スバルXVアドバンス(4WD/CVT)
真価は燃費のみにあらず 2020.01.10 試乗記 マイナーチェンジされた「スバルXV」に試乗。外装には大きく手が加えられていないものの、運転支援システム「アイサイト」への機能追加や利便性の高い装備の採用など、変更内容は少なくない。その仕上がりをマイルドハイブリッドシステム「e-BOXER」搭載車で確かめた。いまや大黒柱
スバルのコンパクトSUV(多目的スポーツ車)、XVがマイナーチェンジを受けた。同車種には2018年9月に、水平対向エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドシステムe-BOXER搭載モデルが追加されたばかりだが、今回のマイナーチェンジでは2リッターエンジン搭載モデルすべてがe-BOXER採用車となったのが大きな変更点だ。
筆者の認識不足だったのだが、XVはもはや国内市場の大黒柱といえるモデルだ。10年前の2008年度には、スバルの国内販売台数に占める比率で「レガシィ」が30%を占める大黒柱であり、次いで「インプレッサ」(25%)、「フォレスター」(23%)、「エクシーガ」(16%)……という順序だった。
ところが2018年度になるとレガシィの占める比率はわずか5%になり、最も大きな比率を占めるのはフォレスター(30%)だ。XVはこれに次ぐ23%で、以下インプレッサ(21%)、「レヴォーグ」(12%)、「WRX」(6%)と続く。つまりフォレスターとXVというSUV系の車種が国内販売の半分以上を占めているのである。XVがインプレッサよりも売れているというのは意外だったし、SUVがもはやクルマの主流になっているのだという事実をあらためて認識した。
今回のマイナーチェンジでは、2リッターエンジン搭載モデルのe-BOXER標準化に加え、同時に部分改良を受けたインプレッサとともにスバル独自の運転支援技術である「アイサイト・ツーリングアシスト」を全車に標準装備したのが2大改良ポイントだ。
4輪の駆動力を最適に制御し、悪路でのスムーズな脱出を可能にする機能「X-MODE」は従来から採用しているが、新型XVではフォレスターと同様に、雪や砂利道など滑りやすい道を走行する際に使用する「SNOW・DIRT」、深雪やぬかるみといったタイヤが埋まってしまうような道を走行する際に使用する「DEEP SNOW・MUD」の2つのモードを選択可能として、さらに悪路走破性を高めた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
モーターは楽しさのために
今回2リッターエンジン搭載車種で標準装備になったe-BOXERについて少々おさらいをしておこう。e-BOXERは、エンジンに出力13.6PS(10kW)のモーターを組み合わせた、いわゆるマイルドハイブリッドシステムである。モーターはスバル独自のCVT(無段変速機)である「リニアトロニック」に組み込まれる。リニアトロニックとエンジンとの間のクラッチを切ればモーター走行も可能である。
このモーター自体は基本的には先代XVに設定されていたハイブリッド仕様と同じだ。しかし現行モデルから名称をe-BOXERに変更したのは、ユーザーがハイブリッドと聞いて燃費向上効果を過度に期待するのを避けたからだろう。
というのも、e-BOXER仕様のXVのJC08モード燃費は19.2km/リッターと、通常の2リッターエンジン搭載仕様(マイナーチェンジ前の「2.0i-S EyeSight 4WD」)のJC08モード燃費16.0km/リッターと比較して20%程度しか向上していないからだ。
スバル自身、e-BOXERの開発の狙いを「悪路走行時のコントロール性向上」や「ここ一番での気持ち良い加速感」と説明しており、燃費向上効果については強調していない。燃費に全く配慮していないわけではないが、むしろ「走りの楽しさ」のためにモーターを活用しているわけだ。
4気筒エンジンとは思えない加速感
実際にXVに試乗してみると、モーターのない通常の2リッターエンジンとの差は歴然としている。XVに試乗した日は、同時にマイナーチェンジされた新型インプレッサにも乗る機会があった。単独で乗ればインプレッサも水平対向エンジンらしい滑らかで振動の少ない加速を味わえるのだが、e-BOXERを搭載したXVと比べてしまうと分が悪い。e-BOXERの制御では、特にアクセルを踏み始めたところのフィーリングとレスポンスを重視しており、アクセルを軽く踏んだだけで、瞬時にトルクが立ち上がってクルマを加速させていく。その滑らかで静かな加速感は、とても4気筒エンジンとは思えないものだった。
今回のマイナーチェンジにおいて、足まわりは変更されていないということだったが、そのセッティングも乗り心地と操縦安定性が高い次元で両立しており、とてもCセグメントのSUVとは思えない乗り味にあらためて驚かされた。
部分改良されたインプレッサも足まわりが改良され、しっかり感が増しているのだが、XVの乗り心地は明らかにインプレッサに勝る。これにはXVがモーターやバッテリーの搭載で車両重量が150kgも重くなっている影響もあるだろう。同時に、路面からのインフォメーションも確実にドライバーに伝わってくるので、安心して運転できる。このクルマならロングドライブでも疲れが少ないだろうことは容易に想像できる。
このように、快適な走りを実現している最新のXVだが、もちろん代償もある。今回のマイナーチェンジでXVの2リッターエンジン搭載モデルが全車ハイブリッド化されたことはすでに触れたが、新たにe-BOXER搭載モデルとなった「2.0e-S EyeSight」の場合、部分改良前に比べて17万1000円値上げされた。ハイブリッド化に伴う値上げ幅としては小さいといえるかもしれないが、絶対額として小さいわけではない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
燃費重視のハイブリッドではないが……
そしてもうひとつの代償は、荷室スペースが狭くなることだ。床下にバッテリーを搭載しているため、荷室の床面がe-BOXERを搭載していないモデルよりも高くなっている。SUVであれば、キャンプ道具などを積んで遠出する機会もあるだろうから、この荷室に関しては不満を抱くユーザーもいるのではないか。
またe-BOXER化に伴って燃料タンク容量が63リッターから48リッターにと、2割強少なくなっているのもマイナス点だ。これもバッテリー搭載に伴う措置である。燃費が2割向上しているのだからタンクをそのぶん小さくしていいだろうということなのかもしれないが、ユーザー心理からすると燃費が向上しているのだからそのぶん、航続距離も長くなってほしいと思うのが自然だろう。
気になる燃費だが、高速道路主体で走った結果、車載燃費計では約14km/リッターを示した。やはり高速道路主体で走った2リッターエンジン搭載のインプレッサ(四輪駆動仕様)の燃費が車載燃費計で約12km/リッターだったから、それよりは16.7%良かったということになる。これだけ快適に走って14km/リッターも走れば十分という見方もあるかもしれないが、一方では、ハイブリッド車で、しかも高速道路主体でこの数字は物足りないというユーザーもいるだろう。筆者の感想も後者に近い。
さらに言えば、デザイン面でも不満は残る。外観はまだしも、内装の質感は最新の競合モデルに対し見劣りする。試乗した最上級グレードの「アドバンス」にはインストゥルメントパネルからドアトリムにかけて青い加飾などを配してアクティブさを演出しようとしていたのだが、逆に安っぽい印象を与えてしまっている感は否めない。クルマの乗り味そのものはこのクラスでも屈指の実力があるのに、見た目で損をしているのがなんとも残念に思えた。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
スバルXVアドバンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4465×1800×1575mm
ホイールベース:2670mm
車重:1560kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2 kgf・m)/4000rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)
モーター最大トルク:65N・m(6.6 kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 98V/(後)225/55R18 98V(ブリヂストン・デューラーH/Pスポーツ)
燃費:19.2km/リッター(JC08モード)/15.0km/リッター(WLTCモード)
価格:292万6000円/テスト車=343万4200円
オプション装備:本革シート<フロントシートヒーター付き>+アイサイトセイフティプラス<運転支援><視界拡張>+ローマウントタイプルーフレール<ブラック塗装>+シャークフィンアンテナ(22万円) ※以下、販売店オプション パナソニックビルトインナビ(25万3000円)/ETC2.0車載器キット(3万5200)円
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:741km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.10.9試乗記24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。