レクサスLS500“エグゼクティブ”(4WD/10AT)
話のわかるヤツ 2018.02.19 試乗記 レクサスのフラッグシップセダン「LS」に試乗。今回のテスト車は、助手席側後席を最上級VIP席とする“エグゼクティブ”仕様。ドイツの御三家とはひと味違う、日本流の“おもてなし”について考えた。好きならしょうがない
レクサスLSが5年ぶりに新しくなった。1989年の「トヨタ・セルシオ」から数えると5代目。2005年に国内にもレクサスチャンネルができて、日本でもレクサスLSとして販売されることになってからは初めてのフルモデルチェンジである。
ニューボディーは悠揚迫らぬ全長5235mm。ホイールベースの大小2本立てはやめ、長いほうに一本化したかたちだ。その結果、「メルセデス・ベンツSクラス」「BMW 7シリーズ」「アウディA8」、いずれの標準ホイールベース版よりも長大なクルマになった。
ブランドアイコンのスピンドルグリルは先代の途中からだが、新デザインは別格の存在感を放つ。たしかにレクサスのフラッグシップ以外に間違えようがない。それにしても、ドレッシーなレクサスのデザイナーは全員この“顔”が好きなのだろうか。好きならしょうがないけど。
パワーユニットも一新された。「LS500」用は今回初出の3.5リッターV6ツインターボ。ハイブリッドは5リッターV8からダウンサイジングして、スポーツクーペ「LC500h」用と同じ3.5リッターV6ベースの電動ユニットを搭載する。
試乗したのは、「LS500“エグゼクティブ”」のAWD。1540万円する最もエライLS500である。
指圧はLSに限る!?
せっかくのエグゼクティブ仕様だから、まずはVIPをもてなす後席を味わう。
センターアームレストをしまうと、横に3人座れなくもないが、上等なレザーシートはクッションも背もたれも左右2人用に画然と成形されている。助手席後ろが最上席である。少し前に乗った新型「アルファード/ヴェルファイア」の「エグゼクティブラウンジ」とは、居住まいがまったく違う。空間の絶対量を誇るアルヴェルに対して、LSは心地よい囲まれ感を与える。
リアとサイドのウィンドウを計7枚の電動サンシェードで覆うと、後席空間は昼なお薄暗い。旭硝子とコラボした切子調加飾パネルの下からは間接照明が漏れ、劇場の緞帳(どんちょう)のようなドア内張りを妖しく照らす。最高級押し入れみたいな秘密めいた閉所感は、大型ミニバンのキャプテンシートにはない。コンベンショナルな乗用車のリムジンにしか出せない世界があるのだなあと、あらためて感じた。
22wayの電動シート調整機構は、VIPのおよそどんなわがままにも応えてくれる。オットマンも標準装備だ。しかし、試していちばんびっくりしたのは“リラクゼーション機能”である。シートに内蔵したたくさんの空気玉が指圧をしてくれる。最強にすると、思わず声が出るほど効く。「目黒のさんま」じゃないが、指圧はレクサスLSに限る、と思ってしまった。アメリカでも“shiatsu”としてアピールしている。しかもこの指圧シートは前席にも備わる。“バージョンL”以上のグレードに標準の“フロントリフレッシュシート”だ。ショーファーももてなすフラットさは、いかにも日本のリムジンらしい。
柔らかさがほしい
1540万円の国産車。よくなくてどーする!? というクルマである。
10段ATと組み合わされる3.5リッターV6ツインターボは422ps。トルクは600Nm。旧型「LS460」用のV8を一蹴する。パワーは、ひとくちに余裕しゃくしゃく。回すとけっこうイイ音がする。ただ、ひとつ気になったのは、エンジンの微(かす)かな振動がステアリングホイールに伝わってくることだ。FF車かなと思わせるこの振る舞いは1540万円らしくない。
エアサスペンションの乗り心地も改善の余地がある。ランフラットタイヤのせいかどうかは不明だが、タウンスピードではややゴツゴツする。フワフワしなくてもいいが、エアサスなら、もう少ししなやかな柔らかさがほしい。車両特性を変えるドライブモードは、「エコ」「コンフォート」から「スポーツ」「スポーツ+」まである。変化シロはそれほど大きくなく、コンフォートでもゴツゴツしている。エグゼクティブならもっと乗り心地の快適性に特化してもいいように思った。
運転支援システムは、トヨタの最新最上級バージョンが載っている。このボディーには限界ギリギリの狭さの拙宅ガレージにバックで入れようとしていたら、一度、自動ブレーキが働いた。「ぶつかるって!」と言われたような気がした。
レーンキープアシスト機能は、一段上の“レーントレーシング”に進化した。白線を出ないのではなく、両側白線の中央を迷いなく走行する。ハンドルから手を放すと、15秒ほどで警告が出て、約30秒で操舵アシストはキャンセルされるが、さらにステアリング入力がない場合、ドライバーが気を失っていると判断して、ハザードとホーンで車外に警報を出し、減速して自車線内に停止するという、新幹線みたいなことになっている。
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安心感がありがたい
セルシオが現役だったころ、大阪の親戚の法事に行くと、お清めの食事の席で知らないおじさんが「いっぺんセルシオには乗ってみたいなァ……」としみじみ語っていた。
レクサスLSはどうだろう。世の中もクルマも変わり、もう中高年のアイドルではないだろう。おじさんがあこがれるには、大きすぎるし、高すぎる。かといって、「センチュリー」のような純粋公用車にはなりきれない。日本製VIPカーとして「和のおもてなし」も取り入れたいが、それがグローバル市場でどこまで通用するのか。豊田章男社長はアルファードに乗っている。ミニバンやSUVがVIPカーのゲームチェンジャーになりつつある、なんていうこともある。そんななかで、最上級レクサスサルーンのポジショニングはつくづくむずかしそうだなと想像する。
でも、この新型LS、乗っていると心地よかった。実際のサイズほど大きさは気にならず、運転しやすい。居心地もいいし、運転のし心地もいい。内外装から乗り味に至るまで、生硬さの残る「LC500」シリーズと比べると、5代続けてきた年の功を感じさせた。ドイツ製ライバルと比べると、具体的にどうこうよりもまず、“日本語が通じる”かのような名状しがたい安心感がありがたい。“わかってくれている”感じがするのだ。
何千万円もする大型高級車に試乗すると、おっかないわ、気が重いわで一刻も早く返却したいと感じるクルマも少なくないが、このクルマはずっと乗っていたいと思った。その心地よさは、けっして指圧シートのせいだけではない。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスLS500“エグゼクティブ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5235×1900×1460mm
ホイールベース:3125mm
車重:2360kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:422ps(310kW)/6000rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/1600-4800rpm
タイヤ:(前)245/45RF20 99Y/(後)245/45RF20 99Y(ブリヂストン・トランザT005)※ランフラットタイヤ
燃費:9.5km/リッター(JC08モード)
価格:1540万円/テスト車=1720万6840円
オプション装備:ドアトリムオーナメントパネル&切子調カットガラス(162万円)/245/45RF20 99Yランフラットタイヤ&20×8 1/2Jノイズリダクションアルミホイール<スパッタリング塗装>(16万2000円)/寒冷地仕様<LEDリアフォグランプ・ウインドシールドデアイサー等>(2万4840円)
テスト車の年式:2017年式
テスト開始時の走行距離:1490km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:502.6km
使用燃料:69.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/9.4km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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