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第80回:新型マツダCX-5(後編) ―デザイン至上主義はもうおしまい? ストイックだった“魂動”の変節―

2025.08.13 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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いよいよ発表された3代目「マツダCX-5」。ちょっと見は現行型とよく似ているが、実際にはかなり異なるイメージで仕上げられている。
いよいよ発表された3代目「マツダCX-5」。ちょっと見は現行型とよく似ているが、実際にはかなり異なるイメージで仕上げられている。拡大

ストイックすぎたマツダのデザイン開発に、揺り戻しが起きている? マツダが発表した、失敗が許されない新型「CX-5」。その“ちょっと普通”な造形に、カーデザインの識者はなにを見いだしたのか? ニューモデルにみる「魂動デザイン」の変節を読み解いた。

前編に戻る)

前編に続き、まずはフロントまわりの話から。新型「CX-5」の顔まわりは、前に張り出したバンパーロアと、にらみの利いたヘッドランプ、その下の隈取(くまどり)的な意匠などにより、かなり押し出しの強いイメージとなった。
前編に続き、まずはフロントまわりの話から。新型「CX-5」の顔まわりは、前に張り出したバンパーロアと、にらみの利いたヘッドランプ、その下の隈取(くまどり)的な意匠などにより、かなり押し出しの強いイメージとなった。拡大
現行型(写真左)と新型(同右)のボンネットのアウトラインの比較。現行型がシュッと流れ落ちるようにノーズへ向かっていくのに対し、新型はフードの高さを保ちつつ、前寄りの箇所で強い丸みを帯びてノーズへと向かっていく感じだ。
現行型(写真左)と新型(同右)のボンネットのアウトラインの比較。現行型がシュッと流れ落ちるようにノーズへ向かっていくのに対し、新型はフードの高さを保ちつつ、前寄りの箇所で強い丸みを帯びてノーズへと向かっていく感じだ。拡大
前編でも紹介した新型「CX-5」のデザインスケッチ。上の写真とは画角が異なるのでわかりづらいが、ヘッドランプまわりの張り出しを隠すと、ノーズに至るボンネットフードの流れは、むしろ現行型に近いのがわかる。
前編でも紹介した新型「CX-5」のデザインスケッチ。上の写真とは画角が異なるのでわかりづらいが、ヘッドランプまわりの張り出しを隠すと、ノーズに至るボンネットフードの流れは、むしろ現行型に近いのがわかる。拡大
ほった「なんか、ドイツの高級SUV的なオラオラデザインに寄った感じがして、そこは複雑な気分なんですが」 
清水「俺は割と好きだけどね。それに、お客がこういうのを求めているのは事実だから」
ほった「なんか、ドイツの高級SUV的なオラオラデザインに寄った感じがして、そこは複雑な気分なんですが」 
	清水「俺は割と好きだけどね。それに、お客がこういうのを求めているのは事実だから」拡大

いろいろあって、こうなった

webCGほった(以下、ほった):前回は新型CX-5の顔まわりをめぐって、やや否定派のわれわれと、肯定派の清水さんが鋭く対立したわけですが(笑)。

渕野健太郎(以下、渕野):そ、そうでしたっけ?

ほった:まぁまぁ。こういうのは煽(あお)ってナンボですから。それはさておき、ワタシは新型の顔も、デザインスケッチの段階ではすごくキレイだったと思うんですよ。

清水草一(以下、清水):これはこれで、スッキリかっこいいよね。

ほった:ところが渕野さんがおっしゃってたように、実車はラッセル車になっちゃった(笑)。スケッチのままなら10年たっても「イイネ!」がついたと思うんですけど、実車のほうはなんか、オラオラ顔がもてはやされる今どきの受けを狙ったというか、ドイツ御三家のドヤ顔SUVを横目で見て描いたような気がしたんです。渕野さんは「衝突安全とかの要件でこうなったんじゃ?」とのことでしたが、マーケティングや営業から横やりが入ったってことは、考えられませんか?

渕野:その辺はわかりませんけど、実車のこの形は、やはりデザイナーの本来の狙いとは違うとは思います。というのも、自分がそれを感じるのは、実はこのフロントバンパー部だけではないんですよ。

クルマってシルエットのアウトラインが重要なんですけど、CX-5のフロントまわりを観察すると……こうしてクオータービューで見たときに、ボンネット上部のアウトラインが、新型は割と丸いでしょ? 先代はこのシルエットがかなりシャープだったんですけど、新型は丸い。

ほった:地味だけど、結構違いますね。

渕野:丸いのが悪いというわけではないんですが、これも当初のデザインスケッチを見ると……そっちでは割とシャープだったんですよね。デザイナーの意図ははたしてどちらだったのか? そのあたりを考えると、いろいろあってこうなったんだろうなぁと思うんです。あくまで推測ですけれど。

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求む、新しい個性

渕野:そういう点も含めてですけど、この新型CX-5には“修正感”みたいなものが感じられるんですよ。これまでマツダのデザインって、すごくストイックで、あんまりそういうものはなかったんですけど……。何度も言いますけど、他の国産車に比べると新型CX-5も断然レベルは高いんですよ。でも、それ以上にマツダデザインの期待値は高いので。

ほった:渕野さんもそうですし、「魂動デザイン」が顕現して以降のファンもそうでしょうしね。

清水:いやー。これくらいは許してあげてもいいんじゃない?

渕野:いやいや。許すというか、糾弾しているわけではないんで(焦)。確かに以前のマツダは、デザイン的にストイックな反面、商品性を犠牲にしていた部分があったんでしょう。前回清水さんが言われたように、もっと押しの強さというか、充実感が欲しいみたいな要望もあったかもしれない。新型CX-5は、そういうところを補完したんだと思います。それをどうこう言うつもりはないですよ。ないんだけど、マツダ最大のポイントだったボディーサイドの面づくりまで、割と普通にしてしまったのは、どうしても気になる。

ほった:やはり、そこに戻りますか。

清水:そうは言っても、これ以上ウネりを増やすのは無理では?

ほった:“流デザイン”のころみたいに、サイドがビラビラになっちゃったりして。

清水:あっちにいくよりは、いったんスッキリ系に戻した新型に賛成だな。

渕野:ただ、それもあって全体にはやっぱり“普通”に感じられるんですよ。ほかの箇所を見ても、新型CX-5は「マツダEZ6/6e」のように、真っすぐなショルダーラインを受けたリアまわりをしていますよね。要は“矢印”みたいなイメージになっている。でもそれも、割と普通のやり方なんです。これがマツダの個性になるかというと、疑問ではあります。セダンのEZ6/6eのように、リアまわりが逆スラントまでしていれば個性にもなるけど、厚みのあるSUVでは、あそこまで角度はつけられませんし。

ほった「こうして見ると、新型は現行型から変わっていないようで、ずいぶん変わっているんですね」 
清水「ボディーサイドのウネりもなくなっちゃったし、特徴的なキャビンの寸詰まり感というか、凝縮感もずいぶん薄れたね」
ほった「こうして見ると、新型は現行型から変わっていないようで、ずいぶん変わっているんですね」 
	清水「ボディーサイドのウネりもなくなっちゃったし、特徴的なキャビンの寸詰まり感というか、凝縮感もずいぶん薄れたね」拡大
本文で触れられた“流デザイン”……正式には「“Nagare(ながれ)”コンセプト」とは、マツダが2000年代後半に取り入れたデザインコンセプトだ。自然界の流れを模したというフォルムやボディーサイドの模様が特徴だったが、市販車に魅力的なかたちで落とし込むのは難しく、長続きしなかった。
本文で触れられた“流デザイン”……正式には「“Nagare(ながれ)”コンセプト」とは、マツダが2000年代後半に取り入れたデザインコンセプトだ。自然界の流れを模したというフォルムやボディーサイドの模様が特徴だったが、市販車に魅力的なかたちで落とし込むのは難しく、長続きしなかった。拡大
長安マツダの新型BEVセダン「EZ-6」。エッジの効いた真っすぐに伸びるショルダーラインの先端に、“背中”のラインとリア面のラインが収束する、矢印のようなイメージが取り入れられている。逆スラントしたリア面の意匠も特徴的だ。
長安マツダの新型BEVセダン「EZ-6」。エッジの効いた真っすぐに伸びるショルダーラインの先端に、“背中”のラインとリア面のラインが収束する、矢印のようなイメージが取り入れられている。逆スラントしたリア面の意匠も特徴的だ。拡大
同様のモチーフは新型「CX-5」にも用いられているが、こちらはやや表現が控えめ。そもそもこうした矢印型のイメージは、カーデザインではそれほど珍しいものではないので、この程度では“個性”と表せるほど印象には残らない。
同様のモチーフは新型「CX-5」にも用いられているが、こちらはやや表現が控えめ。そもそもこうした矢印型のイメージは、カーデザインではそれほど珍しいものではないので、この程度では“個性”と表せるほど印象には残らない。拡大

全体的に、少しずつフツーになった

清水:僕はリアもいいと思いますけどね。テールゲートの中段がへこんでるじゃないですか。このへこみがステキ。くびれというか。

ほった:くびれ具合なら「トヨタ・ハリアー」のほうが上ですけどね。独創的って意味では、現行のプリケツのほうが、ほかに例がなかったような気がします。

渕野:そうなんですよね。前のCX-5は、フロントの流れに対してリアが丸くて、塊感重視でつくられていました。いっぽう今回の新型は、ちゃんとフロントやサイドの流れがリアまで通っているんですけど、これはやっぱり、割と普通のやり方なんです。マツダに対する期待値からすると……。

清水:ひたすら期待が高い(笑)。

ほった:マツダもつらいですね(笑)。

渕野:それと、リアまわりではボディーとリアゲートの段差感もちょっと目立ちます。

清水:え?

渕野:(写真を指して)ここの段差です。前型もこういう段差はありましたけど、リアコンビランプまわりやその下に広くつながる上面部があって、一体感、塊感の印象がとにかく強かった。それが、新型はそういうところがないんで、段差が目立つようになった感じです。そういうところも、やや“普通のクルマ”なんですよ。何度も言いますが、それが悪いってことじゃないんだけど。

ほった:うーん。全体として、前のは理想原理主義でやりすぎちゃったから、揺り戻しがきた感じなのかも。

渕野:新型もシルエットを意識しているのはよくわかるんで、自分がやっても多分こんな感じになるかなと思います(笑)。むしろ前型のCX-5みたいな“塊”は、なかなかつくれない。それに対して新型は、普通につくった感じなんですね。

清水:確かに、初代「トヨタ・ヴィッツ」に対する2代目ヴィッツ的な雰囲気はあるかも。

ほった:傑作の次は難しいですからねぇ。

新型「CX-5」のリアクオータービュー。フロントマスク同様、新型ではリアまわりのイメージも現行型から刷新された。
新型「CX-5」のリアクオータービュー。フロントマスク同様、新型ではリアまわりのイメージも現行型から刷新された。拡大
ほった「まぁでも、テールゲートのくびれ具合なら『トヨタ・ハリアー』のほうが強烈ですけどね」
ほった「まぁでも、テールゲートのくびれ具合なら『トヨタ・ハリアー』のほうが強烈ですけどね」拡大
現行型「CX-5」の魅惑のお尻。丸みを帯びたリアまわりの強烈な一体感、塊感は、他のモデルにはないCX-5ならではの特徴だった。
現行型「CX-5」の魅惑のお尻。丸みを帯びたリアまわりの強烈な一体感、塊感は、他のモデルにはないCX-5ならではの特徴だった。拡大
テールゲート下部にある、ボディーやバンパーとの段差。従来型の「CX-5」にも段差はあったのだが、そちらでは強い一体感や塊感を覚えさせる上部に目が誘導され、新型のようには目につかなかった。
テールゲート下部にある、ボディーやバンパーとの段差。従来型の「CX-5」にも段差はあったのだが、そちらでは強い一体感や塊感を覚えさせる上部に目が誘導され、新型のようには目につかなかった。拡大
新型「CX-5」のサイド/リアのデザインスケッチ。テールゲート下部をオーバーハング状にすることは、このころから考えていたようだ。
新型「CX-5」のサイド/リアのデザインスケッチ。テールゲート下部をオーバーハング状にすることは、このころから考えていたようだ。拡大

今の時代は外見より中身?

渕野:ただ内装を見ると、やっぱりだいぶ車格が高くなっていますね。実際に座ってみないと本当のところはわかんないですけど、例えばディスプレイ。マツダって今まですごく小さかったでしょう。さすがに、今のクルマの機能を考えるとあれじゃ無理なので、大きくなってます。逆に物理スイッチが減ったから、そこを問題視してる人もいますけど。

清水:中高年としては大問題ですね(笑)。

ほった:物理スイッチは、ある程度残っていればいいんじゃないかな。全部取っ払っちゃうとテスラになっちゃうけど(参照)。

渕野:そこらへんは最近のトレンドそのままですけど、マツダらしい質感の高さが感じられるし、シートの立体感もすごく高そうです。これってデザイナーだけじゃなく、優秀なサプライヤーがいるからこそできるんですよ。めちゃくちゃ高いクルマのシートみたいでしょ? 背もたれのつなぎ目の部分も、デザイナーが描いた線そのまんまみたいなカチッとした感じに仕上がってる。すごく優秀なサプライヤーだと思いますよ。そういうところも含めて、写真で見る限り内装は質感がスゴい。今の時代、クルマは内装が重要ですよ。外装なんて乗り込んじゃったら見えないから(全員笑)。

清水&ほった:いやいやいやいや(笑)。

渕野:内装は移動中ずっと目に入るけど、外装は乗降時の5秒くらいしか見ない。マジで(笑)。われわれは、その5秒に命を賭けてきましたけどね。

清水:われわれカーマニアも、ガワのカッコに命賭けてきましたよ! 正直、内装は二の次どころか五の次くらいだな。だって人に見せない部屋の中だもん。

ほった:ワタシも部屋と私用PCの中身は、人には見せられません。

清水:でしょ?

渕野:でもね、今は一般的には内装重視ですよ。マツダの内装はどんどん質感が高くなっている。そこが重要だということをよくわかってるし、しっかりコストをかけてるんです。

ほった:なるほど。

清水:われわれもマツダを見習うべきか。

ほった:取りあえずは部屋の片付けから始めましょう。

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=マツダ、newspress、webCG/編集=堀田剛資)

新型「CX-5」のインストゥルメントパネルまわりのデザインスケッチ。ずいぶん奥まった位置にメーターが描かれているが、当初はハンドルの上からメーターを見る、トップマウントメーターのレイアウトも検討されていたのだろうか?
新型「CX-5」のインストゥルメントパネルまわりのデザインスケッチ。ずいぶん奥まった位置にメーターが描かれているが、当初はハンドルの上からメーターを見る、トップマウントメーターのレイアウトも検討されていたのだろうか?拡大
実車のインストゥルメントパネルまわり。大型のタッチスクリーンがインパネの手前に配置され、センターコンソールからはそのコントロールパネルが排された。
実車のインストゥルメントパネルまわり。大型のタッチスクリーンがインパネの手前に配置され、センターコンソールからはそのコントロールパネルが排された。拡大
ステアリングホイールや液晶メーターなど、運転席まわりの様子。このあたりのインターフェイスも、既存の車種とは大きく変わっている。
ステアリングホイールや液晶メーターなど、運転席まわりの様子。このあたりのインターフェイスも、既存の車種とは大きく変わっている。拡大
既存のモデルでも、内装の仕様を豊富に用意しているマツダ。新型「CX-5」ではどのようなバリエーションを用意してくれるのか。今から楽しみだ。
既存のモデルでも、内装の仕様を豊富に用意しているマツダ。新型「CX-5」ではどのようなバリエーションを用意してくれるのか。今から楽しみだ。拡大
それにしてもスゴいのが、シートのこのつくり込み。平滑な面にキリッとした縁のライン、カチッとした立体感を生み出す嵌合(かんごう)部の凹凸の角度などなど、柔らかい生地とクッションでできているとは思えぬ精緻さである。
それにしてもスゴいのが、シートのこのつくり込み。平滑な面にキリッとした縁のライン、カチッとした立体感を生み出す嵌合(かんごう)部の凹凸の角度などなど、柔らかい生地とクッションでできているとは思えぬ精緻さである。拡大
ほった「……で、新型『CX-5』はよいデザインだったんですかね? 悪いデザインだったんですかね?」 
清水「その辺の結論は、高邁(こうまい)なる読者諸氏の判断に任せよう」
ほった「……で、新型『CX-5』はよいデザインだったんですかね? 悪いデザインだったんですかね?」 
	清水「その辺の結論は、高邁(こうまい)なる読者諸氏の判断に任せよう」拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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