第408回:引き金は「パリ協定」
“CO2ゼロ時代”へ加速する自動車産業の現状を探る
2017.05.03
エディターから一言
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ここにきて、急速にパワープラントの“電動化”を加速させ始めた世界の自動車メーカー。この流れの引き金になったのが、2015年に結ばれたパリ協定である。そこではどんな取り決めが行われたのか? 脱炭素社会へ向けた官民の取り組みを紹介する。
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世界的な燃費規制とパリ協定の関係
過去10年ほどを振り返ると、年々、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)といった次世代パワートレイン車の話題が増えてきている。その背景には、世界各国の燃費規制がある。では、なんのために燃費を規制しているのかといえば、それは地球温暖化対策のため。地球の平均気温上昇を、産業革命前から2度未満におさめなければ、地球が危機的な状況になるというのだ。そのためには二酸化炭素(CO2)など地球を温暖化させるガスの排出を減らさなければならない。クルマでいえば、燃費をよくすることがCO2排出量削減となる。
地球の温暖化に対して懐疑的な方もいるだろう。しかし疑惑があれば対策しないわけにはいかない。放っておいて危機的状況になってから「やっぱり本当だったのね」では済まされないからだ。
そうした地球規模の危機的な状況から脱するために、世界的な規模で取り交わされた約束が、2015年に世界196カ国が採択したパリ協定だ。では、そのパリ協定とはいったいどういう内容なのだろうか? 自動車業界との関係は? 世界的な環境保全団体のWWFジャパンに聞いてみた。
各国が初めて“目標”と“計画”を策定
パリ協定の特徴とは、それぞれの国が目標と計画、そして2050年への長期戦略を立てている点にある。
「実は世界的な環境対策の話し合いは、ここ10年ほど一進一退の状況でした。それを、ぐっと進展させたのがパリ協定です」とWWFジャパンの池原庸介氏は説明する。2005年に京都議定書が発効した直後から、“ポスト京都議定書”の策定は世界各国で話し合われていたが、なかなか具体的な成果が得られなかった。そうした中で、ようやく決まったのがパリ協定だったのだ。
「パリ協定は、『2度未満』の実現に向けて各国の実施すべきことがはっきりと定められたものです。目標、取り組み、計画書をそれぞれ作ることが定められています」と池原氏。具体的には、「国別の目標」の提出と、それを達成するための「計画」の作成が義務付けられ、さらに2020年までに「今世紀半ばまでの長期戦略」の提出も求められている。日本の場合、“国別の目標”として「2030年までに温室効果ガス排出量を26%削減」を提出。2016年には「地球温暖化対策計画」が閣議決定されており、これが“計画”となる。“長期戦略”については「2020年の期限に十分先立って策定し、通報する」と2016年の伊勢志摩サミットの首脳宣言で発表。それを受けて、経済産業省と環境省がそれぞれの素案を作成している。なお、長期で目指す削減量としては、「2050年までに80%削減」という数字が発表されている。
「実は、各国が提出している目標がすべて達成されたとしても、『2度未満』には足りません。そのためにパリ協定では、5年ごとに計画を見直して、新しい計画を立てて現実とのギャップを埋めるという仕組みもあります」
こうした、国レベルの温室効果ガス削減の取り組みでは、自動車やそれによる運輸部門は他の産業に対して特に大きな削減が求められる。これには理由がある。鉄鋼やジェット機のように、脱化石燃料化の難しいジャンルがあるからだ。それに対して、クルマにはすでにEVやFCVという“CO2ゼロ”の技術がある。そのため、80%削減の時代には、他に先駆けて運輸部門にCO2排出量ゼロを達成していてほしい。こうした思惑もあり、世界各国では年々厳しい燃費規制が導入されているのだ。
「自動車メーカーとしては、21世紀後半の“CO2ゼロ時代”を見据えているところもあるはずです。ライバルよりも先にゼロになっていれば、ビジネスとしても有利になりますからね」(池原氏)
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政府より厳しい企業の目標設定
ちなみに、WWFも2050年の脱炭素社会に向けた長期シナリオを作成している。それによると、省エネにより全需要を47%削減。電力は太陽光(全エネルギーの38%)と風力(19%)を中心とし、余剰電力は水素に変換する。熱・燃料需要については全エネルギーの20%を木材などのバイオマスで対応し、残りについては余剰電力で作った水素を使うことでカバー。これにより、自然エネルギー100%の社会が可能になるという。ちなみに原子力発電は段階的に廃止させていくという。
「パリ協定は、主に政府による約束ですが、民間企業でも類似の取り組みが進んでいます。それがサイエンス・ベースト・ターゲット(Science Based Targets:SBT)です。これは官民共同のスキームで、国連のサポートもあり、われわれWWFも設立メンバーに加わっています。世界の気温上昇を2度未満に抑えるために、企業に対して削減目標設定を求めるものです」
長期目標を設定するパリ協定の民間バージョンがSBTと言っていいだろう。しかもSBTは、科学的に見て『2度未満』と整合した目標であるかどうかもSBTによって審査される。SBT自体は2015年に始まったばかりだが、すでに世界中の企業262社が参加を表明(2017年4月)。自動車メーカーでは、ダイムラーやトヨタ、ルノー・日産アライアンス、ホンダ、PSAグループが参加を表明している。自動車メーカー以外では、コカ・コーラやデル、ネスレ、ファイザーなどがある。日系企業で言えば、ほかにソニーやコマツ、キリン、コニカミノルタなどの名前を見ることができる。
ちなみにトヨタは「トヨタ環境チャレンジ2050」を2015年に発表した。2050年には、「新車のCO2を90%削減」「トヨタ車のライフサイクルCO2をゼロ」「生産工場のCO2ゼロ」という3つの挑戦を表明しているのだ。
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もはや“電化”の流れは止まらない
「パリ協定の影響もあるでしょう。ここ2~3年で大きな変化を感じます。欧米の企業は、これが既定路線という感じですね。日本の産業界も、それを見て続くという雰囲気です。ただし、日本企業でもトヨタや日産、ホンダ、ソニーなど、グローバルに活動する企業は動きが速かったと思います」
世界の気候が危機的状況になってしまっては、商売も何もあったものではない。政府まかせではなく、民間も本気で対策に乗り出した。それがSBTなのだろう。官民がそろって、同じ方向を見ている。長期的にCO2排出量ゼロを目指す世界的な流れは決定的になったといえるだろう。
こうした背景を知ると、最近、突然のようにEV志向を強めたドイツブランドの動きも腑(ふ)に落ちる。おととしのフォルクスワーゲンの不祥事により、ディーゼルによる環境対策という選択肢をすっかり放棄したようにも見える。当のフォルクスワーゲンは、今年4月の上海モーターショーでは「2030年には100万台のEVを売る」と豪語していたし、ダイムラーもBMWも、PHVやEVに並々ならぬ力を注いでいることは周知の事実だ。CO2ゼロを目指すなら、おのずとディーゼルではなく電化になるのだろう。
パリ協定によって世界がゴロリと動き始めた。官民そろって長期ビジョンを作り、着々と未来に向かってスタートしている。のんびりとやっていては間に合わない。また、ライバルに先駆けてゼロ時代の技術を達成する。そんな思惑が、昨今のPHVやEV、FCVの開発競争になっているのだろう。
(文=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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