1日だけじゃもったいない!
トヨタ博物館の新展示「クルマ文化資料室」見学記
2019.05.20
デイリーコラム
膨大な文化資料の中から約4000点を展示
2019年4月17日、トヨタ博物館の開館30周年を記念した新たな常設展示「クルマ文化資料室」がオープンした。ここには、国内外のクルマに関する約4000点の資料が展示されているという。他の展示と異なるのは、そこに“実車”が含まれないことだ。それでは一体、どんな“文化資料”が展示されているのだろうか?
そもそも、愛知県長久手市にあるトヨタ博物館は、1989年4月にオープンした自動車博物館だ。その名が示すようにトヨタが運営する施設なのだが、収蔵されるのはトヨタ車だけではない。自動車が生まれたばかりの1890年代から現代までの、国内外のさまざまなモデルが集められており、まさにクルマの歴史を凝縮した展示内容となっているのだ。そんなトヨタ博物館も今年で開館30年。それを記念したリニューアルで、約120台の車両を展示する本館は「クルマ館」に、ミュージアムショップやカフェテリア、図書館などがあった新館は「文化館」に改められた。この文化館の目玉が、新設されたクルマ文化資料室なのだ。
文化館2階フロアの半分を占めるクルマ文化資料室。その入り口前の壁面には、展示内容を示したパネルが設置されている。そこには雑誌、カタログ、カーバッジ、カーマスコット、ライセンスプレート、ミニカーなどの実物がサンプルとして並べられているのだが、ミニカーやマスコットなど、その一部には実際に触れることができる。肌で感じる資料の魅力も伝えたいという、学芸員さんの心意気なのだ。現在、博物館で所蔵する資料の数はなんと22万9370点(!)にも上る。これらは1989年の開館当時からコツコツと集めてきたものだそうで、実車だけでなく、資料の収集にも膨大な時間と労力が割かれてきたことを物語る。今は、その中から厳選された4027点がここに並べられている。
自動車の歴史を800台のミニカーで表現
ガラス製の自動ドアで区切られたフロアに一歩足を踏み入れると、ひんやりとした。もともと快適な温度が保たれた館内だが、ここでは常時、温度20℃、湿度55%が保たれている。これだと季節によっては寒く感じるだろう。室内の照明も、展示物が浮かび上がるよう照明が配置されているので見学に支障はないものの、他のフロアとは異なり、トーンが暗めだ。
もちろん、これらはすべて、資料を傷めないための配慮だ。裏を返せば、それだけ貴重で傷みやすいものにあふれた空間なのだ。ただそんな肌寒さも、クルマ好きなら展示物が目に飛び込んできた瞬間に、すっかり忘れてしまうだろう。
圧巻なのは、展示フロア中央にある、1/43模型で見る自動車史の変遷だ。1495年にレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたというスケッチから再現された「自走車」を先頭に、最初の自動車が生まれた18世紀中ごろから今日に至るモビリティーの歴史を、3つの大型ショーケースに収めた約800台の模型で表現。時間軸に加え、日本・アメリカ・ヨーロッパの3つの地域ごとに自動車の進化を見ていくことができるのも魅力だ。
ミニカーは市販されているものが中心だが、馬車や黎明(れいめい)期の自動車の模型などはこの展示のためにわざわざ作ったものもあるとのこと。自動車の歴史はまだまだ続いていくので、今後もさらなる充実が図られることだろう。
マニア垂涎のカーマスコットの数々
展示物の中には、クルマのパーツもある。それがブランドを象徴するカーマスコットとカーバッジだ。対人保護の観点から、一部の高級外車を除くと今やすっかり見かけなくなったカーマスコットだが、かつては高級車にとっては欠かせないもので、オーナーのしゃれっ気を示すものでもあった。
展示エリアでは、まず世界一有名なカーマスコットであるロールス・ロイスの“スピリット・オブ・エクスタシー(フライング・レディー)”が、同じくロールスの象徴である“パルテノングリル”と共に出迎えてくれる。聞けば、その前で“彼女”のポーズをまねて写真を撮るのが人気となっているのだとか。新展示には、まさかの“インスタ映えスポット”が存在していた。
ここでの見どころは(他の展示もすばらしいが)、フランスのガラス工芸家ルネ・ラリックのカーマスコットのコレクションである。ラリックのガラス工場で量産されたマスコットは全29種類だが、そのすべてがそろっているのは世界的にも珍しい。時代と地域ごとに紹介されるカーバッジは約400点。その中には、今は失われてしまったブランドのものも多い。クルマの歴史に詳しい人であれば、珍しいものを探したり、時代とともに変化していく各ブランドの象徴を見て楽しんだりすることができるだろう。
おもちゃやポスターにみる時代の変遷
一方で、子供から大人まで楽しめそうなのが、おもちゃのエリア。ミニカーやプラモデル、ラジコンなどさまざまな展示が並ぶ。外車をモチーフとしたティンカーのコレクションも充実しているが、意外なことに日本製のものも多い。これは戦後貧しかった日本が、外貨獲得のためにミニカーの輸出を積極的に行っていたためだ。当初は欧米メーカーの模倣品レベルにすぎなかったが、やがて日本人の手先の器用さを反映した精巧なつくりのものが誕生したことで、世界的に評価されるようになっていったのだそうだ。
展示されるおもちゃの中には、世界初のラジコンやダイカスト製ミニカーなど、貴重なものも多い。さらに「スーパーカー消しゴム」や、レースやタイムアタックを画面上で楽しんだテレビゲーム、チビッ子が改造に熱中した「ミニ四駆」など、さまざまな世代の心をわしづかみにするアイテムがあふれている。
芸術性と時代の空気を強く感じさせるのがカタログとポスターのコレクションだ。中でも個人的に興味深かったのが、初代「トヨタ・セリカ」のポスターだ。なかには篠山紀信が撮影を担当したものもあったというそれらの中には、映画のポスターのように物語性の強いものや、一見しただけではクルマの販促物とは思えない芸術性を意識したものもあり、当時はクルマが最先端の存在であり、若者の憧れだったことがうかがえる。
同じく時代の空気を強く感じたのがカタログや雑誌などの(表紙の)展示である。例えば70~80年代はイメージキャラクターに映画スターや芸能人が多く起用されているのだが、主役のクルマより人が目立つ表紙となっているなど、時代によって作りこむ部分が異なるのも面白い。
世界初の自動車切手に描かれたのはEVだった
一方で、意外な発見がたくさんあったのが切手だ。日本で自動車を題材とした切手が誕生したのは、なんと2000年のこと。つい最近だったのだが、そこに描かれていたのは「ダットサン・ロードスター」と「トヨダAA型」という2台のクラシックカーだった。今では日本の自動車切手も趣味性が高くなり、さまざまなものが登場しているのは皆さんもご存じのことだろう。一方、海外でのその歴史は古く、自動車誕生間もない1901年に、アメリカで電気自動車を描いた初の自動車切手が発行されている。もちろんこちらも収蔵されているので、来館の際にはぜひチェックしてみてほしい。
このように、多種多様な資料が並ぶクルマ文化資料室を満喫しようと思うと、クルマ館の観覧をあきらめようかと思うほどの内容なのである。しかも、展示物の保護もあり、展示内容は定期的に入れ替えを行うという。つまり、何度行っても新しい発見や楽しみがあるというわけだ。ちなみに紙関係の資料は、ショーケース下の引き出しの中にも収められているので、こちらもお見逃しなく。
クルマ文化資料室を含め、今回はほぼ1日トヨタ博物館を取材していたが、クルマ館を含めると1日で回りきるのは不可能と思っていい。2日がかりでの来館をおススメしたくなるほどだ。何を隠そう、私も多くの未練を残し、帰ってきたひとりである。隅から隅まで目に焼き付けたくなる、そんな誘惑にかられるのが、この博物館なのである。
(文=大音安弘/写真=webCG/編集=堀田剛資)

大音 安弘
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