かつてないメーカー同士の協業も
トヨタに見るEV時代の開発戦略
2019.06.21
デイリーコラム
盲目的な電動化に「待った」
さる2019年6月7日、都内で「電動車の普及チャレンジ」と題された記者会見が開催された(関連記事)。
一昨年以降、トヨタが開いてきた車両電動化技術全般の説明の場では、一般紙誌系やテレビなどのメディアからの、何かにつけて思慮のない質問が飛び交っていた。いわく、トヨタはなんで純然たる電気自動車(EV)を上市しないのか。ハイブリッドにあぐらをかきすぎてガラパゴス化してるのではないか。フォルクスワーゲンは全力でそっちに向かってるじゃないか――と。
現に、今回の会見でもそういう質疑応答は目にした……というよりも、トヨタはこの一連の会見を、巷間(こうかん)かまびすしいEV万能論に対する冷静な回答の機会としてきたわけだ。
言うまでもなく、EVは走行中のCO2排出量がゼロだ。が、LCA(Life Cycle Assessment)という鳥瞰(ちょうかん)や、WtoW(Well to Wheel)という上流の視点からCO2を追えば、今もってハイブリッドの優位は変わらない。ガソリンさえ手に入れば世界のどこでも使える多用途性や実証済みの耐久性をもってすれば、新興国のCO2削減策においての実効性も、エネルギーミックスいかんではEVより上となる。
何より福島の事故を経験している自分からしてみれば、大量の電気を要するEVを真っ昼間からグリッドにガツガツ割り込ませることにまるで無関心でいられるのが、まず理解できない。願わくば日本のメーカーにこそ、EVの身の丈に合った“適材適所化”をロジカルに説き続けてほしいものだと思う。
が、一方で世界に目を向ければ、EVの販売が営業的な命題となりつつあるのも確かだ。それは純然たるユーザーニーズでなく、主に仕向け地の政治背景によるところが大きい。典型的なのが、アメリカ西海岸域のZEV(Zero Emission Vehicle)規制や中国のNEV(New Energy Vehicle)規制だろう。
トヨタは「EVの現時点での性能を鑑みるに、その性質は当面法人が顧客の主体となるであろうMaaS(Mobility as a Service)やオートノマスと相性がよく、個人の移動については短距離をカバーする小型車両に最適な効率が見いだせる」と考えているようで、それは今回の会見の発表内容からも察することができた。
とはいえ、前述の規制を効率的にクリアするためには、現状の自家用車ニーズの代替が前提となる。これをもって鬼の首をとったように「トヨタが焦って方針転換」などとする記事も早速目にしたが、残念ながらことの本質はそこにはない。注目すべきはここ数年トヨタが手がけてきた同業他社との連携が、いよいよ多面体に変化してきたことにある。
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“つくり方”自体が変わっていく
実は今回の会見の前日、主にC~Dセグメント級の車両に対応するEV用アーキテクチャー「e-TNGA」が発表され、Cセグメント級SUVに相当するEVをスバルと共同で開発することが明らかにされた。
このアウトラインを確認すると、車両のセクションを前・中・後の3つに分けて、フロントアクスル部は完全固定、対してホイールベースと前後トレッドおよびオーバーハングの寸法を可変とすることでボディーサイズやカテゴリーの変化に対応する“モジュール構造”となっていることがわかる。受け皿側の規格が定まることで、モーターやバッテリーはその出力や容量を調整すれば多面展開は容易……というこの開発に少なからぬ影響をもたらしているのは、トヨタを軸にマツダとデンソーの出資も受けながら2017年に設立されたEV C.A. Spiritという会社だ。
EV C.A. Spirit は、一括企画、モデルベース開発、コモンアーキテクチャーという2000年代にマツダが生き残る術(すべ)として編み出した開発戦略を解析し、それを今後のEV開発の迅速化や効率化のために適用することを主だった業務としている。言い換えれば彼らが練りに練ったひとつのアーキテクチャーで「デミオ」から「アテンザ」までを受注順に混流で造り分けられる術を身につけたことが、“生産効率の鬼”であろうトヨタをも動かしたということだろう。
ちなみに今回、この中・大型EV向けのアーキテクチャーとは別に小型EV向けのアーキテクチャーをダイハツだけでなくスズキとも共同で開発するという発表がなされたが、EV C.A. Spirit はこの三つどもえの意向を最適化する役割も果たすことになるはずだ。それらをくんで開発を主導するトヨタZEVファクトリーは社内カンパニー同等の組織として、社内や関連会社、ティア1サプライヤー等の各部門から精鋭が集結している。
環境技術で後塵(こうじん)を拝していたスバルにとっては、この共同開発は渡りに船だろう。EVの後ろ盾を得たことで、より多くのリソースを宿命たる縦置きFF系パワートレインの電動化に割くこともできる。と同時に、EVにおいては前後モーターの協調などに長年の四駆開発で培ったノウハウが反映される予定だ。
一方で現状、e-TNGAのアーキテクチャーにマツダが相乗りする予定はない。これは彼らが独自でEVを造るプランを維持し続けているからにほかならず、そこにレンジエクステンドデバイスとして用いられるのが“御本尊”のロータリーエンジンと目されている。開発が難航し商品化が延期されるといううわさも飛んだが、直近の報道では丸本社長は2020年の発売を明言している。
e-TNGAはあくまで、CO2削減に尽くすべきさまざまな具体策の限られたひとつにすぎない。それをトヨタ自身が最も理解していることは、歩行領域をカバーする最高速が数km/h級の1人乗りデバイスや、60km/h級の超小型EVの開発を同列でアナウンスしたことからも伝わってきた。本来はトヨタブランドの仕事ではなかったかもしれない、でもEVとしての理想的な総合効率を目指せるそれらをみるに、内燃機からハイブリッドから燃料電池からと、あらゆる手段をブラッシュアップしながらモビリティーの未来を支えていくという彼らの覚悟はいよいよ形になりつつあると感じた。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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