第180回:あの秒殺男がリフトのドライバーとして帰ってきた
『イコライザー2』
2018.10.04
読んでますカー、観てますカー
デンゼル・ワシントンはハリウッド最強?
ハリウッドの俳優で現在最強と目されているのは、“ロック様”ことドウェイン・ジョンソンだろう。今年は『ランペイジ 巨獣大乱闘』で巨大化したワニと戦ったし、『スカイスクレイパー』ではクレーンから超高層ビルにジャンプした。見事な筋肉美を誇り、驚異的なパワーで敵を圧倒する。プロレスラー時代の雄姿が記憶に残っているから、強さにリアリティーが感じられるのだ。
しかし、デンゼル・ワシントンが本気を出すと、彼でも勝つのは簡単ではないかもしれない。2014年の『イコライザー』で彼が演じたロバート・マッコールの強さは尋常ではなかった。彼は素手で複数の敵を秒殺する能力を持っている。武器を持たずとも手近にあるものを使って相手に致命的なダメージを与えるのだ。何の変哲もないボールペンや灰皿が、彼の手によって殺傷兵器に変わる。
『イコライザー2』は4年ぶりの続編である。デンゼル・ワシントンが同じ役を2度演じるのは初めてのこと。よほどこの役が気に入ったのだろう。前作と同じアントワーン・フークアが監督を務める。彼らは2001年の『トレーニング デイ』や2016年の『マグニフィセント・セブン』でもタッグを組んでいて、お互いに信頼しあう関係だ。
前作でマッコールはボストンのロシアンマフィアを皆殺しにした。あれだけ大暴れしたのだから報復される前に姿を隠したほうがいいと思うのだが、今も同じ場所に住んでいるようだ。さすがに職場は変えた。前に働いていたホームセンターは辞めて、運転手をしている。映画の宣伝で“タクシー運転手”と記されているのは不正確で、彼はリフトのドライバーだ。ウーバーと並ぶライドシェアサービスである。
愛車マリブに乗せた客が敵だった
マッコールは愛車の「シボレー・マリブ」に町の人々を乗せて走る。呼ばれれば必ず時間どおりに迎えに行き、愛想よく世間話をしながら目的地まで連れて行く。温和で真面目な模範的ドライバーだ。すっかり小市民生活に慣れてしまったように見えるが、たまにトルコまで出掛けて拉致された少女を奪還しているから油断できない。リフトの仕事をしていても、客の不審な行動に気がつくと表情を変える。悪事を暴き、悪者を成敗するのだ。悪を除去し平穏を取り戻す、つまり社会をイコライズ(=平準化、平衡化)するのが彼の使命である。
彼はもともとCIAのトップエージェントだった。退職してからは平凡な市民として生活しながら裏では世直しに励んでいる。友達は少ないが、CIA時代の上司スーザン(メリッサ・レオ)とは今も交流がある。彼女は仕事で訪れたベルギーのホテルで、強盗に殺されてしまった。マッコールは知らせを聞いてそれが仕組まれた殺人であると直感する。明らかにプロの手口なのだ。背後に巨大な陰謀がうごめいていることを知った彼は、リベンジを決意した。
調査を開始すると、マッコール自身にも攻撃の手が伸びてきた。初めての客を乗せると、どうも動きが怪しい。男は後席から突然切りつけてきた。マッコールは予期していたものの、運転しながら反撃するのは難しい。普通の乗用車だから、タクシーのような仕切り板がないので刺客は直接ドライバーを攻撃できるのだ。リフトやウーバーで、現実に起こり得る事態である。今後対策が必要になるかもしれない。
さすがのマッコールも手を焼く。いつものように、まわりにある道具を利用することができないのだ。使えるのは愛車マリブだけ。高速ターンで横G、急加速急ブレーキで前後Gを発生させ、敵の戦闘力を削ろうとする。
ハリケーンの中で最後の戦い
ロバート・マッコールの人物造形はとても魅力的なのだが、問題があるとすれば強すぎることだ。どんな敵が現れても負けそうにないと、サスペンスが弱まってしまう。チャック・ノリスがいい例である。彼は大勢の敵がマシンガンで撃ちまくっても身を隠すことなく堂々と歩き、決して弾は当たらない。観客はチャック・ノリス・ファクトを思い出しながら弾丸が彼を避ける様子を楽しむのだ。
マッコールが最後に戦う相手は4人。常人ならば苦労するはずだが、彼にとってはこの程度の差なら楽勝である。少しでも不利な状況を作り出すため、製作陣が考え出したのは戦いの舞台を極限状況に置くことだった。対決は巨大ハリケーンが来襲する中で行われる。簡単に言うが、本当にハリケーンがやってくるまで待つのは大変だ。『監督失格』の平野勝之監督はかつて南大東島まで行って台風の中でAVを撮影しようとしたが、空振りに終わったと聞く。だからといってフルCGでごまかすのでは味気ない。
撮影では街を丸ごと占拠して巨大な送風機やエアコンプレッサーを
この映画でもデンゼル・ワシントンは必殺仕事人としての超絶的な能力を見せつけたわけだが、本人が現実世界で強いわけではない。ドウェイン・ジョンソンのようなホンモノの格闘家ではないので、マッコールが強く見えるのはひとえに彼の演技力のたまものである。昨年の作品『ローマンという名の男』では融通のきかない不器用でのろまな弁護士を演じていた。彼の正義感は腐った法律の世界では力を持たなかったが、マッコールなら19秒で解決できたのだ。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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