新デザインの「トヨタ・プリウス」
マイナーチェンジで巻き返しなるか!?
2018.12.21
デイリーコラム
ベストセラーは責任重大
2018年12月17日、マイナーチェンジされた新しい「トヨタ・プリウス」が発売された。今回の改良ポイントは主に3つ。グリルやライトなどを中心としたエクステリアデザインの変更。専用通信機器DCMの標準装備。そして運転支援システムであるToyota Safety Senseの標準化だ。つまり、外観、コネクテッド、安全機能に手が入れられている。
もちろんその目的は、プリウスの国内販売のテコ入れだ。現在のところ、プリウスの売れ行きは、決して芳しいとはいえない。日本自動車販売協会連合会(通称:自販連)の「乗用車ブランド通称名別順位」を見ると、2018年1~6月のプリウスのセールスは「日産ノート」「トヨタ・アクア」に続く3位。同年4~9月で見ても、1~11月でも同じ順位となる。そもそも2018年になってから月間でプリウスが1位になった月がないのだ。上位にあるとはいえ、過去10年で6回も年間1位に輝いているプリウスが、2011年、つまり7年も前に発売されたアクアにさえ販売台数で抜かれているのは非常事態だ。そんな難局を打開する! それが今回のマイナーチェンジの目指すところといっていいだろう。
現行モデルで最大の弱点は、筆者がこれまで「素晴らしい」「かっこいい」という言葉を誰からも聞いたことのない、そのルックスにあるといえるだろう。特に、アグレッシブで先鋭性をアピールするヘッドライト周りのデザインは、明らかにやりすぎだった。それが今回のマイナーチェンジで、もう少し洗練されたオーソドックスなものになっている。注目のコネクテッド機能を標準装備として、カーライフに役立つ情報を提供する「T-Connectサービス」を3年間無料で提供するというのも太っ腹。今回のマイナーチェンジにかけるトヨタの意気込みが感じられる。
ルックスも良くなったし、注目の機能も盛り込んだ。商品力は相当高まったはずだ。では、これでプリウスの未来はバラ色になるのか?
目指すはマニアックな先進モデル
残念ながら、筆者の考えは「NO」だ。いまの世の中、それほど甘くはない。
理由は2つある。ひとつは「ライバルが多すぎる」ということ。これまでプリウスは、「燃費の良いハイブリッド車」の代名詞として人気を集めてきた。ハイブリッド車という存在がほかになかった20年も前に誕生し、ハイブリッド車の魅力=環境性能の良さをアピールし続けてきた。その結果、「燃費の良いクルマが欲しいならハイブリッド」「ハイブリッドならプリウス」という常識が生まれ、その追い風に乗って販売数を伸ばしてきた。ところが気が付けば、いま自動車界はハイブリッド車だらけ。「燃費の良さ=ランニングコストの安さを求めるなら、もっと小さいアクアでいい」という流れもある。ハイブリッドというブルーオーシャンが、いつのまにかレッドオーシャンになっていたのだ。
もうひとつの理由はトレンドの変化だ。プリウスが爆発的にヒットしたのは、リーマンショック後の不況、エコカー減税導入などにより、省燃費がトレンドになった2009年以降。ところが、トレンドは移ろいゆくもの。いまのそれはSUVであり電動化だ。プリウスは、その真ん中からは外れてしまっている。トレンドから外れた商品は売れなくなる。かつて何十年も売れ筋ナンバーワンであった「カローラ」もその座を追われた。過去10年間のチャンピオンはプリウスだったけれど、未来永劫(えいごう)その地位が保証されるわけもない。
ただ、トレンドから外れても、商品としての魅力があれば生き残ることはできる。そういう意味で、プリウスには先進性という本質的な魅力がある。振り返れば、4世代、20年のプリウスの歴史のうち、成功をおさめたのは後半の10年間だけ。3世代目は大ヒットしたけれど、初代と2代目は、ややマニアックな存在であった。先進性は耳に心地いい言葉だが、すべての人がそれを望むものではない。尖(とが)れば尖るほど対象は減る。根強いファンは残るだろうが。つまりプリウスは、「一番売れるべきクルマ」という役割をそろそろ終わりにして、「マニアックだけれど、ものすごく先進性のあるクルマ」という本来のポジションに戻ってもいい時期に近づいているのではないだろうか。
次世代となる5代目は、2021年ごろに登場するはず。きっといまは、開発の真っただ中。トヨタはプリウスをどうしたいのか? その答えは次世代モデルの登場でハッキリするだろう。
(文=鈴木ケンイチ/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
-
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ 2025.12.12 日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。
-
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る 2025.12.11 マツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。
-
業界を揺るがした2025年のホットワード 「トランプ関税」で国産自動車メーカーはどうなった? 2025.12.10 2025年の自動車業界を震え上がらせたのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領肝いりのいわゆる「トランプ関税」だ。年の瀬ということで、業界に与えた影響を清水草一が振り返ります。
-
あのステランティスもNACS規格を採用! 日本のBEV充電はこの先どうなる? 2025.12.8 ステランティスが「2027年から日本で販売する電気自動車の一部をNACS規格の急速充電器に対応できるようにする」と宣言。それでCHAdeMO規格の普及も進む国内の充電環境には、どんな変化が生じるだろうか。識者がリポートする。
-
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット― 2025.12.5 ハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。




































