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第431回:これは走るダイエットフードだ! デミオでわかった「スカイアクティブ」の本質

2011.08.08 小沢コージの勢いまかせ! 小沢 コージ
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第431回:これは走るダイエットフードだ!デミオでわかった「スカイアクティブ」の本質

イイのは燃費だけじゃない?

いやはや久々感動しました。「マツダ・デミオ ハイブリッド」……じゃなかった「マツダ・デミオ 13-SKYACTIV」(汗)。
これまでの常識をひっくり返す、世界最高の高圧縮比14:1を達成したノンハイブリッドエコカーで、先日試乗会にようやっと行ってきたわけだけど、最初はてっきり燃費の良さをアピールしてくるとばかり思ってたのね。例の、10・15モード燃費=リッター30km。

そしたら、開発主査の水野成夫さんは言うんだわ。
「デミオはね、低燃費技術だけじゃないんですよ。とにかく楽しいクルマにしたつもりなので見てください」。

最初は……え? と思いましたね。燃費をアピールしてくると思ってたのに、走りだなんて。ローカロリーをうたいつつ、味をアピールするビールのようなもんですわ。最近の清涼飲料水はみんなそうだけど……。

でも、乗った瞬間わかりました。なるほど……こうきましたか、と。ステアリングは切りだした瞬間から軽さとダイレクト感があって、なおかつ旧型にあった若干無理矢理なクイックさはない。その辺は同じダイレクトフィールでも国内ベストセラーの「ホンダ・フィット」とは味が違っていて、デミオの方がタッチがより繊細で、FR車っぽい。

それとエンジンだよね。「スカイアクティブG 1.3」と名付けられた新エンジンは、これまでの1.3リッター直4に比べ、排気量が50cc小さくなったこともあって、数値上は最高出力で6ps、最大トルクで0.8kgm落ちているけど(「13C-V」比)、それはさほど感じられない。

それはトルクカーブのカタチとエンジン音の妙で、トルクが回転数に応じてリニアに積み上がっていくのと、以前あった4000rpm付近のコモリ音を取り去ったおかげ。
「これはロードスターから学んだんです。あの開発も私がやりましたけど、パワーは絶対値も大切ですが“出し方”も大きいので」。
うーむ、なるへそ。水野さん、いいマッサージ師になりそうだわ。気持ちのいいポイントわかってます(笑)。

マイナーチェンジとともに登場した、「マツダ・デミオ」の新グレード「13-SKYACTIV」。燃費に配慮した専用設計のエンジンを搭載する。
マイナーチェンジとともに登場した、「マツダ・デミオ」の新グレード「13-SKYACTIV」。燃費に配慮した専用設計のエンジンを搭載する。 拡大

第431回:これは走るダイエットフードだ! デミオでわかった「スカイアクティブ」の本質の画像 拡大
これが1.3リッターの高圧縮型ガソリンエンジン「スカイアクティブG 1.3」。青いエンジンカバーが、特別なエンジンの証しだ。
これが1.3リッターの高圧縮型ガソリンエンジン「スカイアクティブG 1.3」。青いエンジンカバーが、特別なエンジンの証しだ。 拡大

まさに、魔法のダイエット料理

でも一番驚いたのは、スカイアクティブと他のエコエンジンとの違いに言及した時だ。
ハイブリッドにはEV走行、欧州のダウンサイジング+ターボには、低回転時の異様な極太トルクと“乗ってすぐわかる個性”があるけど、スカイアクティブにはないのでは? とたずねると――
「アクセルが踏めるんです、スカイアクティブは。今までのエンジンは踏み込むと燃費が極端が悪くなってましたよね。エコランプが消えて、『ガマンしろ、それが今の世の中だ』っていうくらいに。圧縮比14:1の世界は、その問題を解決したんです」。

そう、スカイアクティブエンジンは全域で効率がいいために、昔みたいなパワー領域で過剰に燃料を消費しない。
要は「食べても太らない」料理というか「食べながら痩せる」ダイエットのようなもので、水野さんによれば「アクセルを8分の7くらいまで踏んでもOK」らしい。ほとんど全開と同じであり、まさに踏んで、多少回してもガソリンを食わないクルマなのだ。その上デミオには、パワー感はないがそれなりの美味しさがある。食べて美味しく、しかも太らない……まさに魔法のダイエット料理のようではないか!!

一応、試乗会でちょっとだけ燃費計で計ってみたが、峠を30分ぐらいアップダウンしてもリッター16km台をキープ。詳しくはまた試してみたいが、特にアクセルの動きが激しいワインディングで強そうだ。

実はこれこそマツダがやりたかったことで、おそらくマツダはエコで勝負しないのだ。というか「一応」エコで勝負するのだけど、そこから「味」に持って行くつもりなのである。つまり、エンジンの気持ち良さや、ハンドリングの軽さ、シャープさなどである。

インテリアの様子。パッと見は、他のデミオと変わりなし。マイナーチェンジでは、ハザードスイッチやエアコン噴出し口の意匠が変更された。
インテリアの様子。パッと見は、他のデミオと変わりなし。マイナーチェンジでは、ハザードスイッチやエアコン噴出し口の意匠が変更された。 拡大
シート地もリニューアル。乗り心地を向上させるべく、リアサスのブッシュにも手が加えられている。
シート地もリニューアル。乗り心地を向上させるべく、リアサスのブッシュにも手が加えられている。 拡大

マツダは自分がわかってる

ここからは全くの私見だが、おそらくマツダは単純にエコ一本だとハイブリッド勢やダウンサイジング+ターボ勢に負けると踏んでいるんだと思う。それはいろんな走行シチュエーションを含む絶対燃費もそうだし、会社の規模的にもそう。

それと、乗ってつくづく思ったが、やはりスカイアクティブに走ってすぐわかる個性はない。もちろん、今回の「デミオ 13-SKYACTIV」には多少不利な点があって、ベースが既存車種であるがゆえスペース的にすべての技術を投入できず、例えば、4-2-1の排気系の代わりに「クールドEGR」というシステムを入れた。結果、希望どおりの「15%増しのトルク」は得られてない。

従って、今後はさらに開発が進められ、トルクも燃費もいい、スカイアクティブ本来の姿が見られるはずだが、それでもわかりやすいとは言い難い。「いや、俺ならわかる」という人もいるだろうが、それは少数派だろう。つまり、燃費はよくても、それだけでは弱い。
それもあって、「エコ」だけでなく「エコからつながる楽しさ」に持っていこうとしている気がするのだ。しかもそれは、今まで言い続けてきたマツダのZoom-Zoom戦略にも見事つながるし。

俺は今回のデミオを見て、逆に今の自動車産業の厳しさを感じてしまった。ちょっとしたひとつの技術アドバンテージ、具体的にはスカイアクティブ技術をもってしても、それだけでは簡単に勝てないし、生き残れない。長い目でみた場合、もっと自分の血となり肉となる進化を遂げなくてはいけないし、今までの自分の価値観につながり、さらにそれを伸ばすものでなくてはいけない。
ホームランバッターは足が速くなることよりも飛距離を伸ばした方がいいし、アベレージヒッターは、長打を増やすよりもバントヒットを増やした方がいい。

そういう点で今回のガソリンスカイアクティブはよくできてるし、見事だと思った。エコ度が高いだけでなく、それが“踏んで楽しい”“走って楽しい”というマツダらしさにもつながるのだ。
おまけにシンプル構造で得た車重の軽さと140万円という値段の安さは、ラゲッジが広いなど他の魅力を持つライバルに対するアドバンテージにもなるわけで、申し分がない。

つくづくスカイアクティブえらし!
実際、新型デミオは発売後1カ月で予定の倍の1万3500台を受注したという。今後はユーザーから漏れ伝えられる実燃費のウワサ次第で、着実に伸びていくはずだ。
マツダさん、この調子で頑張ってね〜。俺も、自分の個性を考えて頑張りまっせ(vv)

(文=小沢コージ/写真=小沢コージ、webCG)

サイドビュー。14インチのホイールサイズは他の1.3リッターモデルと変わらないが、そのデザインは「13-SKYACTIV」専用となる。
サイドビュー。14インチのホイールサイズは他の1.3リッターモデルと変わらないが、そのデザインは「13-SKYACTIV」専用となる。 拡大
メーターの右端に置かれる、「i-DM(インテリジェント・ドライブ・マスター)」のモニター。「i-DM」は、各種センサーから得られたデータを元に“運転の良しあし”を表示するシステムで、ドライバーにムダやムラのない(=燃費に良くて、同乗者にもやさしい)運転を促す。
メーターの右端に置かれる、「i-DM(インテリジェント・ドライブ・マスター)」のモニター。「i-DM」は、各種センサーから得られたデータを元に“運転の良しあし”を表示するシステムで、ドライバーにムダやムラのない(=燃費に良くて、同乗者にもやさしい)運転を促す。 拡大

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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