実は日本発祥の技術!?
3Dプリンターにやどる無限(?)の可能性
2018.02.28
デイリーコラム
部品の生産が打ち切られるのは仕方ない?
ポルシェがクラシックモデル向けにパーツを供給する手段として、3Dプリンターを活用するというニュースがあった。まず9つのパーツが製造され、さらに20の部品についても製造が検証中だという。現在供給されるクラシックパーツは約5万2000点(!)なので、これはほんの一部にしか過ぎない。しかし、今回の製造部品の中には「ポルシェ959」という超希少車の欠品パーツも含まれるから、クラシックポルシェのユーザーにとっては朗報といえるだろう。
一般的に、自動車メーカーのパーツ供給の“期限”は10年前後と言われており、当然、それを過ぎれば多くの部品が入手困難という現実に直面する。メーカー側にとって、旧型車の部品供給にともなう負担は想像するよりも大きい。かかる費用はパーツそのものの管理費だけではなく、製造に必要となる金型の保守など、供給体制の維持コストも決してばかにならないのだ。増え続ける新型車の部品管理だけでも大変だというのに、年々ニーズが減る旧型車のパーツにまでコストを回せないというのが実情だろう。
また、旧型車の部品には時代に応じてさまざまな材料や素材が用いられていることから、素材の側の製造終了により供給が打ち切られる例もある。つまり、部品がいずれなくなるのは必然なのである。そんな現状の中、欠品パーツの新たな生産方法として3Dプリンターが注目されているわけだ。
元をたどれば日本発祥の技術
では、3Dプリンターとはいったい何なのか? 簡単に言えば、3次元データをそのまま立体物として出力(プリント)できる機械である。金型や加工などといった既存の製造プロセスを必要とせず、データさえあれば望むものが手に入るというわけだ。以前は試作品の製作など、開発や研究の段階で活躍していたが、近年は設計プロセスのデジタル化に加え、3Dプリンターの事業に多くの企業が参入したことで開発が急速に進み、さまざまな用途で使われるようになった。
意外かもしれないが、3Dプリンターの歴史は1980年に日本人の小玉秀男氏が発明した光造形法に端を発する。ただ、世界初の3Dプリンターを商品化したのは米国のチャック・ハル氏であったため、3Dプリンターはかの地を中心に発展していくことになった。2010年代になると、基礎特許が切れたことで参入メーカーの拡大やマシンの低価格化などが実現。今では個人でも、安価な3Dプリンターを手に入れることも可能となっている。
素材についても、すでに樹脂だけでなく金属にも対応。金属部品の製作には粉末焼結法と呼ばれる工法が用いられており、粉末状の金属にレーザービームを当てて焼結させることで形をつくる。ポルシェの場合は、本来ねずみ鋳鉄製だった959用クラッチレリーズレバーを、粉末状の工具鋼を焼結させることで製造。完全にコピーされたレリーズレバーは、3t近い負荷をかけた圧力試験と、その後の内部欠陥を調べる断層撮影法による検査をクリアしたという。さらにポルシェは、テスト車両による実地試験と徹底的な走行試験も行い、「完璧な品質と機能が確認された」としている。
幅広い分野に広がる可能性
このほかにも、3Dプリンターの自動車産業における可能性を示す例として、2018年1月にブガッティが3Dプリンターで製造したチタン製ブレーキキャリパーを発表している。これも粉末焼結法で製造されたもので、その引張強度は1250N/平方ミリメートルと、強固なアルミ合金である超々ジュラルミンの2倍もの引張強度を誇るという。もちろん実装を前提としており、2018年上半期中の車両テスト開始が予告されている。加工の難しいチタンを3Dプリントしてしまうというのは新しい発想といえるだろう。
ただし、3Dプリンターも決して万能でなく、コストと製造時間などを考えると大量生産には不向きであり、すべての部品の製造に3Dプリントの利用が適しているわけでもない。しかしながら、他の製法でも同等の加工費がかかるチタンのような素材をはじめ、“一品もの”や少量生産、設計物の素早い製品化など、有利な面も大きい。
2013年、当時の米国大統領だったオバマ氏に「あらゆるモノづくりに革命をもたらす」とまで言わしめた3Dプリンターには、製造業だけでなく医療や宇宙開発など、さまざまな分野への応用にも大きな期待が集まっている。ただ、われわれクルマ好きが期待するのは、大切なマイカーの欠品パーツを3Dプリンターで自作するという未来の到来だろう。しかしながら、強度や安全性などを考慮すると、メカニカルなパーツについては、ポルシェのようにメーカーによる3Dプリントサービスの普及に期待した方がよさそうだ。
(文=大音安弘/写真=堀田剛資)

大音 安弘
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