マツダCX-5 25S Lパッケージ(4WD/6AT)
出し惜しみはしない 2018.05.07 試乗記 フルモデルチェンジから1年余り。「マツダCX-5」に早くも手直しが入った。新規技術を惜しむことなく、矢継ぎ早に投入していくのが“現在”のマツダ流。その進化のほどやいかに!?2.5リッターガソリンエンジンに気筒休止機構を搭載
マツダのクルマづくりの根幹をなすコンセプトである「スカイアクティブ・テクノロジー」を全面的に採用して登場したのは2012年のCX-5が最初だ。同テクノロジーのうち、最もわかりやすくわれわれユーザーに訴えかけてきたのは、「スカイアクティブ-D」ことクリーンディーゼルエンジンといえる。それ以前にも日本市場にクリーンディーゼル車は存在していたが、ほとんどは輸入車で高かったため、一部の人向けの域を出なかった。それをマツダが人気カテゴリーのSUVにアフォーダブルな価格で採用したため、多くの人々がディーゼルに目を向けるきっかけとなった。
その後、多くのモデルにディーゼルを設定したこともあって「ディーゼルのマツダ」「マツダ=ディーゼル」という印象が強まった。マツダが望む以上に。中長期的に見ればこの先いつまでディーゼル車を販売することができるかわからないし、そもそもビジネスをするうえで、どんなに優れた商品や技術であっても、ひとつに頼りすぎるのはリスキーだ。なので「ガソリンも結構いいんですよ、うち」ということを訴えるのが当面の課題になっている。
その一環として、今回のCX-5へのマイナーチェンジではガソリンエンジンに手が入った。2.5リッターエンジンに気筒休止機構を付けて燃費向上を図ったのだ。例えば1.25リッター2気筒エンジンで事足りる負荷がかかっている場合、2.5リッター4気筒を半分の力で動かすよりも、1.25リッター2気筒を全力で動かすほうがポンピングロスが少なく、また発熱も少ないために効率が高い。このことを利用して、低負荷時に外側2気筒の燃料噴射や点火を止める機能を備えた。ドライバーが切り替えられるわけではなく、負荷に応じて自動的に連続的に切り替わる。
実用燃費が5%向上
2気筒を休止した場合、効率はよくても音と振動は増える。気筒休止している間の音と振動が気になるというよりも、切り替えの際の変化を乗員が不快に感じる可能性がある。このためエンジニアはフライホイールに振り子の原理を利用した部品を備えることで、切り替え時の変化を打ち消した。別の機会に乗った媒体向け広報車には、2気筒なのか4気筒なのかをリアルタイムで表示するモニターが装着されていたのだが、そのモニターを見ない限り切り替わるタイミングはわからなかった。
気筒休止によって、カタログ燃費は変わらないものの実用燃費が5%程度向上したとマツダは胸を張る。ほんのりと「じゃカタログ燃費ってなんだよ」という気持ちがわいてくるが、もちろんこれはマツダのせいではない。
最近は過給機付きエンジンか、ハイブリッド/プラグインハイブリッド車に試乗することが多いので、自然吸気エンジンだけを搭載したクルマに乗るのは久しぶりだ。アクセルペダルを深く踏み込むと、高回転まで気持ちよく回り、スピードも必要にして十分なだけ得られる。昔よく味わったフィーリングという印象だ。ただ、これが例えば最近多い2リッター直4ターボエンジンなら高回転まで吹け上がるのを待たずともすぐに必要なスピードに達する。それに慣れてしまい、昔「伸びやか」と感じていたフィーリングを「まどろっこしい」と感じるようになってしまった自分がいる。もっとほかに2.5リッター自然吸気ならではのよさはないものかと考えながら試乗したが、明確なものは見当たらなかった。
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「CX-8」にも劣らぬ高級感を手にした
流行の3列シートを備えたSUVとして登場した「マツダCX-8」は、雑誌やウェブサイトの記事によれば、ハンドリングや乗り心地のよさ、それに静粛性の高さといった面で軒並み高評価を得ている。自分で乗ってみてもそう感じた。そして今回のCX-5にも似たようなフィーリングを感じた。あちらはディーゼルしか設定されないのでパワートレインの印象は比べられないが、ステアリングを切ったときの気持ちよさに似たものを感じた。こう曲がりたいと考えて操作すると、その通りに曲がってくれる。路面からの入力のいなし方も上質で、ガツンという低級な突き上げはなく、かといって単にソフトというのとも違うので、速く走らせてもゆっくり走らせても心地よい。CX-8ほどではないが、静粛性もマイチェン前のCX-5より向上していた。
細かくいえば、CX-5のプラットフォームはCX-8のそれとは異なる。CX-8のものは北米で販売している「CX-9」と共通で、よりコストがかかっているという。けれど、新しいCX-5はCX-8と比べても遜色のない高級感を得た。何がそうさせているのか、乗っても話を聞いてもはっきりとはわからないのだが、どこかに手を入れたか、生産の技術が向上したか、そういう小さなことの積み重ねか……とにかくよくなっているのは事実だ。しかも特別敏感な人じゃなくてもそう感じられるレベルだ。
ガマンがブランド価値を高める
近ごろのマツダはフルモデルチェンジからたった1年しかたっていないモデルにもどんどん手を入れる。また手を入れてもさほど販売増を見込むことができない末期モデルであっても惜しみなく手を入れる。少し温めてマイナーチェンジやフルモデルチェンジまで待ってドーンと採用したほうが目新しさを感じてもらえるのではないかと想像するが、そういうことをできるだけしないのだそうだ。
それから、モデル末期でもほとんど値引きをしない。末期モデルのローン金利をドーンと下げ、それを知らせる張り紙を店舗のガラスに何十枚も張ったり「値引きキャンペーン中」といったのぼり旗を道路脇にしつこいほど立てたりしたい気持ちをグッとこらえ、販売店と協力し、黒い店舗で、澄ました顔で接客することに決めたのだそうだ。これを続け、昔のマツダのイメージを知っている消費者の比率が下がれば下がるほど、スカしたカッコいいメーカーとして認識されるだろう。青い看板の、ユーカーランドというスーパー銭湯みたいな中古車店の呼称もだんだんなくなるのだろうか。急激なイメージチェンジに複雑な思いもないではないが、上り調子のメーカーを見ているのは気持ちよい。
話が拡散してしまったので戻そう。自分が買うことを想定してみると、CX-5のスタイリング、パッケージ、ハンドリングはグッド。これでエンジンがガソリンしかないとしたら、それが理由で購入をやめてしまうことはないが、実際にはもっと魅力的なディーゼルがあるので約30万円高くてもそちらを選ぶ。今回のマイナーチェンジでトルクアップを果たしたし。約30万円高いことがつらければ、装備を落としてでもディーゼルを選ぶ。しかしあなたは私ではない。ガソリンも悪いわけではないので「両方試乗して、見積もり見比べて選ぶべし」というしかない。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
マツダCX-5 25S Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1840×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1620kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:188ps(138kW)/6000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:14.2km/リッター(JC08モード)/13.0km/リッター(WLTCモード)、10.2km/リッター(市街地モード:WLTC-L)、13.4km/リッター(郊外モード:WLTC-M)、14.7km/リッター(高速道路モード:WLTC-H)
価格:326万7000円/テスト車=342万9000円
オプション装備:Boseサウンドシステム+10スピーカー(8万6400円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)/360°ビューモニター+フロントパーキングセンサー<センター/コーナー>(4万3200円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2920km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:296.2km
使用燃料:33.4リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:8.9km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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