第500回:大矢アキオの上海ショー2017
世界のモビリティーを変えていく!? 上海の最新乗り物事情
2017.05.05
マッキナ あらモーダ!
2年のうちに状況一変
前回は上海モーターショー2017の展示会場におけるトレンドをお伝えしたが、今回は、そんな上海の“街の話”をお届けしよう。
虹橋空港を降りたボクは、イタリアで予約しておいた貸しアパートに向かうべく、地下鉄2号線に乗った。繁華街のある静安寺駅で降りると、前回、2年前の2015年に訪れた時とは何だかムードが違う。
原因は、駅構内の広告だ。
2015年、さらにその前に訪れた2013年も、駅には自動車の広告があふれ、いかにもモーターショーが開催される街にやってきた感じ……米国をしのぐ世界一の自動車大国のモーターショーを見にきた感じがしたものだった。
ところがどうだ。静安寺駅に関していえば、クルマの広告はすっかり姿を消していた。代わりに壁面を占拠していたのは、「ofo」というバイクシェアリング(共亨単車)の広告だ。「小黄車」という中国語の説明の通り、広告写真の中で若い男女が楽しそうに乗っているのは、黄色い自転車である。
スーツケースを引きずりながら地上に出たボクの脇を、まさにofoに乗った女子がさっそうとすり抜けていった。
見回せば、あちこちにofoの自転車に乗る人々がいて、路上駐輪しているofoもある。さらに落ち着いて観察してみると、ほかにも「モバイク」「モバイク ライト」などと名付けられた、別のシェアリング用自転車が視界に入る。
2年前は、想像もできなかった光景である。「聞いてねェよー!」などと、思わず荒っぽい言葉でひとりごちた。
アパートの受付のお兄さんに部屋まで案内してもらうついでに聞いてみると、彼は家から職場までが近すぎるため、いまだ利用したことがないという。しかし「上海でバイクシェアリングが普及し始めたのは、去年(2016年)からです」と教えてくれた。2年ぶりに訪れたボクが知らないわけだ。
パリを超えた!? 上海のシェアリング自転車
荷物を置いてから街に出て、再び上海のシェアリング自転車を観察する。
シェアリング自転車のさきがけといえば、フランス・パリの「ヴェリヴ」である。
ヴェリヴの自転車は破壊行為を想定しているのだろう、かなり極太のフレームを用いるなど、頑丈に作られている。そのため、重い。大手広告代理店JCドゥコーが運営に関与しているとはいえ、実質的にはパリ市主導のサービスゆえ、税金をふんだんに投入した感があふれている。
対して中国のシェアリング自転車は、市販のシティーサイクルに限りなく近い。いわば、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のロケットと民間のロケットとの違いに似ている。
操作も違う。ヴェリヴは、日本のSuica/Pasmoのようなパリ地下鉄のICカードやクレジットカードを用い、街中に設置された無人ステーションの端末を操作して借りる。その手続きの煩雑さで、多くの観光客は挫折する。借り出し/返却ともに、無人ステーションで行う必要がある。ステーションのロック機構も、これまた破壊を想定してか、作りがシッカリしすぎているため、車両側から伸びているバーをかませるのにかなりの力がいる。
それに対して中国版は簡単だ。加入者はあらかじめ、スマートフォンにアプリケーションをダウンロードしておく。今どこに空きの自転車があるのかも、そのアプリを通じてリアルタイムでわかる仕組みだ。
それぞれの自転車に付いているバーコードにスマートフォンをかざすと、即座に暗証番号が送信される。その数字を自転車備え付けのボタンで入力すると、後輪のロックが外れる仕組みである。乗り終えたらロックをかけるだけで、アプリに料金が表示される(業者によって若干の違いあり)。
パリでヴェリブがスタートしたのは2007年。アプリの普及前夜だから仕方ないのだが、いまとなっては、ヴェリヴは完全に遅れてしまった感がある。さらにいえば、中国版シェアリング自転車最大の長所は、乗り出し・乗り捨ての場所が自由なことだ。これは楽である。
クルマに飽きるのも時間の問題?
『CNBC電子版』によると、ofoは26歳のダイ・ウェイ氏が2年前の2015年に創業した企業である。ofoは、そのアルファベッドの羅列が自転車に乗る人に見えることから命名したという。
ofoの企業サイトが示すところでは、第1のターゲットユーザーは、自転車通学している3000万人の大学生だ。彼らは常に自分の自転車を盗まれたり、路上駐車車両として片付けられてしまったりする心配に悩まされている。指定の自転車置き場まで行って乗る面倒さもあった。それを解決すべくスタートしたのがofoの始まりという。
ofoは2016年現在、中国国内の22都市で4000万台の自転車を運用している。CNBCによると、その企業価値は20億ドル(約2240億円)に達するという。
街の様相は、シェアリング自転車によって、たった2年の間に変わってしまった。思えばボクが小学生だった1970年代後半、人民服を着て自転車で通勤するおびただしい人々は、茶畑を走る新幹線がニッポンの象徴だったように、中国のイメージを代表するものだった。経済的に豊かになったあとで、再び中国の都市部の人々、それも若い人々が自転車を選択するようになるとは……。
上海通用(上海ゼネラルモーターズ)が生産するキャデラック/ビュイックなどを「豊かさの象徴」としてきた世代を親に持つ人々は、シェアリング自転車を選び始めた。それどころか、高齢者も時折、お互いにアプリの使い方を教え合いながら利用しているのも目撃した。
地下鉄内にはカーリースのステッカー広告が貼られ、車内ディスプレイではEVシェアリングのニュースが流れている。上海に限っていえば、人々が高級車の所有に熱心になるのも急速だったが、飽きるのもまた、意外に早いかもしれない。
上海は未来型モビリティーのラボだ!
それにしても、前述の「乗り出し・乗り捨て自由」は、自転車というモビリティーの利便性を最大限に発揮できる利点である。
加えて、走行可能なレーンの規則もゆるい。もともと上海で自転車は、自動車レーンだけでなく歩道での走行も(大規模な歩行者天国などを除いて)大目に見られている。歩道でスクーターがいきなり背後からやってきて驚かされることもあるが……。
もちろん今後、上海でシェアリング自転車が増加すると、歩行の妨げになるなど、さまざまな問題が起きてくるだろう。しかしそのゆるさと、ガチガチの法整備を待たない「暫定開業」的思考が、想像を超える未来を作っていくのかもしれない。
日本はコピーライトに慎重になるあまり、音楽配信およびポータブルオーディオデバイス、『YouTube』や『App Store』の発展を、指をくわえて眺めることになった。
くだんのCNBCによると、ofoは日本進出も視野に入れているという。日本もシェアリングを含め自転車をもっと都市部で生かす方法を、それも民間主導である程度ゆるく考えないと、音楽配信の二の舞になるのではないか……そう危惧するのは、ボクだけだろうか。
そんなことを考えていたボクの脇を、今度は「セグウェイ」のようなセルフバランススクーターが通り過ぎた。それも驚いたことに、(こういってはなんだが)“いい年したおっさん”が乗っている。仕事場である商店に向かっているようだ。
過去の概念やステータス性にとらわれない移動手段選び。「なんでもあり」の上海は、世界で最も巨大な未来型モビリティーのラボ(研究所)に見えてくるのであった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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