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第8回:アルピーヌA110(後編)

2018.10.17 カーデザイナー明照寺彰の直言 明照寺 彰
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「アルピーヌA110」
「アルピーヌA110」拡大

「アルピーヌA110」のデザインについて、その弱点を指摘しつつ、同時に「欲しくなった」とも語った明照寺氏。その理由はどこにあるのか? 現役の自動車デザイナーが個人的な欲望を刺激されるクルマとは、どのようなものなのか?

市場における数少ないライバルと目される「ポルシェ718ケイマン」。言わずと知れた、ポルシェのコンパクトスポーツカーである。
市場における数少ないライバルと目される「ポルシェ718ケイマン」。言わずと知れた、ポルシェのコンパクトスポーツカーである。拡大
モンテカルロラリーの舞台としても知られる、雪のチュリニ峠を行く「アルピーヌA110」。ブランド名の「アルピーヌ」とは「アルプス」の仏語読みで、創始者のジャン・レデレが、アルプスの山岳路を好んだことから命名したものだ。
モンテカルロラリーの舞台としても知られる、雪のチュリニ峠を行く「アルピーヌA110」。ブランド名の「アルピーヌ」とは「アルプス」の仏語読みで、創始者のジャン・レデレが、アルプスの山岳路を好んだことから命名したものだ。拡大
「ポルシェ718ケイマン」のサイドビュー。寸法を比較すると、「アルピーヌA110」が全長×全幅×全高=4205×1800×1250mmなのに対し、こちらは同=4385×1800×1295mmと、ケイマンの方が全長が長い。
「ポルシェ718ケイマン」のサイドビュー。寸法を比較すると、「アルピーヌA110」が全長×全幅×全高=4205×1800×1250mmなのに対し、こちらは同=4385×1800×1295mmと、ケイマンの方が全長が長い。拡大
コンパクトなミドシップ車ということもあって、似たようなスタイリングの両車だが、フロントまわりの厚みが大きな違いとなっている。
コンパクトなミドシップ車ということもあって、似たようなスタイリングの両車だが、フロントまわりの厚みが大きな違いとなっている。拡大

細部に見るスポーツカーとしての“完成度”

明照寺彰(以下、明照寺):「なんで欲しいと思ったか?」の話をする前に、少し寄り道させてください。まず、このクルマのコンペティターは「ポルシェ718ケイマン」なんだろうと思います。

永福ランプ(以下、永福):価格的にもサイズ的にも、そうでしょうね。

明照寺:実際、こうして写真を並べて見ると、結構近いプロポーションをしています。ただ、アルピーヌよりケイマンの方が、タイヤに対してのフロントフェンダー付近の“大きさ感”が、軽い。

ほった:フロントタイヤのまわりが、だいぶ薄い感じですね。

明照寺:そういうところ、ケイマンの方がよりスポーツカーとしてストイックなんです。ただ、アルピーヌはもともとラリーで活躍していたクルマですし、多少グラベルのイメージも持たせるなら、このプロポーションは納得できます。ケイマンほど地べたをはいつくばっていませんけど、実車を見たら好意的に感じましたね。

永福:いや~。私はこの2台のサイドシルエットを見比べて、逆にケイマンのデザインがいかにパーフェクトに近いか、思い知ってしまったなぁ。

明照寺:クルマって、フロントフェンダーの薄さがかなり重要なんですよ。厳密に言うと、タイヤセンターの上の部分ですね。リアもそうですけど、タイヤセンターでぶった切った時、ここをどれだけ軽く見せられるかが、クルマの軽快感、スポーツ感、踏ん張り感に効いてくる。側面のシルエットもそうですけど、上面から見てタイヤより外側になる部分の切り落とし方も、ポルシェはとても注意して作っています。

永福:そういうところが、パーフェクト感を生んでいるんですね。

完成度が高いクルマ=いいクルマ?

明照寺:ただ、アルピーヌも実物を見たら、かなりコンパクトに見えたんですよ。リアに向かっての絞りがとても強いので、想像していたよりも引き締まって見えた。写真で見るより断然よかった。

ほった:あのリアビューはユニークでしたね。

明照寺:尻下がりのフォルムって、日本車のデザインではまずやらないじゃないですか。できるだけ迫力を出したいですから。

永福:尻下がりの国産車といって思い出すのは、大失敗した日産の「レパードJフェリー」かなぁ。あと410の「ブルーバード」とか。

明照寺:日本で尻下がりのデザインを提案しても、すぐにダメだとはじかれます。

ほった:今でもダメですか。

明照寺:ダメですね(笑)。

永福:「シトロエンDS」の尻下がりなんか、今見ても超エキゾチックでゾクゾクしますけど、そういうのが日本車で出てきたら、私も拒絶してしまうかもしれない。

明照寺:そこはフランス車独特の世界がありますからね。アルピーヌもそういうクルマかなと思うんですよ。デザインの完成度では圧倒的にケイマンですけど、ケイマンもアルピーヌもスポーツカー、つまりは趣味のクルマじゃないですか。

ほった:趣味のクルマって、何やっても許される部分がありますもんね。いい悪いの話じゃなくて、「分かってくれるやつが分かってくれればいい」的な。

永福:ただ、これが800万円かと思うと、個人的にはキツイ。

明照寺:でも、800万円くらいのスポーツカーの選択肢って、いま、この二択じゃないですか? そしてケイマンは結構たくさん走ってる。それほどの特別感はなくなってる。だったら、アルピーヌが欲しくなる。
アルピーヌをひと言で表すと、もう「作ってくれてありがとう」なんですよ。この時代に、よくこんなクルマ出してくれたなあと。

永福:それ、デザイナーじゃなくてユーザー目線ですよね!

明照寺:そうなんですけどね(笑)。

「アルピーヌA110」のリアビュー。リアまわりがいかに低く絞り込まれているかがよく分かる。
「アルピーヌA110」のリアビュー。リアまわりがいかに低く絞り込まれているかがよく分かる。拡大
“尻下がり”のデザインが特徴的な、“410”こと2代目「ダットサン・ブルーバード」と「日産レパードJフェリー」。ともに市場からは受け入れられず、販売はふるわなかった。
“尻下がり”のデザインが特徴的な、“410”こと2代目「ダットサン・ブルーバード」と「日産レパードJフェリー」。ともに市場からは受け入れられず、販売はふるわなかった。拡大
フランスが誇る名車「シトロエンDS」。ハイドロニューマチックサスペンションをはじめとしたハイテクはもちろん、前衛的なスタイリングも大きな魅力だった。
フランスが誇る名車「シトロエンDS」。ハイドロニューマチックサスペンションをはじめとしたハイテクはもちろん、前衛的なスタイリングも大きな魅力だった。拡大
「アルピーヌA110」のカタログモデルは2018年9月に発表された。価格は「ピュア」(奥)が790万円、「リネージ」(手前)が829万円である。
「アルピーヌA110」のカタログモデルは2018年9月に発表された。価格は「ピュア」(奥)が790万円、「リネージ」(手前)が829万円である。拡大
上級グレード「リネージ」のインテリア。走りを突き詰めたという「ピュア」に対し、こちらは上質感や快適性にも配慮した仕様となっている。
上級グレード「リネージ」のインテリア。走りを突き詰めたという「ピュア」に対し、こちらは上質感や快適性にも配慮した仕様となっている。拡大

「ヘンであること」が所有欲を満たすこともある

ほった:それにしても、趣味のクルマに関しては、デザイナーとしての評価とユーザーとしての評価が結構違ってくるのが面白いですね。

明照寺:個人的に欲しいと思うものと、純粋に「デザイン的にいい」というものには乖離(かいり)がありますよね。自分自身も、やはりちょっと変わったやつが欲しいし。

永福:クルマ好きにはそういうところ、絶対ありますね。

明照寺:デザインで完璧を求めるのもひとつですけど、ちょっと崩れたところがあると、それが個性に変わって、所有欲につながることもある。

永福:とはいえ、ケイマンは完成されてますね。キレイで文句の付けようがない。

明照寺:ポルシェは、すべてのモデルがそうなんですけど、常に少しずつ積み重ねて、改善、改善と続けているので、プロポーションがどんどん洗練されていくんです。それに対して、アルピーヌはまだ出たばっかりですし、単純にデザインの完成度で言ったらやっぱりケイマンなんですよ。でもそれが正解かどうかは分からない。そういうことなんです。

ほった:まあ、私にとっては「ロータス・エキシージ」のカタチこそが美の極北なんですけどね。

永福:そんなこと聞いてないだろ!(笑)

明照寺:それこそ好みの話ですよね?

永福:専門的な連載のはずが、今回の最後は単なるクルマ好きの会話で締まってしまいました(笑)。

(文=永福ランプ<清水草一>)

ちなみに、この価格帯のミドシップスポーツカーとしては「アルファ・ロメオ4C」や「ロータス・エリーゼ」なども挙げられるのだが、いずれも商品コンセプトがトガりすぎていて、比較対象として議論することができなかった。
ちなみに、この価格帯のミドシップスポーツカーとしては「アルファ・ロメオ4C」や「ロータス・エリーゼ」なども挙げられるのだが、いずれも商品コンセプトがトガりすぎていて、比較対象として議論することができなかった。拡大
“尻下がり”のボディーラインと、「これでもか!」と張り出したオーバーフェンダーの対比が目を引くリアまわり。世にスポーツカー多しといえど、この“踏ん張り感”は「アルピーヌA110」ならではのものだ。
“尻下がり”のボディーラインと、「これでもか!」と張り出したオーバーフェンダーの対比が目を引くリアまわり。世にスポーツカー多しといえど、この“踏ん張り感”は「アルピーヌA110」ならではのものだ。拡大
「ルノースポール スピダー」のような特殊な例を除くと、「アルピーヌA110」はルノーにとって「A610」以来、実に22年ぶりの量販スポーツカーとなる。
「ルノースポール スピダー」のような特殊な例を除くと、「アルピーヌA110」はルノーにとって「A610」以来、実に22年ぶりの量販スポーツカーとなる。拡大
明照寺:「単純に完成度だけで言えば『ケイマン』なんですけど、それが正解とは限らないんですよね」
永福:「実用車とはちょっと違う、趣味のクルマの面白いところですよね」
明照寺:「単純に完成度だけで言えば『ケイマン』なんですけど、それが正解とは限らないんですよね」
	永福:「実用車とはちょっと違う、趣味のクルマの面白いところですよね」拡大
明照寺 彰

明照寺 彰

さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。

永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。

webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。

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