第445回:追求したのは雪上・氷上性能だけにあらず
「ブリヂストン・ブリザックVRX2」の実力を試す
2017.09.29
エディターから一言
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ブリヂストンが発表した新しいスタッドレスタイヤ「ブリザックVRX2」の取材会が、北海道・士別のテストコースを舞台に実施された。雪上・氷上性能の向上に加え、燃費や静粛性、耐摩耗性能までも追求し開発された新製品の実力を試す。
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特殊な日本の冬に対応するために
人が歩くのも大変という冬の路面の上で、体重の何十倍もの重さがあるクルマを走らせようというのだから、それを支えるタイヤは大変だ。どうせ寒いのならば「ずっとカチカチに凍ってくれていれば楽なのに……」と、本人ならぬ“本タイヤ”はきっとそのように思っているはず。
が、厄介なことに日本の冬は、日中には気温が摂氏0度以上まで上昇してしまうところが少なくないし、気温が低いままでも交通量が多く、数多くの車両が頻繁に通過することでやはり表面を溶かしてしまうという、世界でもあまり例を見ない環境が生み出されている。
そんな日本固有ともいえる条件のもとで、特に氷上での滑りの原因といわれるミクロの水膜をいったんトレッド内に吸収し、その上で気温が下がっても硬くなりにくいゴム面を直接路面に接触させることでグリップ力を得よう……というのが、各タイヤメーカーによる日本市場向けスタッドレスタイヤへの基本的な考え方となっている。中でも、内部に細かな気泡を封じ込めた“発泡ゴム”と呼ばれるコンパウンドを技術の主役に据えて挑むのが、1988年に初代モデルを発売して以来、「ブリザック」の名で商品展開を続ける、ブリヂストンの乗用車用スタッドレスタイヤである。
新しいシリカの配合でグリップ力を強化
独自の発泡ゴムについて、「まさにスポンジのようなもの」と表現するのは当のブリヂストンの技術者。ただし、生産の過程で金型に入れて加熱・加圧の後、そうした“スポンジ状態”を形成させるためには、当然通常のタイヤとは異なる技術や設備が必要となる。また、たとえそんな特性を得るための基本特許が時効を迎えたとしても、周辺のさまざまな重要ポイントでパテントを取り続けることにより、このゴムは他社にはまねできない技術であり続けるのだという。
その名も「VRX2」と、2013年に登場した「VRX」の進化型であることを示すネーミングが与えられた今回の新タイヤでは、前述した“ミクロの吸水”によって水分が排除された状態でゴム面が直接路面(氷上面)に触れた際、より高いグリップ力を発揮するという新たな発泡ゴム“アクティブ発泡ゴム2”が採用されたことが特徴のひとつだ。従来のVRXにも採用される、発泡ゴム内の水路や気泡に特殊な親水コーティングを施すことで吸水効果を高めた“アクティブ発泡ゴム”をベースとしながら、新たなシリカを配合することで接地時のグリップが高められている。
すなわち、まずはブリヂストンならではの発泡ゴムの成分を変更することによって、氷上でのグリップ力を高めようとしたのがVRX2というわけだ。
冬タイヤにも燃費と快適性が求められる時代
そんなVRX2では、“タイヤの表情”とも言うべきトレッドパターンも全面的に変更されている。
その目的は、見た目で新しさをアピールするため……ではなく、新しい発泡ゴムの特性をより生かすためというのが開発陣からの回答。「特に高いグリップ力が得られるスリップ率が低い領域で有効な接地性を獲得するため、ブロック倒れを抑制して接地面積のロスを減らすことが基本のコンセプトだった」と言う。
VRXにも採用されていたパターンの非対称デザインはVRX2でも継続。その上で、例えばイン側2列目のブロックに刻まれたV字型のサイプは、片側をコーナリング時のひっかき効果を重視した角度付きとしながら、残る片側は前後方向への倒れ込みを抑制する接地重視のデザインとするなど、全面的なパターン変更が行われている。
また、外側ショルダーブロックのラグ(横)溝本数が増しているのは、氷上面を引っ掻いてグリップ力を得る“エッジ効果”を高めるため。一方で、そのラグ溝の間隔が均一ではないのは、それが乾燥路面を踏み込むことで発生させるノイズの周波数を分散させ、静粛性を高めるための工夫だという。ちなみにブリザックでは、従来型VRXの段階で同社のスタッドレスタイヤとして初めて、「転がり抵抗低減も意識した開発を行った」という。当初は氷上・雪上性能の確保だけで精いっぱいだったスタッドレスタイヤだが、ライフの大半を舗装路上で使うユーザーも増えつつある昨今では、快適性や燃費の重要度も増しつつあるということだ。
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氷雪路はもちろん舗装路もしっかり走れる
北海道は旭川の空港からほぼ真北へ70kmほど。今回は士別市にあるブリヂストンのプルービンググラウンドとその周辺の一般道を舞台に、従来型のVRXや特別に製作された非発泡ゴムを用いたタイヤとの乗り比べを織り交ぜつつ、VRX2のチェックを行った。
氷上旋回路やドームで覆われた氷上直線路など、性能向上が特にアピールされるシチュエーションでのVRX2の実力は、非発泡ゴムを用いた特製タイヤはもちろん、従来のVRXも確かに上回る印象。もちろん、そんな一部だけを切り取ってすべてのリアルワールドでの印象を述べることはできないが、少なくとも今回の条件下では、ブレーキング時の減速感やステアリング操作時の応答性などが、確実に向上していることが認められた。
「内部に気泡を含むコンパウンドを採用」という点から剛性に不安を抱く声も上がりそうだが、「アウディA3セダン」で一部舗装路面が現れた一般道へと乗り出しても、ステアリングの手応えに不安を覚えるような、曖昧な印象を感じることはなかった。
一方で、走行に伴う摩耗に関しては「未知数」と言うしかない部分。ただし、「そもそも、発泡ゴムは内部に油分をほとんど含まないので、経年変化に対しては強みがある」というのがブリヂストンの言い分だ。「氷雪路ではダントツの性能を発揮し、舗装路上ではしっかり走れる“プレミアム・ブリザック”」が、開発の目標だったというVRX2。そんな自信のほどは、開発者とハナシをしている中でも十分に感じとれるものだった。
(文=河村康彦/写真=ブリヂストン/編集=堀田剛資)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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