ポルシェ・パナメーラターボS(4WD/7AT)【海外試乗記】
ポルシェの流儀 2011.08.09 試乗記 ポルシェ・パナメーラターボS(4WD/7AT)……2481万円
ポルシェの4ドアサルーン「パナメーラ」に追加されたハイエンドモデル「ターボS」にドイツで試乗。その実力はいかほど?
パワーアップの秘密
衝撃的だったデビューから2年が経過した「ポルシェ・パナメーラ」のラインナップに新たに追加されたのは「パナメーラターボS」。ポルシェの流儀をよくご存じの方なら、その名を聞いただけでどんなモデルか、おおよそ想像がつくはずだ。そう、従来の「ターボ」をしのぐハイパフォーマンスを実現した新たなるハイエンドモデルの登場である。
「パナメーラターボ」では最高出力500ps、最大トルク71.4kgmを発生する4.8リッターV型8気筒直噴ツインターボエンジンは、「ターボS」でそのスペックを最高出力550ps、最大トルク76.5kgmへと向上させている。しかも、標準装備されるスポーツクロノパッケージ・ターボで「スポーツ」もしくは「スポーツプラス」モードを選択するか、ノーマルモードでもキックダウンを行った場合にはオーバーブースト機能が働き、最大トルクはなんと81.6kgmにまで引き上げられるのだ。
それを可能にしたのが軽量なチタニウム・アルミ合金製タービンホイールを用いた新しいターボチャージャーの採用である。重量を50g削り取り、慣性力を50%も低減することでレスポンスが向上。それに合わせてエンジンマネージメントを変更することで出力アップも実現したという。しかも、燃費は変わらずに、である。
大幅なパフォーマンス向上に伴い、シャシーにも手が入れられている。駆動方式はアクティブ制御式4WDのPTM(ポルシェ・トラクション・マネージメントシステム)。アダプティブエアサスペンション、電子制御式ダンパーシステムのPASMは言うに及ばず、PDCC(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール)と呼ばれる可変スタビライザー、後輪左右のトルク配分を制御するPTV Plus(ポルシェ・トルク・ベクトリング・プラス)などが、すべて標準で備わる。タイヤサイズはフロントが255/40、リアが295/35の20インチ。「ターボ」と比較するとトレッドも拡大されているが、これはホイールスペーサーの追加によるものだ。
パナメーラターボSの安くはない車両価格には、実はこれら「ターボ」ではほとんどがオプションとなるアイテムを、「ターボS」では標準装備としていることも反映されている。単にパワーアップ代ではないのである。
その他の専用装備としては、ポルシェエクスクルーシブ製のサイドスカート、アダプティブリアスポイラーのボディ同色化、専用のツートーンレザーインテリア等々を挙げることができる。ともあれパナメーラターボSは、およそ望まれそうな装備をはじめからほぼすべて備えているのだ。
速く静かになった
誰もが興味を抱くのは、その差は本当に実感できるものなのかということだろう。早速、全開加速を試みると、恐ろしく速いと感じたパナメーラターボをしのぐ勢いで回転計の針が上昇し、顔が引きつるほどの勢いで巨体がダッシュ。実際に真横に並べて比較したわけではないが、体感的には明らかに速い。
実際、0-100km/h加速は「ターボ」の4.0秒をさらに短縮する3.8秒をマーク。タイム自体も「911ターボ」の3.7秒に匹敵する速さだが、この体躯(たいく)と質量での加速だけに、迫力は大いに上回るのである。
この途方もないパワーを、シャシーは完全に受け止めている。ロールは不気味なほどに抑えられており、スタビリティは高速域まで不満ナシ。しかし、ここまで速いとPCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)はマストと感じる。どうせだから、これも標準装備で良かったのでは?
乗り心地は「ターボ」とそう変わらないが静粛性、特に従来は、ここだけ「911」のようだったロードノイズが明らかにマイルドになった。ちょっと寂しくはあるが、快適なのは間違いない。
「V6」より安い「ディーゼル」もアリ
今回は同時に「パナメーラディーゼル」にも乗ることができたので、簡単に報告しておこう。「カイエンディーゼル」と同じ3リッターV型6気筒直噴ターボユニットは最高出力250ps、最大トルク56.1kgmを発生。PDKではなく8段ティプトロニックSが組み合わされ、後輪を駆動する。エンジン高がかさむため、フロントドライブシャフトを通す場所がないのである。
入念なチューニングを行ったというサウンドは、始動時からポルシェにふさわしいスポーティな響きを聞かせる。ディーゼルでもやればここまでできるのかとうならされる仕上がりだ。無論、トルクは余裕たっぷりで、しかもトルコンATのスムーズさもあって、走りは上質なスポーティさを感じさせる。悪くない。
エアサスペンション装着だった試乗車は乗り心地も上々。PDCCは備わっていなかったが自然なロール感はかえって好ましく思えた。後輪駆動の軽快感もプラスにつながっていたように思う。250km/h前後の速度域ではまた違ってくるのだろうけれど……。
当然、燃費は上々で欧州NEDCモードでは6.5リッター/100km(リッター当たり約15.4km)を達成している。つまり80リッターの燃料満タンで1200kmを走破できるのだ。しかも現地の車両価格は8万183ユーロと、パナメーラV6(PDK仕様)よりわずか50セントだが安い。コレ、日本に導入されたら欲しいと真剣に思ってしまった。
「最高」を求める人に
すべてが最高でなければ気が済まないオーナーのために、サルーン最速の座に輝く「ターボS」を用意すると同時に、おそらくヨーロッパでは今後、販売の主力となるであろう「ディーゼル」を投入したパナメーラは、これで計8モデルを擁することとなった。ニーズに合わせたきめ細かなラインナップ設定はポルシェの得意技だ。
「ターボ」より実に395万円高となる2481万円のプライスタグを掲げる「ターボS」にも、絶対くすぐられるオーナーはいる。現「ターボ」オーナーは横に並ばれたら我慢できないだろうし、新たに買おうという人も、どうせ色々オプションを載せるなら最初からコレと考えても不思議じゃない。
そんなふうにエクストラコストを支払えば、それに見合ったものが確実にもたらされるというのがポルシェの流儀である。いかにも商売上手ではあるが、それも長年にわたってユーザーとの約束を守り続けてきたからこそできることなのだ。
(文=島下泰久/写真=ポルシェジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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