第592回:「フォーフォ」「ローディー」ってどんなクルマ!?
欧州流ブランド名発音法を大矢アキオが熱烈伝授!
2019.02.15
マッキナ あらモーダ!
カニネロ感覚でどうぞ
カタカナというのは便利なようで厄介であることは、外国語をある程度勉強した方なら必ずわかることであろう。
ひとたび発音をカタカナで表記してあるものを目にすると、たとえそれが不完全であっても「そう発音せねば」と脳が縛られてしまうのだ。耳でじかに聞いた発音よりも、カタカナが優先してしまうのである。日本人にとって鬼門である「L」と「R」の違いなども、カタカナでは表記するのが難しい。
だからカタカナに頼るのは、間違えやすい発音だけにしておいたほうがいい。筆者が学生時代最初に勉強したドイツ語の教科書には、全部カタカナが振られていた。あれがなければ今ごろドイツ語も、もう少しまともな発音ができていたかもしれないと思うと悔やまれる。
逆の視点からいえば、カタカナ表記にした場合、それが適切であるかないかは、各自の主観に任されてよいと筆者は考える。東京都内のホテルの中に「ア ビエント」というレストランがあって、それがフランス語の「A bientot(Aの上に右下がりアクセント、oの上に ^ =アクサン・シルコンフレックス)」であることに気づくのに数年を要したが、だからといって責める気はない。
今回は自動車にまつわる名前の発音についてお話ししよう。説明にあたって、前述のように不完全なカタカナ表記を多用せざるを得ないのは極めて遺憾である。だが、英語の「Continental」を「カニネロ」と発声すれば一発で通じるという都市伝説(?)の延長のつもりで、あくまでも参考として楽しくお読みいただければと思う。
ダイアーツで行こう!
筆者自身はイタリアに住み始めたときから、自動車のブランド名に限っていえば最初からほぼ言葉が通じた。往年の高級車「Isotta-Fraschini」からカロッツェリアの「Bertone」「Pininfarina」まで、日本で流布している読み方で簡単にわかってもらえた。別に筆者の発音が優れていたからではない。いずれの名前も、イタリア語の強勢(アクセント)が、原則として語の最後から2番目の母音に置かれているという、極めて汎用(はんよう)性の高いルールに合致していたからだ。
ただし、その「原則として」というところを忘れてはいけない。例外があるのだ。クルマの話をするときも、その例外を知らず、相手に理解してもらうのに少し時間を要したことが多々ある。その代表例が「Autodromo」だ。よく日本では「アウトドローモ」と記されているが、あえてカタカナで書くなら「アウトードロモ」である。スペイン語だと、きちんとその部分にアクセントが記されているのだが、イタリア語ではそれがない。したがって、さらに引っかかりやすい。
もうひとつ面倒なのは、フェラーリF1チームでよく使われる「Scuderia」だ。日本では「スクーデリア」などと表現される、あれだ。辞書を引くと、前述のイタリア語の原則にしたがって、最後から2番目の母音に強勢がある。ゆえに、カタカナ表記すれば「スクデリーア」のほうが近いことになる。
ただし「Scuderia Ferrari」という場合、Ferrariのほうに勢いが偏るので、Scuderiaの発音はそれほど強くない。あえていえば日本人がファミリーレストランの「サイゼリア」を、もしくはちょっと古いがかつて存在した建材会社のブランド「パッ! とさいでりあ」を発音するように、素直に「スクデリア」と発音するのが一番近い。
もうひとつ、「h」が無音となることにも注意したい。「Honda」は「オンダ」、「Daihatsu」は「ダイアーツ」というと、よく通じる。
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「ローディー」とはあのクルマ
イタリア語よりも、もっとネイティブの人とコミュニケーションをとるのに苦労し、それだけにわかると面白いのは、フランス語における自動車ブランド名の発音である。
フランス人が発音する外国ブランドは、日本人が考える発音と乖離(かいり)している場合が多い。
「Cadillac」は、「ll(エルとエル)」の二重子音を発音しないフランス語の原則――「Marseille」を「マルセイユ」と読むのと同じ――にしたがい、「キャディヤック」というのが最も近い。
強烈なのは往年の英国車「Austin」だ。フランス語読みすると「オスタン」になる。ブランドが存在していた頃のテレビCMでも、しきりに「オスタン!」とナレーションしていたものだ。
このAuを「オ」と発音することに関していえば、「Audi」も「オーディー」に近い。ただし、ブランド名を語る場合、女性名詞の定冠詞「la」が付く。加えて、Aは母音なので、「la Audi」ではなく「l’Audi」となる。そして「ローディー」と発音するのが一番通じる。
それらからすれば「Mercedes」はそれほど難しくない。フランスでは「デ」にアクセントをつけて「メルセデス」、イタリアでは「チェー」にアクセントで「メルチェーデス」だ。参考までにMercedesは、人名としては今日フランスやイタリアでそれほど一般的ではない。だが、ビゼーのオペラ『カルメン』にも登場するように、スペインを中心としたヨーロッパ、ひいては中南米で長い歴史をもつ名なので、人々にとってそれを発音することは決して難しいことではない。
ドラえもん、コンとりもん
話は飛ぶが、オランダ人夫妻が「ウチには古いフォーフォがある」という。その発音は洗濯用柔軟剤の「ファーファ」に限りなく近かった。わけがわからないので、何があるのか車庫まで連れていってもらってようやくわかった。「Volvo」であった。
そうした恥ずかしいコミュニケーションの歴史を幾多も乗り越え、「へへへ、そろそろ車名の発音はばっちりだぜ」と喜んでいた先日のことである。インターネットを通じてフランスのラジオを聴いていたとき、あるCMが流れた。「コンとりもん」というクルマがあるらしい。
直後にMINIという言葉を聴いて、ようやく判明した。コンとりもんとは「Countryman」であった。「MINIカントリーマン(日本名:「MINIクロスオーバー」)」に特別な思い入れがなかった筆者だが、どこか『ドラえもん』の親戚のような気がして、その日以来親近感を抱いている。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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