第201回:あの「萌え」ない、航空機内のイラストを“KAIZEN”せよ!
2011.07.08 マッキナ あらモーダ!第201回:あの「萌え」ない、航空機内のイラストを“KAIZEN”せよ!
格安エアラインがもたらした影響
日本版の格安航空会社(以下、LCC)が、来年2012年に就航する見込みだ。それにあわせて、今回は飛行機の最新よもやま話をしよう。
ボクが住むヨーロッパ圏内では、アイルランドの「ライアンエア」やイギリスの「イージージェット」に代表されるLCCが、2000年前後から勢力を拡大してきた。
欧州のLCCは激しい低価格表示合戦を繰り広げたり、同じ都市名なのに実はコストの安い遠方の空港に発着したりして、たびたび日本の公正取引委員会にあたるEUの機関から注意を受けてきた。だが、人気は陰りをみせない。それどころかLCCの台頭は、既存の航空会社にも近年さまざまな影響を与えている。
たとえば発足当初からインターネットによる予約を基本としていたLCCにならって、既存エアラインもオンライン予約が進んだ。それにあわせて、混雑度による弾力的な料金設定も導入されるようになった。
サービス簡素化もLCCの影響だ。エコノミークラスに機内食用のトレー(お盆)はすでになく、ポリ袋に入った菓子パンや高張力鋼板のごとく薄いサンドイッチをポン!と渡されるのが当たり前になった。LCCの機内食は大半が有料なので「今どきタダで出るだけ、既存エアラインはありがたいでしょ」といったムードである。
いっぽうで、従来のサービス継続をあえて強調している既存航空会社もある。たとえばエールフランスは、「食事と新聞付きで××ユーロから」とうたっている。預け荷物は無料・カード手数料なしをアピールするエアラインもある。「なんだよ、それ? 当たり前だろ」という方のために説明しよう。
LCCは予約サイトで、基本的に「人+身のまわりの物1個」の運賃を表示しているところが多い。たとえばイタリアからパリまでの運賃が、円にして片道6000円の日があったとする。ただし預け手荷物(20kgまで)は別料金で、1600円かかる。ウェブ予約時に申し込まないで空港で申告したりすると、もっと料金をとられる仕組みだ。
さらに「クレジットカード手数料」の名目で1800円加算されるのだ。結局、合計9400円となる。
既存会社だと3万円近いから、安いといえば安いが、「オンライン予約なのにカード手数料はないでしょう」と泣きたくなる。また、冒頭のライアンエアの場合、荷物の重量制限は15kgだ。報道資料なんかいっぱいもらっちゃったりすると、すぐに超過してしまう。既存航空会社は、こうした“トリック”がないことを訴えて、お客を繋ぎ止めようとしているのである。
日本版LCCに話を戻せば、彼らがどのようなサービスを打ち出すのか知らない。しかし「安くてよい品」という、欧州ではめったに見当たらない、いわばユニクロカルチャーに慣れきった日本人乗客を満足させるハードルは、かなり高いと思う。
「はい、ポーズ」なイラスト
ところでLCCにしても、既存航空会社にしても、ヨーロッパ圏内路線で残念なのは、飛行時間が短いことである。大抵ボクの行動範囲はイタリアから2時間前後で着いてしまう。せっかく大好きな飛行機に乗っているときに寝るのはもったいないし、原稿を書く仕事などしたくない。それに手持ちの音楽プレーヤーのビデオライブラリーを楽しもうと思っても、知る人ぞ知る「園田ルリ子&東京ラテンムードデラックス」など、隣のガイジン客からのぞかれて質問されたら説明に困るものばかり入っている。
機内誌を手にとっても、某航空会社の機内誌にときおり執筆しているため、「このライター、うまく書けてるな」とか思ってしまって落ち着かないのだ。
そんなボクが眺めているのは、「緊急時の説明カード」である。面白いのは、かなりの確率で稚拙なイラストに出くわす。登場人物の体格描写はその昔海外で出版された英語教本を思い出させ、表情は子供の頃に見た「米軍に捕らわれた宇宙人」を思わせる。
まじめな用途なのだから仕方ないのかもしれないが、あまりにマジメすぎて、逆に恐怖を感じてしまう。
そうしたなか最も笑ってしまうのは、前述の「ライアンエア」のものである。この航空会社の場合、緊急時説明はカードではなく、バックレストに貼り付けてある。とくに注目していただきたいのは、脱出用シュート(滑り台)の降り方である。スカート姿の女子の手の組み方が変だ。さらに「地上に降りたあと」も何かおかしいと思ってよく考えたら、左足と左手が一緒に出ている。懐かしのテレビ番組「8時だヨ! 全員集合」によって放送され、一世を風靡(ふうび)した「はいポーズ!」だと思えばよいのかもしれないが。
ガイジン娘に受ける秘策
これらの描写レベルとバリエーションからして、緊急時説明書には、それほど厳しい規制はないようだ。そこでボクは考えるのだが、新規参入する日本版LCCの説明書は、いっそのことジャパンテイストな「漫画風」か「萌えキャラ」に改善してしまったらどうかということである。
LCCゆえ欧州まで飛来することはないだろうが、パリのAV&書店「フナック」やロンドンの鉄道駅で、漫画を読みふけるアニメ風な髪型の現地娘を見かける今日、絶対話題となるに違いない。
いまだ航空機メーカーのデザインセンスに支配された機内備品のなかで、せめて「萌え」ることで小さな抵抗をしようではないか。まあ、エスカレートして「でしゅ」などという吹き出しを付けるのは、さすがご法度だろうけど。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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