そこにはどんなメリットが!?
「三菱i-MiEV」が軽自動車を“卒業”した理由
2018.04.25
デイリーコラム
全長が軽規格からはみ出した
2018年4月19日に発売された電気自動車(EV)の「三菱i-MiEV」の改良モデルが、にわかに脚光を浴びている。なんと、今回のマイナーチェンジによって登録車、つまり白ナンバーになっているのだ。軽自動車のままでいた方が、メリットがずっと多いように思えるのだが……。一体、どんな事情があるのだろうか。
今回の改良は主にエクステリアを対象としたもので、前後バンパーとサイドスカートの形状を変更している。これにより全長が85mm延長され、新たなボディーサイズは、全長×全幅×全高=3480×1475×1610mmとなった。軽自動車規格はボディーサイズが全長×全幅×全高=3400×1480×2000mm以下と決まっているので、ボディーが長くなった結果として、軽自動車を卒業することになったのである。
EVらしい改良も行われており、新たに「電池高温時お知らせ機能」を追加している。これは高負荷運転を続けて駆動バッテリーの温度が高くなったときに「いま急速充電を行うと充電時間が長くなってしまいますよ」と教えてくれるというもの。一般的に公共の急速充電器は、最大30分の時間制限が設けられている。そのため、電池が高温のときに充電すると、駆動バッテリー保護のため、同じ30分でも充電量が少なくなってしまうことをユーザーに教えてくれるお役立ち機能だ。ほかにも、ボディーカラーを追加設定したり、グレード構成を見直してバッテリー容量の多い「X」に一本化したりしている。
ちなみに価格は従来型比で+21万3840円の294万8400円と、こちらもだいぶ立派(?)になっている。さらに、小型自動車になったことで、税金や高速料金といったさまざまなランニングコストもアップしてしまう。見た目と電池高温時お知らせ機能以外は変わっていないので、乗車定員は4人のままだ。
拡大 |
大きくなったのは歩行者保護のため
i-MiEVが小型自動車となった背景には、道路運送車両の保安基準の改正によって強化された、歩行者頭部および脚部保護基準への適合がある。対歩行者安全性強化のために、フロントバンパーの形状を変更する必要があった。その形状がどうしても軽自動車規格に収まりきらなかったため、小型自動車として新たなスタートをきることになったのだった。
この変更により、i-MiEVは本来の姿になったともいえる。新たな前後バンパーは、軽自動車枠に縛られない欧州仕様のデザインで、デザイナーが仕上げたかったスタイルそのものとなっているのだ。これに専用ワイドボディーを持つ北米仕様のサイドスカートを組み合わせることで、より安定感のある、日本独自仕様のスタイルとなっている。
i-MiEVは2016年12月末に、内装の質感向上やパドル式回生レベルセレクターの採用、充電中の空調使用機能追加といった、大規模な改良を受けている。この時点でボディーの拡大を行わなかったのは、やはり軽自動車であることをできる限りキープしたかったからのようだ。新基準はこの春から適用されている。
拡大 |
三菱がi-MiEVをあきらめない理由
安全性が高められたのは朗報だが、価格の上昇幅がちょっと大きすぎるのではというのが正直なところ……。ここにi-MiEVの置かれた厳しい状況が垣間見える。
2017年の国内における販売台数は、なんと153台。グローバル(日本を含めて世界52カ国)を含めても、わずか485台にすぎない。これにはグループPSAにOEM供給しているぶんは含まれていないが、それでも総数は推して知るべしだ。母数が少ないため、わずかな改良でも価格に転嫁せざるを得ないのであろう。
もっとも、この程度しか売れないのでは“やめる”という選択肢もあったはずだ。軽規格から外れ、価格も大幅にアップしたのでは、2018年の見通しも明るいとはいえない。それでも販売を継続するのは、三菱のEVの象徴という役割があるからだ。世界初の量産EVを送り出したパイオニアとして、ラインナップから乗用EVを外すわけにはいかないのだという。
この言葉を額面どおりは受け取れないが、販売を継続するメリットを見いだすとすれば、世界を駆けるi-MiEVのデータが、未来への大切な資産となるという点だ。三菱の益子 修CEOも軽EVの開発を継続していることを明らかにしており、将来的には新たな軽規格のEVが登場するだろう。その“新型”には日産・ルノーとのアライアンスによる量産効果も期待できるため、価格的にもより身近なものとなるはずだ。次世代にバトンを渡すまで、i-MiEVは走り続ける。
(文=大音安弘/写真=三菱自動車/編集=藤沢 勝)
拡大 |

大音 安弘
-
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探るNEW 2025.12.4 「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
-
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相 2025.12.3 トヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。
-
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと 2025.12.1 2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。
-
2025年の“推しグルマ”を発表! 渡辺敏史の私的カー・オブ・ザ・イヤー 2025.11.28 今年も数え切れないほどのクルマを試乗・取材した、自動車ジャーナリストの渡辺敏史氏。彼が考える「今年イチバンの一台」はどれか? 「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の発表を前に、氏の考える2025年の“年グルマ”について語ってもらった。
-
「スバル・クロストレック」の限定車「ウィルダネスエディション」登場 これっていったいどんなモデル? 2025.11.27 スバルがクロスオーバーSUV「クロストレック」に台数500台の限定車「ウィルダネスエディション」を設定した。しかし、一部からは「本物ではない」との声が。北米で販売される「ウィルダネス」との違いと、同限定車の特徴に迫る。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。

































