KTM790デューク(MR/6MT)
いうなれば肥後守 2018.04.28 試乗記 オフロード競技をはじめとしたさまざまなモータースポーツに参戦し、ロードモデルもトガったキャラクターが目を引くKTM。しかしニューモデルの「790デューク」は、“KTMらしさ”を感じさせながらも、バイクの基本を学べる懐の深い一台に仕上がっていた。扱いやすいが、油断は禁物
KTMのブランニューモデル「790デューク」には、“THE SCALPEL”というキャッチコピーがつけられている。“メス”を意味するその言葉によって、切れ味鋭いシャープなハンドリングが表現されているわけだが、どちらかといえば“肥後守(ひごのかみ)”だと思う。使用用途が広く、ガシガシと使えるという意味で。
と言われても世代によってはピンとこないかもしれない。この原稿を書いているまさに今、となりに座っている30代女子に「肥後守って知ってる?」と聞いてみたところ、「なにかの神様ですか?」という逆質問を受けたので、少なくとも40代以上じゃないとこの例えは通じないらしい。鉛筆を削ったり、バルサ板を切ったり、竹とんぼを作ったりと、なんにでも使えた小学生必携の小刀が肥後守だ。
刃を収納できる折り畳み式のため、軽量コンパクトでなにかと使い勝手がいいというところも790デュークに通じるが、だからといって雑に扱っていると痛い目にあう可能性があるところも似ている。その一例が台湾のマキシスと共同開発された専用タイヤだ。「スーパーマックスST」と名づけられたそのスポーツラジアルは、十分なグリップ力を発揮する一方、グリップ“感”や接地“感”といった感覚性能と旋回力はもうひと踏ん張りといったところ。車体の軽さゆえ、ついイケる気になってしまうのだが、肥後守を調子に乗って振り回しているとパチンと刃が閉じて指を切ってしまうのと同じ。タイヤの限界が不意に訪れる可能性があるため、油断は禁物だ。
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アシの調律に見る“KTMらしさ”
エンジンはよくしつけられている。KTM初の並列2気筒ユニットには75度の位相クランクが与えられ、そのまろやかな不等間隔爆発が心地いい。スロットルレスポンスやトラクションコントロールの介入度、最高出力などが変化するライディングモードは、スポーツ/ストリート/レインの3パターンがデフォルトで設定され、トラックモードを選べば各パラメーターの制御レベルを自分好みにカスタマイズすることも可能である。
特にスロットルレスポンスの変化は分かりやすい。最もダイレクトなスポーツモードには過敏な領域があるが、それを越えれば105psの最高出力を積極的に引き出すことができる。対極にあるレインならそれがグッと穏やかになり、スムーズな加速感を演出。ラフなスロットルワークもある程度許容してくれる。
KTMらしいのは、つまりオフロードやスーパーモタードを得意とするメーカーらしいのは、足まわりの設定だ。フロントフォークにアジャスト機構はなく、リアもプリロード調整のみだが、ストローク量はフロント140mm、リア150mmとロードスポーツにしてはたっぷりと確保され、それによって高い路面追従性がもたらされている。
もちろん“足が長い”ということはそのまま足着き性に影響する。実際、825mmというシート高は決して低くはない。ただ、オプションのローシートを装着すれば805mmまで、ローシャシーキットを追加すれば780mmまで下げられるほか、ハンドルは前後に4段階、角度を3段階動かせるため、身長や体格によって乗り手が著しく制限されることはないはずだ。
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バイクの基本を教えてくれる
エンジン同様、フレームにも新しい試みが見られる。KTMのストリートモデルはネイキッドであれ、アドベンチャーであれ、1台の例外もなくクロームモリブデン鋼のトレリスフレームが採用されてきたが、790デュークには簡素なダイモンドフレームが与えられ、エンジンにも応力を持たせる構造に変化した。
ハンドリングを語る上でこの影響はかなり大きい。これまでのKTMは「1」の入力に対して「1」か、それ以上に反応するソリッドな動きを見せていた。ところが、790デュークのそれは「1」に対して「0.95」といったところ。明らかに穏やかで、反応に余韻のようなものがあるのだ。そのため、ブレーキングで高い減速Gを与えたままコーナーにねじ込むと、車体は「イヤイヤ」をするようにねじれるものの、そのインフォメーションは分かりやすく、想定外の動きはしない。
エンジンもフレームもサスペンションも、限界域を引き上げるというよりは、誰もが90%のポテンシャルに到達できるようにバランスよく引き下げているのが790デュークだ。そう思うと、やはり790デュークと肥後守は似ている。道具を扱うことの基本と、なにをすれば危険なのか。それを少ないリスクで教えてくれるという意味で共通性があるからだ。メスや日本刀でそれを学ぶわけにはいかない。
思えばKTMのモデルラインナップはかなり極端だった。ざっくり言えば小排気量のシングルか、大排気量のツインかのどちらかで、その中間にあった690ccのシングルは乗り手を選ぶストイックなモデルでもあった。その点、790デュークは小排気量と大排気量をつないでくれる存在としても広がりがある。KTM=なにかと激しめ。そういうイメージを変えてくれる優しいモデルがこれだ。
(文=伊丹孝裕/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1475mm
シート高:825mm
重量:169kg(乾燥重量)
エンジン:799cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:105ps(77kW)/9000rpm
最大トルク: 87Nm(8.9kgm)/8000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.4リッター/100km(約22.7km/リッター、WMTCモード)
価格:112万9000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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