トヨタ・ハイラックスZ(4WD/6AT)
カムバックに感謝 2017.10.24 試乗記 長く国内販売が停止していた「トヨタ・ハイラックス」が復活。世界を舞台に活躍するピックアップトラックは、日本の道でどんな走りを見せるのか? オンロードとオフロードで、その実力をチェックした。じつは超グローバルカー
13年ぶりの日本復活となったハイラックスは通算で8代目となる。この8代目ハイラックスは2015年5月にまずタイで発売されて、すでに世界的に売られている。現在はタイ以外に、アルゼンチン、ベネズエラ、南アフリカ、マレーシア、パキスタンで生産される超グローバル商品だ。日本仕様は国際的にもハイラックスのメイン工場ともいえるタイから輸入される。
ハイラックスが日本国内で生産・販売されていたのは6代目までだ。その6代目ハイラックスが生産終了した2004年秋に、ハイラックスの国内販売もストップしたが、国際的にはもちろん7代目も存在する。
その7代目ハイラックスがデビューした2004年当時、トヨタは新興国市場を攻略すべく「IMVプロジェクト」を進めていた。IMVとは“イノベーティブインターナショナル・マルチパーパス・ビークル”の略である。IMVは、手頃でタフな独立フレームの共通プラットフォームを新開発して、それを土台に5車種(SUVとミニバン、ピックアップ3種)を派生。それらをアジア、南米、アフリカなどで生産して世界140カ国以上で販売する……という巨大プロジェクトだった。
IMVの目的は大きく2つあった。ひとつは、日本や北米にかたよっていたトヨタの生産・販売体制を、物流や部品供給も含めてグローバル規模に広げること、もうひとつが21世紀のクルマ需要の中心となる新興国でシェアを拡大すること……である。
IMVはそのねらいどおり、年間100万台規模の販売台数を誇るまで成長。近年のトヨタが名実ともに世界トップを争う規模になった立役者である。ちなみに、そんな一大事業のIMVを統括したのが、当時専務だった豊田章男(現トヨタ社長)その人である。
先代モデルとは別モノ
2004年まで売られていた6代目ハイラックスは日本の5ナンバー(商用車なら4ナンバー)枠におさまっていたのに対して、新しいハイラックスはふたまわり以上も大きくなって、全長が5.3m超、全幅が約1.85mもある。堂々たる3ナンバー……というか、ハイラックスは商用登録となるので1ナンバーだ。
ただ、このサイズは先代にあたる7代目からほとんど大きくなっておらず、世界的ワークホースとしては、これが標準的な大きさということだ。5ナンバー枠とはやはり日本特有の特殊なディメンションというほかなく、一度でも国内市場のタガをはずしてしまうと、5ナンバーを維持するのは不可能に近い。
新しいハイラックスはいわば「2代目IMV」であり、前記の車体サイズだけでなく、フロントがダブルウイッシュボーンの独立懸架、リアがリーフリジッドというサスペンション形式も7代目同様である。
しかし、安全・環境・品質の世界基準はこの10年ほどの間に大幅に引き上げられてしまっており、それに対応すべく、このハイラックスではフレームからなにから、7代目とは別物に完全刷新されている。新しいハイラックスは、上級グレード「Z」であれば自動ブレーキ(対歩行者にも作動)や車線逸脱警告もつく。そんなうれしいサプライズも、新開発プラットフォームがあればこそだ。
エンジンにマニアも納得のディーゼルが選ばれたのも、環境基準がグローバルで統一されつつある恩恵だろう。2.4リッター4気筒ターボの「2GD-FTV」型は「ランドクルーザープラド」が搭載する2.8リッター(「1GD-FTV」型)のショートストローク版である。
変速機の6ATも、エンジンともども2代目IMVに合わせて新開発されたもので、新型ハイラックスの心臓部には“新興国向け”という言葉から想像するようなローテク感はまるでない……というか、今どきは、そんな連想は時代錯誤でしかない。
はたから見るよりずっと快適
ハイラックスは過酷な場所での命がけの仕事を想定した道具ではあるが、この種のクルマをカジュアルに乗用ユースする文化も世界的に存在する。よって、ハイラックスの内外装もそれなりに乗用車的な仕上げである。
よじ登るような小高いシートは独立フレームの本格オフローダーのそれだが、インテリアはこれぞトヨタの乗用車というべき意匠だ。しかし、内装調度はすべてハード樹脂であり、各部の素材づかいや質感は、トヨタでいうと「ヴィッツ」とどっこい……のレベルというのが正直なところである。
これを“300万円台半ばのSUV”という目で見てしまうと明確に安っぽいが、この種の仕事グルマは、コストの多くを頑丈な機械のために割り当てるのが最大の使命であって、そこに文句をつけるのはスジがちがう。
もっとも、そうしたなかにもダッシュボードやドアトリムにダミーのステッチを成形で表現するなどの涙ぐましい努力の跡はあるし、試乗車となったZならレザーステアリングにオートエアコン、カラー液晶内蔵のメーター、スマートキー、クルーズコントロール……と普通に思いつく快適装備はあらかたそろう。
後席空間も外から見るよりはずっと快適で、文化的で健康的なものだ。少なくとも2014年に限定販売された「ランドクルーザー70ピックアップ」のような、せまい場所に押し込まれた“兵員輸送感”はほとんどない。絶対空間もCセグメント程度の広さはあるし、シートの座り心地もまずまず快適である。
ハイテクはなくても最強
サスペンションや駆動システムなどの走行メカはあくまで信頼性重視で、凝ったハイテクはほとんどない。4WD機構は普段は2WD、イザというときに直結させる伝統的なパートタイム式。フロントが独立懸架、リアがリジッド……というサス形式はランドクルーザー系と似ているが、リアスプリングは前記のようにトラック然としたリーフである。
電子デバイスも、安価な「X」には普通のトラクションコントロールと横滑り防止装置(これらも悪路用というより現代乗用車の最低限装備)しかついていない。上級Zでも、4WD時に空転輪のブレーキをつまむ「アクティブトラクションコントロール」や、いわゆるヒルディセントコントロールの「ダウンヒルアシストコントロール」、そしてリアデフロックが追加されるのみで、現代のオフロード車としてはシンプルそのものだ。
ただ、クルマの本質的な走破性は、最低地上高とサスストローク量、車体やサスペンションの強度、重心高、駆動輪の結合性による。よって、ハイラックスの悪路走破性は、今回の試乗会で用意されていた“丸太越えコース”でも垣間見えたように、世界でも最上級のひとつだ。
クルマが左右に30度も傾けられると、私のようなシロートだと完全に人間の限界を超えてしまうのだが、ハイラックスはまるで平気である。さすがにときおりタイヤが空転しかけるが、アクティブトラクションコントロールのおかけで、今回のコースではリアデフロックまでは必要としなかった。まだまだ余裕なのだ。
エンジンも驚くほどパワフルではなく、最新のディーゼル乗用車と比較すると、いかにもディーゼル然とした味わいではある。しかし、少なくとも今回の試乗ではパワー不足、トルク不足を感じることは一度もなかった。
運転好きはきっと気に入る
オンロードでの試乗は富士五湖のひとつである西湖周辺の1時間弱にとどまったが、なんとも味わい深いものだった。
日本仕様のハイラックスもあくまで1ナンバー商用車登録のワークホースで、最大積載量500kgを担保する。よって、空荷状態の乗り心地はどんな基準をもってしてもカタい。まあ、フロントはそれなりにしなやかさも感じるが、リアはどうしようもない(笑)。後席も空間としては十二分に乗用車的なのだが、さすがに乗り心地には乗員から文句が出そうだ。
ただ、感心したのはそうした絶え間ない突きあげにさらされても、フレームや車体のどこからも悲鳴のような低級ノイズがまるで出ないことである。乗り心地は悪いが、乗り味に安っぽいガッカリ感はない。
このハードな乗り心地をスポーツカー的なそれ……と前向きにとらえれば、絶対的な操縦安定性は悪くない。ステアリング設定が絶対的にスローなので、操作タイミングには慣れが必要だが、慣れてしまえば、ステアリング反応はリニアで正確。見切りがいいのでクリッピングをピタリと射抜くことも可能である。
また、これはハイラックスにかぎったことでないが、この種の独立フレーム構造は重量物が低い位置に集中しており、見た目の印象より重心はずっと低い。ハイラックスはオフロードでは無敵に近いが、じつはオンロードでも非常に素直に動く。もちろん旋回速度が高いタイプではないものの、運転好きやハンドリングオタクにもけっこう刺さると思う。
トヨタならではのいい仕事
トヨタがハイラックスの国内復活を決めた理由はいくつかあるだろう。
「日本国内では2004年に販売を終了しましたが、主に作業で使用する保有者が現在もなお約9000名いらして、復活してほしいという声を多くいただきました。まず、このようなお客さまにしっかりとお届けしたい」というチーフエンジニアの言葉のように、それなりの代替需要が見込まれることがひとつだ。さらには、前にも書いたように、安全や排ガス基準が世界的に統一されつつあり、日本仕様だからと、かつてのような大規模な改修や対策が必要なくなったこともあるだろう。
しかし、あえてトヨタ応援団的に考えれば、「アヴェンシス」や復刻再販されたランクル70などと同じく「面白いトヨタを世界から」という、いい意味でのトヨタらしいノリが今回も発揮されたと思いたい。
また、トヨタ商法や彼らのクルマづくりに普段はいろいろと賛否両論があるのは否定しない。しかし、ランクル各車、「ハイエース」、「プロボックス」、「クラウンロイヤル」……と、目的が明確で、さらにそれが過酷なときほど、トヨタは本当にいい仕事をする。ハイラックスもそんなトヨタのいい仕事の典型例のひとつだと思う。
ハイラックスはタイからの輸入車であることもあって、パワートレインは1種のみ、グレードもシンプルに2種しかない。細かいメーカーオプションの類いも用意されないので、たとえば「安価なXに、レザーステアリングと自動ブレーキだけつけたい」といった細かい選択が今のところできないのは少し歯がゆい。しかし、四の五のいう前に、まずはハイラックスを日本で復活させてくれたトヨタに感謝すべきだ。
その意味では、気軽な乗用ユースにも適した柔らかい乗り心地の3ナンバー乗用登録車も欲しかったところだが、ぜいたくはいうまい。幸いなことに、国内のヨンク業界もハイラックス復活に沸き立っているようだ。サスペンションパーツなどもあっという間に出てくるだろうから、みずからの創意工夫と好みで仕上げていけばいい。ハイラックスとは本来、そういうクルマである。
(文=佐野弘宗/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
トヨタ・ハイラックスZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5335×1855×1800mm
ホイールベース:3085mm
車重:2080kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:150ps(110kW)/3400rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1600-2000rpm
タイヤ:(前)265/65R17 112S/(後)265/65R17 112S(ヨコハマ・ジオランダーA/T G94)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:374万2200円/テスト車=411万0480円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション T-ConnectナビDCMパッケージ(20万4120円)/ETC2.0ユニット ナビ連動タイプ(3万2400円)/iPod対応USB/HDMI入力端子(9720円)/工場装着バックカメラ用ガイドキット(1万1880円)/TOYOYAデカール(2万0520円)/ドライブレコーダー<DRD-H66>(4万2660円)/フロアマット(3万5640円)/スノー・レジャー用フロアマット<縁高タイプ>(1万1340円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:169km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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