第213回:キャスト・スタッフ総入れ替えの痛快女子アクション
『チャーリーズ・エンジェル』
2020.02.20
読んでますカー、観てますカー
ツヨカワ女子が大活躍
エンジェルたちが帰ってきた! 前作『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』が公開されたのが2003年。TVシリーズは1976年に放映が開始されていた。今度の『チャーリーズ・エンジェル』も、美しくて強く賢い女性たちが活躍する痛快アクション映画である。大筋は変わっていないが、ツヨカワ女子の造形は現代的にアップデートされた。
エンジェルと呼ばれるのは、国際機密企業チャーリー・タウンゼント社に所属する女性エージェント。スパイではなく、平和を守る天使なのだ。姿を見せない主催者チャーリーからの指令で、世界を破滅させる悪をやっつける。チャーリーとエンジェルを仲介し、具体的な戦術を示すのがボスレーだ。個人の名前ではなく、タウンゼント社の中間管理職的役職名である。
オープニングは、リオデジャネイロのゴージャスな屋上テラス。富豪の男が美女を口説いているが、逆に言葉責めにあう。彼女がカーテンを使ってその男の動きを封じたところに、武装した美女軍団が登場。エンジェルである。テラスにいた悪党どもを華麗なアクションで蹴散らした。この手の映画では常道の幕開けだが、アガる展開である。口説かれていたサビーナと銃を持って真っ先に飛び込んできたジェーンが今回のヒロインなのだ。
前シリーズ同様、エンジェルは3人組である。もうひとりは、最初は一般人。物語の中で一人前のエンジェルに成長していく。先端科学を研究するエンジニアのエレーナだ。彼女は万能クリーンエネルギーの“カリスト”を開発したが、まだ不完全であることを知っていた。しかし、上司はすぐにマーケットに出すことを決定。危険だと感じたエレーナは、タウンゼント社に連絡する。内部告発をしようというのだ。
アウディQ5とガトリング砲
しかし、彼女の動きを察知した上司はすでに手を打っていた。待ち合わせ場所に殺し屋を仕向けていたのだ。ウェイトレスに扮(ふん)していたサビーナとジェーンが応戦し、敵とのカーチェイスが始まる。「アウディQ5」でベルリンの街を疾走し、サンルーフからガトリング砲をぶっ放すのだ。相手は悪役用心棒のホダック。『ターミネーター2』のT-1000のような無慈悲さを見せるが、エンジェルの敵ではない。階段を駆け下りるシーンもあり、いきなりド派手な展開である。美女3人が暴れまわるのは、文句なしに爽快だ。
前シリーズでエンジェルだったのは、キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リューだった。今回の映画には3人とも登場しない。完全なリブート作なのである。タウンゼント社はグローバルな組織となり、エンジェルは世代交代した。古手のボスレーは引退している。この設定は賢明な判断だった。公開中の『バッド・ボーイズ フォーライフ』は17年ぶりの続編で、主人公はそれだけ年を取っている。ウィル・スミスが自虐的老けネタで笑いを取るなんて、旧作のファンにとってうれしいものではないだろう。新しい映画には、新しいキャストとスタッフが必要だ。
『チャーリーズ・エンジェル』の新メンバーは魅力がいっぱいだ。サビーナ役のクリステン・スチュワートは『トワイライト』シリーズでブレイクし、シャネルの顔としても知られる。クールなイケメン女子だ。ジェーンを演じるエラ・バリンスカは、パーフェクトなボディーを持つ新星である。エレーナは『アラジン』でジャスミンを演じたナオミ・スコット。前シリーズの3人がキャラ立ち重視だったのに対し、美的パワーは確実にアップしている。
女性たちだけで完結
『チャーリーズ・エンジェル』は、常に女性の憧れるライフスタイルを描き出してきた。TVシリーズが始まったのは、ウーマンリブが広がって女性解放が進んでいた時期。女性だけの探偵が難事件を次々に解決していくというだけでも意味があったのだ。ヒロインを演じたファラ・フォーセットは、ヘアスタイルやファッションが全女性のお手本となった。
2000年に始まった映画は、ドリュー・バリモアがプロデューサーとして制作を主導。監督にCMやミュージックビデオで才能を見せていたマックGを起用し、派手できらびやかな映像を創出した。明るさと元気さをアピールし、女性たちが楽しむことにポジティブな意味を与えたのが功績である。リアリティーや整合性は無視して、美女が暴れまわる姿を堪能すればいい。
ただ、TVシリーズも前映画シリーズも、男性目線を強く意識していたことは否定できない。ファラ・フォーセットはセクシーアイコンでもあったし、前映画シリーズの3人はおバカキャラで笑いを取る場面もあった。露出多めの衣装をまとい、シスターやら捜査官やらの格好で登場するコスプレショー的な見せ方も売りだったのである。
今回の3人は、女性たちだけで完結している。美しさも強さも、自分のためなのだ。男からよく思われようなどとはまったく考えていない。基準は自分たちで作り、女性の中の評価軸を大切にする。エレガントでセクシーであることと、男から自立していることは何ら矛盾しない。
女子会的華やかさと楽しさ
だから、この映画はダメな男たちの博覧会でもある。年老いたボスレーは女性たちを支配下に置きたかっただけの権威主義者だ。エレーナの上司は、旧来の上下関係を固守する時代錯誤男。サビーナを金の力でなびかせようとする東洋系金満男のみっともなさにもうんざりする。ただ、そういった類型だけで終わらないのがこの映画の新しさである。肯定的な男性像もしっかりと提示するのだ。
エンジェルたちに戦うためのアイテムを提供する役割を持つのがセイント(ルイス・ヘラルド・メンデス)だ。『007』におけるQのような存在だが、彼にはほかにも大切な仕事がある。エンジェルたちに栄養豊かなダイエット食を与え、トレーニングの手伝いをする。闘いの後には傷を癒やし、マッサージをして体を整える。心理療法士として、メンタルケアのカウンセリングも行う。女性が解放されれば男性も自由になれるという首尾を示すモデルケースと言っていいだろう。
映画全体に、女子会的華やかさと楽しさがあふれている。ハードなアクションや戦闘シーンは多いが、洗練されていてオシャレ感がある。汗臭い筋肉モリモリの男たちがくんずほぐれつしているのを見るよりよほど気分がいい。ハッピーな女性アクションを作り上げた監督は、『ピッチ・パーフェクト』シリーズで女子の可能性を証明してみせたエリザベス・バンクス。ボスレーとして出演もしている彼女に、最大限の敬意を払うべきだろう。
ちょっと残念なのは、チャーリーの位置づけが今までと変わらないことだ。絶対的な善で、エンジェルたちは無限の信頼と愛情をささげている。彼に声をかけられることがうれしくてたまらないのだ。そこにパターナリズムを見てしまうのは当然だが、この構造がなくなると映画が成立しないのだろう。ジェームズ・ボンドが女性になるのではないかと取り沙汰される時代なのだから、そろそろ変化してもいいような気もする。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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