコスト的に見合わないだろうし、無い物ねだりをしてもしょうがないのだが、次期モデルで他社より早く先進安全装備と協調したACCを搭載できれば、三菱も現在の遅れを取り戻せるはずだ。装着されるタイヤの性能も考慮すれば、これだけ重心高の高いクルマでも制限速度内であれば高速走行を十分こなせるだろう。
細かい改良ではあるが、変更前から設定のあった「カスタムT e-Assist」の価格は据え置きの175万2840円(FF)である。その点では買い得感は向上したが、やはり今回一番のオススメはアラウンドビュー/オートマチックハイビーム/オートライトの3つの機能をプラスした「セーフティーパッケージ」仕様だろう。価格差は7万5600円だが、この差額を払っても装着する価値は十分にある。
これらの装備の追加で値段が上がることは、eKスペースに限らずどのモデルにも共通する悩みではあるが、やはり安全は何より優先されるべきこと。本来であれば全グレード標準装備が望ましいが、実際の販売現場を思うと難しい。ゆえに、せめてこの原稿を読んでekスペースに興味を持った方には、標準モデルでは「G」以上のグレードに設定されるセーフティーパッケージの装着を購入の第一条件としてほしい。
(文=高山正寛/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
三菱eKスペース カスタムT セーフティーパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1775mm
ホイールベース:2430mm
車重:960kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.0kgm(98Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:22.2km/リッター(JC08モード)
価格:182万8440円/テスト車=216万0690円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパール/ブラックマイカ>(7万5600円)/ステアリングオーディオリモコン+6スピーカー<4スピーカー+2ツイーター>(1万6200円) ※以下、販売店オプション ETC車載器(2万4451円)/フロアマット(2万0649円)/専用ワイド2DINナビゲーション<ハイスペック>(19万5350円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1802km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:194.4km
使用燃料:14.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.9km/リッター(満タン法)/13.4km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

高山 正寛
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。














































