“48V”でクルマが変わる!
メルセデスの新型直6エンジンに注目せよ
2018.03.23
デイリーコラム
ポイントは電圧高めの電源システム
2013年夏、自動車部品サプライヤーの取材でドイツを訪れたときのこと。メインのテーマは自動運転だったが、それ以外にも実用化間近の技術に触れるチャンスがあって、私にとってはとても有意義な時間になった。
そのとき、12V電源の代わりに48V電源を搭載する試作車に乗る機会があり、さまざまなメリットがあることを実感した私は、48V電源システムの実用化、そして、日本で運転できる日を楽しみにしていた。
あれから5年、ついにその日がやってきた。メルセデス・ベンツが新開発のM256型直列6気筒エンジンを積む「S450」を追加。これに48V電源システムが搭載されていたのだ。
S450では、通常の12V鉛バッテリーに加えて、48V電源として1kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。さらに、48Vで動作するモーターをエンジンのクランクシャフトと同軸に組み込み、スターターとオルタネーター(発電機)の役割を持たせた。メルセデスはこれを「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター:一体型スターターオルタネーター)」と呼んでいる。
ところで、最近のクルマでは、オルタネーターでの発電を減速時に積極的に行い、運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する「エネルギー回生」を行うものが増えている。そこで回収された電気は、アイドリングストップ後にエンジンを再始動するときなどに使われるのだが、電源システムの電圧を12Vから48Vに上げると、より効率的にたくさんの電気を回収できる。S450の場合も、ISGのモーターはオルタネーターとして最大10kWの発電が可能。さらに、従来の鉛バッテリーの代わりに大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載することで、より多くの電気を蓄えておくことができるようになった。この電気によって、最高出力16kW、最大トルク250NmのISGを動かし、発進や加速の際にエンジンをアシストすることも可能だ。
拡大 |
始動の瞬間から違いがわかる
走行中にアクセルをオフにしたときに、エンジンを停止して“コースティング”するのもS450の特徴だ。コースティングというと、これまではクラッチを開放することでエンジンブレーキが利かないようにするだけで、そのあいだエンジンはアイドリングを続けていた。その点、S450はエンジンをオフにできるので、燃料消費をさらに抑えることができるというわけだ。
そういう意味では、簡易ハイブリッドと呼べそうだが、モーターだけで走行できないという理由から、メルセデスとしては“ハイブリッド”という言葉は使っていない。なんて潔いのだろう。
48V電源は、ISG以外にもエアコンのコンプレッサーやウオーターポンプの駆動などにも使われ、これにより補器類のベルト駆動が不要になった。エアコンに電動コンプレッサーを使うおかげで、エンジンが停止していてもエアコンが作動し続けるというメリットもある。
さらに、通常クランクシャフトから取り出した動力で空気を圧縮するスーパーチャージャーを48Vの電気駆動式として、メインのターボチャージャーをアシスト。これにより、ターボが苦手とする低回転域でも、必要な過給が行えるようになった。
こうした新技術を盛り込むことで、S450のパワートレインはとても魅力的な仕上がりを見せている。それはエンジン始動の瞬間からすぐにわかるもので、素早くスムーズにエンジンがスタートする。同様にアイドリングストップ後のエンジン再始動にも効くわけで、これまでアイドリングストップを煩わしく思っていた人には特に効果的だ。モーターによる制御でアイドリング時の振動も低減。しかもアイドリングの回転数は520rpmと低く抑えられる。
低回転からの加速も、ISGと電動スーパーチャージャーのおかげで、実に素早く力強い。走行中にコースティングに入ったあと、アクセルペダルを軽く踏むだけで間髪入れずにエンジンが再始動するから、加速が出遅れることもない。これで、従来のM276 V6エンジンに対して17%の燃費低減が図られているというのも見逃せない。
ガソリンエンジンの魅力をさらに高めながら、時代の要望の応える高効率を実現したM256型直6エンジン。日本ではまだこのS450だけの搭載だが、採用モデルの拡大に期待したい。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
拡大 |

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
あの『ナイトライダー』が現実に!? 開発が進む「パートナーのようなクルマ」の今を知る 2026.7.3 最新の「メルセデス・ベンツSクラス」には、クルマがパートナーのように寄り添うAI技術が盛り込まれているというのだが……その到達点は? 他メーカーの例も交え、先進技術が可能にするクルマの今と近未来を考える。
-
環境も走りも妥協しない ミシュランが目指す持続可能な次世代のビジョンを知る 2026.7.2 2030年までにタイヤのエネルギー効率を2020年比で10%改善し、2050年には100%持続可能なタイヤを実現することを目指すミシュラン。そのサステナビリティー戦略の基本的な考え方と、実現に向けたアプローチを探った。
-
ホンダのビーチクリーン活動が20年の節目に 本田宗一郎が涙したというそのルーツとは? 2026.7.1 ホンダが陰に日向にと活動を支えてきたビーチクリーン活動が2026年で20周年を迎えた。これ自体も素晴らしいが、実はホンダとともに活動を運営する団体の設立には、かの本田宗一郎氏の涙が関連しているというから興味深い。今から60年前の人間味あふれるストーリーを紹介する。
-
気づけば増えた軽のBEV 多くのメーカーがそこに商機をみるわけは? 2026.6.29 勢いに乗るBYDや新興EMTが、日本国内への軽EV投入を相次いで宣言。ガラパゴス化しているといわれた軽自動車の世界で、国内・海外問わず電動モデル投入の熱が高まっているのはなぜか? その背景を探ってみよう。
-
アルファ・ロメオやDS、マセラティの未来やいかに? ステランティスが発表した新戦略を読み解く 2026.6.26 再起を図るステランティスが、新CEOのもとで新しい次世代戦略を発表。地域主導とブランド構成の再構築を軸とした改革によって、私たちが親しんだアルファ・ロメオやDS、マセラティなどはどうなるのか? 欧州通のジャーナリストが考察する。
-
NEW
プジョー5008 GTハイブリッド アルカンターラパッケージ(後編)
2026.7.5思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「プジョー5008」に試乗。後編ではいよいよパワートレインとシャシーの仕上がりについて深く切り込む。雨のワインディングロードで5008は、レジェンドドライバーにどんな印象を残したのだろうか。 -
スズキ・ハスラー ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2026.7.4試乗記スズキの軽クロスオーバーモデル「ハスラー」のマイナーチェンジモデルが登場。愛らしいフロントマスクにお化粧直しが施されたほか、先進運転支援装備が一段と充実。さらに走行性能の強化も図るなど、そのメニューは盛りだくさんだ。「ハイブリッドX」グレードのFFモデルに試乗した。 -
あの多田哲哉の自動車放談――ホンダN-ONE e:L編
2026.7.3webCG Moviesホンダの軽「N-BOX」を高く評価する、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さん。では、軽EVの「ホンダN-ONE e:」は……? 試乗した印象を聞きました。 -
スズキ・ジムニーシエラJC(4WD/4AT)【試乗記】
2026.7.3試乗記俺の「ノマド」まだかな? とソワソワしている人が多いかもしれないが、実は既存の「ジムニー/ジムニー シエラ」もひっそりと進化を果たしている。とりわけ大きいのはアダプティブクルーズコントロール(ACC)の搭載だ。シエラの4段AT車でその仕上がりを試した。 -
あの『ナイトライダー』が現実に!? 開発が進む「パートナーのようなクルマ」の今を知る
2026.7.3デイリーコラム最新の「メルセデス・ベンツSクラス」には、クルマがパートナーのように寄り添うAI技術が盛り込まれているというのだが……その到達点は? 他メーカーの例も交え、先進技術が可能にするクルマの今と近未来を考える。 -
ハーレーダビッドソン・ナイトスター(6MT)
2026.7.3JAIA輸入二輪車試乗会2026ハーレーダビッドソンの水冷Vツインモデル「ナイトスター」に試乗。「X」シリーズのディスコンに空冷「スポーツスター」の復活と、さまざまな情報が飛び交っているハーレーの入門モデル群だが、ナイトスターの未来やいかに? 走りながら考えた。

