トレンドの発信は日本から!?
「ルノー・カングー」誕生20周年に思うこと
2018.07.16
デイリーコラム
日本への初導入は2002年
ルノーのMPV「カングー」の誕生から今年で20年を迎え、それを記念した限定車「ヴァンタン」(フランス語で20歳の意味)が発表された。まぶしいルージュのボディーカラーが印象的な限定車の仕様は世界共通となっているが、特別装備のデカールやシート装飾、インテリアの差し色などは、日本で販売されているカングーからヒントを得たものなのだそうだ。グローバルで販売される限定車にそれほどの影響をおよぼすとは、カングーにとって日本とは一体どんなマーケットなのだろうか。その背景には、日本で独自に開花したカングー文化がある。
まずはカングーの歴史を振り返りたい。カングーが誕生したのは、1998年のこと。コンパクトなボディーながら、特徴的な背高デザインとすることで優れた積載性を確保した多目的車として開発された。商用ニーズを担うこともあり、そのクラスを超えた積載力はカングーの伝統のひとつとなっている。
日本導入は2002年から。5ナンバーの扱いやすいサイズと愛嬌(あいきょう)のあるデザイン、それでいながらしっかりと実用性が確保されている点が、日本人がイメージするフランス車に見事に符合し、すぐに人気車となった。健気(けなげ)さを感じさせるキャラクターは、日本の“カワイイ文化”に通じる点があったといえる。「フィアット500」や「フォルクスワーゲン・ニュービートル」などが日本でヒットしたのと同じ感覚といえば分かりやすいかもしれない。さらにフランス車らしいところとして、実用車でありながら機敏な走りが楽しめるのも魅力であった。結局、デビューイヤーは約800台が販売された。この数字は、当時の日本における、ルノーの販売台数の約3分の1を占めるものだった。
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大きくなってより便利に
2009年から日本に導入された2代目(現行型)カングーは“デカングー”と呼ばれるほどにサイズアップ。BセグメントからCセグメントへとステップアップした。小柄さこそカングーの美徳というファンも多く、当初は否定的に見られることもあったが、大型化によるメリットはやはり大きかった。居住性や積載性が向上したこと、愛らしいスタイルが継承されていたことで、次第に評価が高まり、結果的にユーザー層は拡大。今日の隆盛へとつながっている。
しかし、この隆盛はカングーの商品力強化のみが要因ではなく、本国にはない特別仕様車を設定するなど、日本独自の販売戦略によるところも大といえるだろう。それを代表するのが、色に重点を置いた限定車「クルール」シリーズだ。カタログどころか本国にも設定のないボディーカラー、時には「ピンク」といった個性的なカラーをチョイスし、カングーの持つポップなキャラクターを強調。多くの人々の心を捉え、過去に出たシリーズはいずれも即完売となっている。
こうした、ある意味“ニッチ”な特別仕様車が実現したのは、もともとが商用車であるため、さまざまなカスタマイズに応じる必要があるルノーの生産体制を活用できたためだ。クルール以外にも、特別なボディーカラーを採用した限定車は過去に数多く販売されており、そのすべてを把握するのは困難と思えるほどである。
シンプルなグレード構成のカングーにさまざまな限定車を続々と投入することで、その世界に広がりを持たせた。この独自の取り組みが、日本独自のカングー文化の基礎ともなったといえる。
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家族の一員のように愛されている
そのカングー文化の成長に大きく貢献したのが、2009年に始まった公式ファンミーティング「ルノー・カングー・ジャンボリー」だ。ルノーとユーザーの結び付きを強めるだけでなく、ユーザー同士が交流を深める機会でもある。今年で10回目を迎え、第1回に約250台だった参加車両は、今年は1373台にまで拡大。山中湖畔に集結した。筆者もここ数年、取材に足を運んでいるが、会場は実にアットホームで和やかなムードに包まれており、他の自動車イベントとはどこか違った空気が漂っている。
毎年、取材を通じて感じているのは、オーナーたちのカングーに対する強い愛だ。単なる移動手段というよりは、家族の一員、まるでペットのような感じで扱われている。その思いの発露ではないかと思えるのが、それぞれのカングーにカスタマイズが施されているところだ。
アルミホイールやルーフキャリアといった大がかりなアイテムから、ステッカーなどのワンポイントの場合までさまざまだが、いずれにしても「うちの子を見て!」と言わんばかりに、自分だけのカングーであることを示すように工夫を凝らしている。こうした文化が、冒頭の20周年記念限定車に反映されているのである。
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日本市場からの要求で設定された装備
そんな日本のユーザーとカングーとの熱い関係は、本国フランスからも注目されている。実は欧州での販売は商用仕様が7割を占めている。そのため、乗用仕様の販売拡大を狙う本国では、日本市場が大いに気になるようなのだ。年間の世界販売17万台のうち、日本で売れるのは2000台程度とはいえ、乗用カングーのみでマーケットが立派に成立している、稀有(けう)な国なのだから。
そして、その成果はすでに出ている。それが2016年に追加された6段EDC(デュアルクラッチ式AT)だ。4段AT車の生産終了が決定した際、AT仕様が販売の主力であった日本市場が、他のルノー車に導入され始めていたEDCを搭載したカングーの開発を熱望。この要望は見事に聞き入れられ、商品化と相成った。その後このEDC車は欧州でも展開され、全体の10%を占めるまでになる。わずかな数字ともいえるが、それ以前はAT車の比率がゼロに近かったのだ。つまり日本の声が、新たなニーズを掘り起こしたのである。
現在は日本でも好調な「トゥインゴ」に販売首位の座は明け渡しているが、カングーは、今なお日本でのルノーの看板であり、現在も販売の約3分の1を占めている。また、日本において単一車種が1000台規模で集まるイベントを行えるのは、カングーのほかには「マツダ・ロードスター」くらいのものである。
そんなオーナーたちの熱意が海を越え、遠い本国に届き、新たなカングーにフィードバックされるというのは、なんとも愉快ではないか。日本では自動車文化が……という声があるのは事実だ。しかし、日本のカングーオーナーたちの、あたかもペットを愛するようなクルマとの接し方は、立派な独自文化といえるのではないだろうか。この文化を海の向こうに拡散することができれば、第2、第3のカングー・ジャンボリーが生まれる……かもしれない。
(文と写真=大音安弘/編集=藤沢 勝)
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藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
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