ホンダ・フィットシャトルハイブリッド/フィットシャトル【試乗記】
便利さの選択肢 2011.06.29 試乗記 ホンダ・フィットシャトルハイブリッド スマートセレクション(FF/CVT)/フィットシャトル15X(FF/CVT)……224万5800円/217万9300円
ハイブリッドとガソリン車、ふたつのタイプでデビューしたコンパクトワゴン「フィットシャトル」。その乗り心地は? 使い勝手は?
豊かだった潜在需要
震災の被害は、意外なところに及んでいる。3月発売のCDはほとんどプロモーションができず、世間に知られることなく埋もれてしまったアルバムが結構あるらしい。公開直後に打ち切りになってしまった映画もある。
「ホンダ・フィットシャトル」も、不利益をこうむったと言えるだろう。当初の発売予定は3月17日だったが、延期に追い込まれてしまっていた。生産する工場を埼玉から鈴鹿に移して、3カ月遅れでようやく発売に漕ぎ着けたのだ。
ただし、本来ならばフィットシャトルより後で発売されるはずだった「トヨタ・プリウスα」が先に世に出てしまった。価格帯も大きさも違うから直接のライバルではないものの、たくさん荷物の積めるハイブリッドということでは同じなわけで、なんとなく機先を制せられてしまった感はある。プリウスαは発売1カ月で5万2000台の受注を抱える好調ぶりだ。フィットシャトルも負けてはいない。6月28日現在で1万2000台のオーダーを受けているのだ。このジャンルには、豊かな潜在需要があったようだ。
従来の「フィット」は、センタータンクレイアウトによる優れたパッケージングに定評があった。走行性能と実用性を両立させて、高い人気を誇ったのである。
牙城を崩さんと狙うトヨタは、「ヴィッツ」と「ラクティス」で挟み撃ちにするという戦略を取らざるをえなかったほどだ。ラクティスはフィットに勝るユーティリティをウリに攻勢をかけていたが、フィットシャトルはさらにそれを凌駕(りょうが)しようとする。全高1585mmのラクティスと違って立体駐車場に受け入れられやすいこともアピール点だし、ハイブリッドモデルがあるというのは明確なアドバンテージだ。
「FIT」より「SHUTTLE」が大きい
フィットを名乗るものの、見た目は本家とはかなり印象が違う。全長で510mm、全高で15mm拡大されただけでなく、US版から流用されたフロントセクションによってバランスが変わっているのだ。特徴的な三角形のリアクオーターピラーが強い印象を残すので、実質的な前モデルである「エアウェイブ」の面影を見てしまう。カタログの英文ロゴを見たら、「FIT」より「SHUTTLE」の部分のほうがはるかに大きい。フィットの名を採用したのは、世に知れたベストセラーカーの余得にあずかるという面もあるのかもしれない。
インテリアの印象も、相当に違う。最近のホンダ車は、ある種の未来テイストをスパイスにしているところがあったが、フィットシャトルは渋めの内装だ。インストゥルメントパネルのレイアウトは基本的に同じなのだが、配色や質感を変えることによって落ち着いた雰囲気をつくっている。発注者の内訳を見ると、50代が49%、40代が28%というから、きっと正しい選択なのだ。
これは、セダンやミニバンからのダウンサイザーが多いことも示している。上質感や乗り心地については、かなり頑張らないと受け入れてもらえないということだ。「上手に贅沢(ぜいたく)するクルマ。」というキャッチコピーは、そのあたりの事情を本音で示しているのだろう。
温和でおとなしい運転感覚
運転感覚も、見た目とシンクロしていた。フィットといえば軽快で元気な走りというイメージだが、フィットシャトルは落ち着きとしっとり感が前面に出る。最初に試乗したのはハイブリッドモデルだが、モーターのアシストが露骨に感じられるタイプではなかった。加速は遠慮がちで、パワーにまかせてぐいぐいいく感じはない。リッター30kmの燃費を実現するためには、やはり効率寄りのセッティングを採用する必要があったのだろう。もちろん、普通の運転をする限りでは、まったく不満のない運動性能である。
ハンドリングも、ごく穏当である。街なかで乗っただけの印象だが、操作に過敏な反応を示すことはない。フィットに比べ、すべてが温和でおとなしい感覚なのだ。だから、威勢よく走ろうという気分にもならない。
ひとつ気になったのは、路面から伝わる細かい振動である。少々ざらついたバイブレーションが常に伝わってきて、せっかくの落ち着いた雰囲気が壊されてしまう。これは、1.5リッターガソリンエンジンモデルに乗り換えたら、ほとんど解消された。運転感覚のナチュラルさでも、こちらが一枚上を行く。パワートレインだけでなく、タイヤにも違いがあったから、あるいはそれが影響しているのかもしれない。重量配分だってずいぶん違うのだから、サスペンションの設定も変わってくる。
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ハイブリッドモデルが8割以上
受注状況を見ると、ハイブリッドモデルが86%を占めている。従来のフィットはほぼ五分五分であり、極端な偏りだ。ガソリン代だけで元をとろうとすれば相当な距離を走らなければならないから、経済的な動機でハイブリッドが選ばれているとは考えにくい。昨今のエネルギー事情を知り、環境問題に関心をもつ人々が、少しでも環境に負担をかけない選択をしたいという気持ちの表れなのだろう。
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しかし、フィットシャトルのウリである荷物の積載に関しては、当然ながらガソリンエンジンモデルにアドバンテージがある。後席を倒すと、長さ2000mm、高さ945mm、容量496リッターの荷室が現れるのだが、ガソリンモデルの場合、さらに94リッターのアンダーボックスが使える。ハイブリッドモデルではこの部分に電池が収まるので、床下の予備スペースは21リッターに減ってしまうのだ。
単に容量の差だけではなく、リバーシブルフロアボードでいろいろアレンジできるので、ガソリンエンジンモデルのユーティリティの魅力は大きい。26インチの自転車がそのまま載せられることにどれだけ需要があるのかわからなかったのだが、子供が自転車に乗って出かけて雨が降ったときに「自転車ともども載せて帰る」などの用途があるそうだ。確かに、便利ではある。
最大限の便利さを選ぶか、先進のテクノロジーとほどほどの便利さのバランスを選ぶか。「上手に贅沢する」ための選択肢が与えられていることには感謝したほうがいいのだと思う。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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