フォルクスワーゲン・ゴルフTSIハイライン(FF/7AT)
ベンチマークの矜持 2017.05.30 試乗記 「フォルクスワーゲン・ゴルフ」にマイナーチェンジが実施された。もともとの基本性能の高さに加えて、最新の安全装備やデジタルインターフェイスも手にした“Cセグメントの盟主”に、もはや死角は残されていないのか? 上級グレードの「TSIハイライン」でテストした。“ゴルフ7.5”登場
7代目ゴルフがモデルチェンジするといううわさを耳にしたとき、ゴルフオーナーの私としては、マイナーチェンジなのか、フルモデルチェンジなのか、大いに気になるところだった。日本車に比べてモデルライフが長いフォルクスワーゲンだが、5代目は5年、6代目が4年でフルモデルチェンジしたことを考えると、今回、8代目ゴルフが登場したとしても不思議ではないからだ。
2012年に登場したゴルフ7は、2ボックスのボディーや太いCピラー、水平基調のフロントマスクなど、ひと目でゴルフとわかるデザインを受け継ぎながら、フォルクスワーゲングループが新開発した横置きエンジンプラットフォーム「MQB」を採用したとして注目を集めた。ダウンサイジングターボの先駆けとなったTSIエンジンと、デュアルクラッチギアボックスのDSGが生み出す低燃費かつ爽快な走りや、優れたパッケージングといったゴルフの長所に加えて、軽量・高剛性ボディーがもたらす高い運動性能や、自動ブレーキを含む充実した安全装備などによって、コンパクトカーの世界基準の座を確実なものにしてきた。
「ひょっとすると1年半前に買った愛車が旧型になるかもしれない」と心配していた私なのだが、ふたを開けてみるとマイナーチェンジと知りひと安心……とはいうものの、モデルライフの途中でも見えない進化を続けるゴルフだけに、ちまたでは“ゴルフ7.5”と呼ばれるマイナーチェンジ版が、どれだけ変わったのか興味津々だった。そのゴルフをついに試乗する日がやってきた。
外より中に進化の跡が
エクステリアの第一印象は、「あまり変わらないな」というのが正直なところ。ゴルフ7オーナーやよほどゴルフに興味を持っている人でなければ、変化に気づかないレベルのリニューアルである。マイナーチェンジとしては地味なほうだ。もちろん、細かくチェックすれば、マイチェン前との違いを見つけることができる。
例えば、ヘッドライトはよりシャープなデザインになり、TSIハイラインではLEDヘッドライトが標準装着となった。ちなみにテールライトは全車でLEDを採用している。また、オプションの「テクノロジーパッケージ」が装着される試乗車の場合、流れるようにウインカーが光る“ダイナミックターンインジケーター”がテールライトに採用されるので、その光り方を見ればすぐにマイナーチェンジ版とわかるはずだ。従来はフロントバンパー内のエアインテークに設置されていたレーダーセンサーがVWエンブレムに統合されたことも、新旧を見分けるポイントになるだろう。
エクステリア以上に変わったのがインテリアのデザインだ。運転席に座ると、アップライト気味の着座姿勢や硬めの座り心地など、「ゴルフってこうだよな」といういつもの感覚。マイナーチェンジということでダッシュボードの形状などもこれまでのままだが、新型ではデジタルメーターの「アクティブインフォディスプレイ」や、大型の液晶を用いた純正ナビ「ディスカバープロ」を採用したおかげで、一気にデジタル化が進んだ印象である。いずれもオプションのアイテムではあるが、見ると欲しくなるし、ゴルフ7オーナーにとっては一番うらやましく思える部分だろう。
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さらに洗練された走り
ゴルフTSIハイラインには従来と同じパワートレインが搭載されている。すなわち、1.4リッター直列4気筒直噴ターボ(1.4 TSI)と7段DSGの組み合わせで、140psの最高出力や250Nm(25.5kgm)の最大トルクも、これまでと同一である。さっそく走りだすと、相変わらず低回転から豊かなトルクを発生する1.4 TSIエンジンのおかげで、スムーズで素早い加速が味わえる。DSGのシフトアップもショックとは無縁で、街中では2000rpmに到達する前にシフトアップが繰り返され、気がつけば5速に入っているという状況だ。
ところで、この1.4 TSIエンジンには、負荷が低いときに4気筒のうちの2気筒を休止する「アクティブシリンダーマネジメント」機能が搭載されていて、燃費向上に貢献している。実際、起伏の少ない高速道路を巡航しているときや、街中を60km/h、5速、1700rpmほどで流しているときなどにも、頻繁に2気筒モードに入り、瞬間燃費がグンといい値を示すのだ。その際、エンジンのノイズや振動が若干高まるのだが、それが以前にも増して低いレベルに抑えられているのは、さすがである。
落ち着きのあるフラットな乗り心地と、優れた直進安定性を備えながら、コーナーでは軽快な動きを見せる走りの性能もこれまでどおりで、クラストップレベルといえるものだ。ただ、試乗車に装着される225/45R17サイズのタイヤによるものなのか、路面によってはショックを伝え、また、ロードノイズが目立つ場面があったのが気になった。それでも、全般的にはさらに洗練された印象で、コンパクトカーのベンチマークであるゴルフが、その基準をさらに引き上げたのは確かといえる。
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そしてさらにインテリジェントに
マイナーチェンジを機に搭載された機能として関心があったのが、渋滞時追従システムの「トラフィックアシスト」。レーダーを使って車間距離を保つアダプティブクルーズコントロールと、クルマを車線にとどめるようステアリング操作をアシストするレーンキープアシストシステムにより、渋滞などの低速走行時にドライバーを支援するというものだ。この機能自体はすでに「パサート」や「ティグアン」などにも採用されており、ゴルフへの搭載が待たれていたが、実際に使ってみると、以前に比べてステアリングの修正操作が自然になり、そのぶんクルマの動きも落ち着いたおかげで、より安心して使えるようになったのがうれしいところだ。
また、自動的にロービームとハイビームを切り替えるだけでなく、ハイビーム時に先行車や対向車を認識して照射角度を調整してくれる「ダイナミックライトアシスト」が、夜間のドライブをより安全・快適なものに変えてくれた。
新型の純正ナビ、ディスカバープロは、物理的なスイッチがなくなったぶん、メニューの階層が1つ深くなったものの、特に操作が面倒になったわけではなく、表示そのものは美しさを増し、また、スマートフォンとの連携やテレマティクス機能の充実など、より使いやすくなった。ただ、欲をいえば、地図のスケール調整などには、ハードウエアスイッチがあるといいのだが。
そんな多少気になるところはあるものの、基本性能に磨きをかけるとともに、新機能の投入でますます便利で安心なクルマに進化した“ゴルフ7.5”。コンパクトカーとしての完成度の高さと、その先進性に“ほれ直した”というのが、ゴルフ7オーナーの本音である。
(文=生方 聡/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフTSIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1800×1480mm
ホイールベース:2635mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:140ps(103kW)/4500-6000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91W/(後)225/45R17 91W(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:18.1km/リッター(JC08モード)
価格:325万9000円/テスト車=373万4200円
オプション装備:Discover Proパッケージ(22万6800円)/テクノロジーパッケージ(17万2800円)/有償オプションカラー(3万2400円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(4万3200円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:731km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:262.1km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)※試乗車の都合で給油せず。
参考燃費:12.4km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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