第521回:大矢アキオのフランクフルトショー2017(後編)
ヨーロッパの人が中国車を選ぶ日は近い!?
2017.09.29
マッキナ あらモーダ!
有名なIT企業が参加するも……
第67回フランクフルトモーターショーが2017年9月24日に閉幕した。
今回の入場者数は約81万人。前回2015年の93万1700人からすると、12万人も減ったことになる。主催者は「依然ドイツ最大の来場者数を数えるトレードショー」と結んでいるが、81万人は2015年の東京モーターショーと同規模。今後のあり方が問われるのは必至だろう。
前編で記したように、今回は数々の主要ブランドが欠席を決めた。その印象を薄める意図がどこまであったかは知らないが、代わりに主催者が開幕前から強調したのは「IT系企業の出展」だった。
実際にパビリオンを訪ねてみる。「フェイスブック」は傘下の企業「オキュラス」によるアウディのためのAR(Augmented Reality:拡張現実)ゴーグルを用いた仮想ショールームを展開。クルマとは直接関係ないものの、高齢者をデジタルデバイスに親しませるためのプログラムもアピールしていた。
「グーグル」は提携先であるドイツのソフトウエア企業「SAP」とともにブースを設けていた。両社のクラウドを連携させることによる、クルマと家庭、モバイルデバイスをつなぐシステム構築を提案していた。
ほかにも、「セグウェイ」や中国の自転車シェアリング企業「ofo」の姿も見られた。スタートアップ企業の中には、話題の「空飛ぶクルマ」を展示するものも複数目に付いた。また、スイスの山間部で使用する郵便配達デバイスといった、「自動運転時代の第一歩は、こうした形から」と確信させる、興味深い展示もあった。
しかしながらこうした出展者のブースが、主催者が期待する盛り上がりとは裏腹に、全体的に精彩を欠く、取って付けた感のある内容に終わってしまったのは惜しい。
メディアも反応した中国フィーバー
一方で今回、ヨーロッパ各国の報道機関、それも一般メディアがこぞって報じたのは、中国系自動車メーカーの活気だった。
最も脚光を浴びていたのは初出展の「WEY(ウェイ)」である。WEYは本エッセイ第499回の上海ショー2017でも触れたとおり、長城汽車の新プレミアムブランドである。ファウンダーこそ中国のジャック・ウェイだが、デザインディレクターはアルファ・ロメオ/BMW出身者、CEOのイェンス・シュタイングレーバーは元アウディ幹部と、ヨーロッパ系メーカー出身者で固められている。
今回WEYのスター的存在である「XEV」は、プラグインハイブリッドのSUVコンセプトである。その十分にアグレッシブかつアバンギャルドなデザインは、かなり関係者の関心を引いていた。
奇瑞は、1.5および1.6リッターのSUV「エクシードTX」を世界初公開した。ハイブリッド、プラグインハイブリッド、そしてピュアEVからなる3種の仕様で欧州市場に挑む。まずは数年以内の英国進出を視野に入れているという。
香港に本社、中国南東部に工場を持つ「サンダーパワー」も参加した。この企業が展開しようとしているのは、ピュアEVである。前回の2015年に初出展した際の目玉はザガートデザインによるセダンだったが、今回はミラノにある自社のR&D拠点が開発したSUVを公開した。
メーカーによれば、ドイツのエンジニアリングによるスペースフレームをベースに、アルミや高張力鋼が多用される。当初の生産は中国南東部で行われるとのことだが、サンダーパワーのウェレン・シャムCEOはスペインのカタルーニャ州政府と、現地生産に関する調印をすでに終えている。
中国資本が生かす欧州ブランド
これも2度目の出展だが、前回以上に脚光を浴びたのが、往年のドイツ車ブランドの名前を冠したボルクヴァルトである。
ボルクヴァルトといえば2015年のジュネーブモーターショーでの復活宣言を思い出す。たとえ中国の商用車メーカー・福田汽車の資本であることを知っていても、幻ブランドを復活させたものの、いつのまにか消滅してしまった例を数々見てきたボクとしては、その未来を疑問視したものだ。
しかし、今やボルクヴァルトは、北京郊外の工場に加え、ドイツ・ブレーメンにも生産拠点の設立を計画している。そして「BX5」のプラグインハイブリッドとピュアEV仕様を、ヨーロッパ市場に投入する予定だという。
そもそもボルクヴァルトは、中国系とはいえ、本社所在地は中国国内ではなく、ドイツのシュトゥットガルト。れっきとしたドイツ企業「Borgward Group AG」なのである。
そのボルクヴァルトは今回、「イザベラ コンセプト」を公開した。プレゼンテーションを行ったのは、チーフデザインオフィサーのアンドレアス・ワーミング氏。デンマーク生まれで、かつてMINIおよびBMWのデザイン部門で幹部を務めた人物である。
イザベラとは旧ボルクヴァルトのモデル名にあやかったものだ。リアフェンダーに向かって跳ね上がるラインも、オリジナルのアイコンのひとつを再現したものとワーミング氏は説明する。
プレゼンテーション直後に、BMW時代の元上司で現在はイタリアで後進の育成にあたっているクリス・バングル氏がワーミングに駆け寄り、満面の笑みで祝福したのが印象的だった。そこに漂う空気は、もはや欧州ブランドのそれであった。
「格安車イメージ」は植えつけない
やみくもに中国脅威論を振りかざすのが、冷静さを欠くことなのはわかっている。しかし、経験豊富な人材を国籍問わず積極的に幹部に登用する中国資本のフレキシビリティーとメンタリティーは、いまだに「外国人重役」というだけで話題になってしまう日本の自動車産業とは明らかに違う。
同時に、中国車がヨーロッパに進出するにあたり、インド車やかつての韓国車のような低価格路線ではなく、いきなりプレミアム路線で打って出ようとしていることにも注目すべきだ。
これはリスキーだが、正しい選択だろう。
ボクがイタリアに住み始めた1996年は、こちらではヒュンダイ、キアそしてデーウ(現・韓国GM)といった韓国車は「日本車よりもお買い得な街乗りグルマ」だった。今日、ヒュンダイ・キア連合は、ヨーロッパで月8万台以上の新車登録を記録し、トヨタ、日産はもちろんフォード、FCAさえ抜いてしまう主要プレイヤーである。しかし、依然「消極的に選ぶ、日本車の代替品」という印象を持つカスタマーもいる。そうした「格安車イメージ」を、中国車は一気にスキップしてしまおうというわけだ。
成熟化した欧州諸国における自動車ユーザーの嗜好(しこう)の変化も、中国系メーカーにとっては追い風だろう。
クルマのコモディティー化によって、東欧をはじめとする新興国の工場で作られたモデルにも人々はアレルギーを示さない。裕福な人々も、テスラを見ればわかるように、新興ブランドに新たな価値観を見いだしている。
中国車の世は十分ありうる
もちろん自動車である以上、総合的な判断項目は、乗って走らせた印象、アフターサービスから数年後のリセールバリューまで、多岐にわたる。だが、WEYが量産モデルとして出品した「VV7S」のインテリアの質感や各部のフィニッシュは、明らかに20年前のヒュンダイを凌駕(りょうが)している。
同時にボクは、9年前のパリモーターショー2008に参考出品された、中国・双環汽車のモデルをとっさに思い出した。その室内は安物のプラスチック臭であふれ、デザインは「BMW X5」に酷似していたことから訴訟沙汰になった。メーカーこそ違えど、WEYのレベルは同じ国のプロダクトとはにわかに信じられないものだ。
話は飛ぶがその昔、オーストラリアに日本車初上陸を伝えたテレビニュースに関する記事を読んだことがある。
リポーターは「あなたも、いつか日本車に乗る日がくるかもしれませんよ」と結んだという。GMホールデン、フォードといったアメリカ車ばりのモデルがのさばっていた当時、ちっぽけな日本車を前に、彼はちょっとしたジョークのつもりだったのだろう。しかし後年、日本車はオーストラリア市場で大きなシェアを占めるに至った。冷笑したその先に、想像を超えた展開が待っている場合がある。
過去20年、ヨーロッパで韓国車の伸長を見せられてきたボクである。旧大陸の人々が中国のプレミアムカーを受け入れる日は意外に近いのでは? と、にわかに感じ始めた今回のフランクフルトであった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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