第8回:アルピーヌA110(後編)
2018.10.17 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
「アルピーヌA110」のデザインについて、その弱点を指摘しつつ、同時に「欲しくなった」とも語った明照寺氏。その理由はどこにあるのか? 現役の自動車デザイナーが個人的な欲望を刺激されるクルマとは、どのようなものなのか?
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
細部に見るスポーツカーとしての“完成度”
明照寺彰(以下、明照寺):「なんで欲しいと思ったか?」の話をする前に、少し寄り道させてください。まず、このクルマのコンペティターは「ポルシェ718ケイマン」なんだろうと思います。
永福ランプ(以下、永福):価格的にもサイズ的にも、そうでしょうね。
明照寺:実際、こうして写真を並べて見ると、結構近いプロポーションをしています。ただ、アルピーヌよりケイマンの方が、タイヤに対してのフロントフェンダー付近の“大きさ感”が、軽い。
ほった:フロントタイヤのまわりが、だいぶ薄い感じですね。
明照寺:そういうところ、ケイマンの方がよりスポーツカーとしてストイックなんです。ただ、アルピーヌはもともとラリーで活躍していたクルマですし、多少グラベルのイメージも持たせるなら、このプロポーションは納得できます。ケイマンほど地べたをはいつくばっていませんけど、実車を見たら好意的に感じましたね。
永福:いや~。私はこの2台のサイドシルエットを見比べて、逆にケイマンのデザインがいかにパーフェクトに近いか、思い知ってしまったなぁ。
明照寺:クルマって、フロントフェンダーの薄さがかなり重要なんですよ。厳密に言うと、タイヤセンターの上の部分ですね。リアもそうですけど、タイヤセンターでぶった切った時、ここをどれだけ軽く見せられるかが、クルマの軽快感、スポーツ感、踏ん張り感に効いてくる。側面のシルエットもそうですけど、上面から見てタイヤより外側になる部分の切り落とし方も、ポルシェはとても注意して作っています。
永福:そういうところが、パーフェクト感を生んでいるんですね。
完成度が高いクルマ=いいクルマ?
明照寺:ただ、アルピーヌも実物を見たら、かなりコンパクトに見えたんですよ。リアに向かっての絞りがとても強いので、想像していたよりも引き締まって見えた。写真で見るより断然よかった。
ほった:あのリアビューはユニークでしたね。
明照寺:尻下がりのフォルムって、日本車のデザインではまずやらないじゃないですか。できるだけ迫力を出したいですから。
永福:尻下がりの国産車といって思い出すのは、大失敗した日産の「レパードJフェリー」かなぁ。あと410の「ブルーバード」とか。
明照寺:日本で尻下がりのデザインを提案しても、すぐにダメだとはじかれます。
ほった:今でもダメですか。
明照寺:ダメですね(笑)。
永福:「シトロエンDS」の尻下がりなんか、今見ても超エキゾチックでゾクゾクしますけど、そういうのが日本車で出てきたら、私も拒絶してしまうかもしれない。
明照寺:そこはフランス車独特の世界がありますからね。アルピーヌもそういうクルマかなと思うんですよ。デザインの完成度では圧倒的にケイマンですけど、ケイマンもアルピーヌもスポーツカー、つまりは趣味のクルマじゃないですか。
ほった:趣味のクルマって、何やっても許される部分がありますもんね。いい悪いの話じゃなくて、「分かってくれるやつが分かってくれればいい」的な。
永福:ただ、これが800万円かと思うと、個人的にはキツイ。
明照寺:でも、800万円くらいのスポーツカーの選択肢って、いま、この二択じゃないですか? そしてケイマンは結構たくさん走ってる。それほどの特別感はなくなってる。だったら、アルピーヌが欲しくなる。
アルピーヌをひと言で表すと、もう「作ってくれてありがとう」なんですよ。この時代に、よくこんなクルマ出してくれたなあと。
永福:それ、デザイナーじゃなくてユーザー目線ですよね!
明照寺:そうなんですけどね(笑)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「ヘンであること」が所有欲を満たすこともある
ほった:それにしても、趣味のクルマに関しては、デザイナーとしての評価とユーザーとしての評価が結構違ってくるのが面白いですね。
明照寺:個人的に欲しいと思うものと、純粋に「デザイン的にいい」というものには乖離(かいり)がありますよね。自分自身も、やはりちょっと変わったやつが欲しいし。
永福:クルマ好きにはそういうところ、絶対ありますね。
明照寺:デザインで完璧を求めるのもひとつですけど、ちょっと崩れたところがあると、それが個性に変わって、所有欲につながることもある。
永福:とはいえ、ケイマンは完成されてますね。キレイで文句の付けようがない。
明照寺:ポルシェは、すべてのモデルがそうなんですけど、常に少しずつ積み重ねて、改善、改善と続けているので、プロポーションがどんどん洗練されていくんです。それに対して、アルピーヌはまだ出たばっかりですし、単純にデザインの完成度で言ったらやっぱりケイマンなんですよ。でもそれが正解かどうかは分からない。そういうことなんです。
ほった:まあ、私にとっては「ロータス・エキシージ」のカタチこそが美の極北なんですけどね。
永福:そんなこと聞いてないだろ!(笑)
明照寺:それこそ好みの話ですよね?
永福:専門的な連載のはずが、今回の最後は単なるクルマ好きの会話で締まってしまいました(笑)。
(文=永福ランプ<清水草一>)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
-
第41回:ジャガーIペース(後編) 2019.7.17 他のどんなクルマにも似ていないデザインで登場した、ジャガー初の電気自動車「Iペース」。このモデルが提案する“新しいクルマのカタチ”は、EV時代のメインストリームとなりうるのか? 明照寺彰と永福ランプ、webCGほったが激論を交わす。
-
第40回:ジャガーIペース(前編) 2019.7.10 ジャガーからブランド初の100%電気自動車(EV)「Iペース」が登場。SUVのようにも、ハッチバックのようにも見える400psの快速EV。そのデザインに込められた意図とは? EVデザインのトレンドを踏まえつつ、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第39回:アウディA6 2019.7.3 アウディ伝統のEセグメントモデル「A6」が、5代目にモデルチェンジ。新世代のシャシーやパワートレインの採用など、その“中身”が話題を呼んでいる新型だが、“外見”=デザインの出来栄えはどうなのか? 現役のカーデザイナー明照寺彰が斬る。
-
第38回:三菱eKクロス(後編) 2019.6.26 この“顔”はスポーツカーにもよく似合う!? SUV風のデザインが目を引く、三菱の新しい軽乗用車「eKクロス」。迫力満点のフロントマスク「ダイナミックシールド」の特徴とアドバンテージを、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第37回:三菱eKクロス(前編) 2019.6.19 三菱最新のデザインコンセプト「ダイナミックシールド」の採用により、当代きっての“ド迫力マスク”を手に入れた「三菱eKクロス」。そのデザインのキモに、兄弟車「日産デイズ」や同門のミニバン「三菱デリカD:5」との比較を通して迫る。
-
NEW
「洗車でボディーにキズがつく」って本当ですか?
2026.4.21あの多田哲哉のクルマQ&Aマイカーは常にきれいな状態で維持したいものの、クルマ好きの間では「洗車することでボディーにキズがつく」「洗いすぎは害になる」という意見もある。実際のところ、どうなのか? 元トヨタの多田哲哉さんに聞いてみた。 -
ディフェンダー110 X-DYNAMIC HSE P300e(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.20試乗記本格クロスカントリービークルの「ディフェンダー」にプラグインハイブリッド車の「P300e」が登場。電気の力を借りて2リッターターボとしては格段にパワフルになった一方で、カタログ燃費はなかなか悲観的な数値を示している。果たしてその仕上がりは? -
ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン社長に聞く 日本での展望とスポーツカーの未来
2026.4.20デイリーコラム2025年8月に着任した、ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン新社長。彼の目に日本はどう映り、またどのような戦略を考えているのか? 難しい局面にあるスポーツカーや電気自動車の在り方に対する考えを含め、日本における新しいリーダーに話を聞いた。 -
スバル・ソルテラET-HS(前編)
2026.4.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバル&STIでクルマを鍛えてきた辰己英治さんが、“古巣”スバルの手になる電気自動車「ソルテラ」に試乗。パワートレインの電動化以外にも、さまざまな試みが取り入れられた一台を、ミスター・スバルはどう評価するのか? -
第57回:スズキはなぜインドに賭ける? 変わらず牛が闊歩するインドの最新工場を小沢コージが直撃
2026.4.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージがインドへ。日本の自動車ファンにとってインドといえばスズキのイメージだが、実はスズキは現在、インドへの大型投資の真っ最中だ。なぜスズキはインドでこれほどまでに愛されるのか。最新工場を見学して考えた。 -
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.18試乗記2016年に上陸した2代目となるボルボのフラッグシップSUV「XC90」の最新アップデートモデルに試乗。パワフルなプラグインハイブリッドシステムを採用する3列シートSUVの走りを、先にステアリングを握った「V60」や「XC60」との比較を交えながら報告する。













