ポルシェ・マカンGTS(4WD/7AT)
看板に偽りなし 2020.03.07 試乗記 マイナーチェンジされた「ポルシェ・マカン」の最新高性能版「GTS」にポルトガルで試乗。スポーツエキゾーストシステムが組み込まれ、最高出力380PSを発生する新世代のV6ツインターボユニットや、進化した足まわりの実力を日本上陸前に確かめた。マイナーチェンジ後のラインナップが完成
2019年、ポルシェの世界販売台数は対前年比10%アップの28万0800台。いよいよ30万の大台がうかがえるところまで到達した。もっとも、今年は新型肺炎の影響が世界経済に及ぶのは必至ゆえ、この成長にも陰りが出ることは免れないだろう。が、彼らのビジネスが好調に推移してきたことは間違いない。
とどまるところのないポルシェの成長をけん引しているのがSUVラインナップであることは、この数字の内訳に明確に表れている。2018年にフルモデルチェンジを受けた「カイエン」は初のフルイヤーで9万2000台余を販売。そして、2019年にマイナーチェンジが施されたマカンは、カイエンを上回りほぼ10万台を売り上げている。
すなわち現在のポルシェの販売の3分の2以上がSUV、そして全セールスのトップに立つのがマカンということだ。スポーツカーラインナップの充実も、マカン様の奮闘あってのことと言い換えても大げさではないだろう。
そのマカンのマイナーチェンジ後のラインナップは、このGTSの登場で一応の完成をみたことになる。市販車開発におけるポルシェの大義でもある“GT”的なユーティリティーをキープしながら、スポーツモデルとしての高いポテンシャルを“S”が示すこのグレードは、カイエンや「パナメーラ」でもベストバイとする向きは多い。
新世代パワーユニットを搭載
新しいマカンGTSで最も注目すべき変更点はエンジンだろう。EA837系からEA839系へと世代交代を果たしている点は「マカンS」と同じだが、GTSに搭載されるユニットはよりショートストローク化された2.9リッター直噴V6となる。
90度バンクの間にツインターボを配置する、いわゆるホットインサイドVレイアウトを採用。吸気経路を最短のリーチとしたことでレスポンスの向上が実現できたというそれは、最高出力が380PS、最大トルクは520N・mを発生。これは3リッターのマカンSに対して出力が26PS、トルクが40N・m大きいことになる。ちなみに上位車種となる「マカン ターボ」も同じ2.9リッターV6ユニットを採用するが、マカンGTSとの差は60PS&30N・mとパワーの側に多く寄っている。
ドライブトレインは従来どおり、「ハルデックス5」をベースにしたオンデマンド4WDで、理論上は駆動環境やドライブモードに応じて最大100%の駆動力を前後いずれにも移動できる。が、実際のところは通常走行時は約20%の駆動力を前輪に配分、基本的には後輪寄りの駆動配分が維持され、ゼロミューに近い凍結路などイレギュラーな状況でのみ前輪側に100%近い駆動力が配分される仕組みだ。
加えてオプションの「ポルシェトルクベクトリングプラス(PTV Plus)」を装着すれば後ろ左右輪の差動を電子制御でコントロールし、スタビリティーとアジリティーの両面にアクティブに作用する。組み合わせられるトランスミッションは従来同様の7段PDKだ。
内外装も専用仕立て
前期型と同様、サテンブラックの「20インチRSスパイダーホイール」や同質のテクスチャーでブラックアウトされたウィンドウトリム、エキゾーストフィニッシャーなどを外観的な特徴とするマカンGTS。デザインは同じに見えるも、前後バンパー形状の変更など細かな化粧直しも施されている。
レザー&アルカンターラのコンビとなる専用デザインのスポーツシートが配された内装は、基本的なデザインやレイアウトは前型を踏襲するも、10.9インチのタッチパネルを採用したポルシェ独自のインフォテインメントシステム「ポルシェコミュニケーションマネージメントシステム(PCM)」によって全体的な印象がモダナイズされた。また、ADAS系でも60km/h以下の速度域で発進停止を自動で行うトラフィックジャムアシスト付きのACCや、レーンキープアシストなどのアイテムがオプション装着できる。
新しいエンジンを得たマカンGTSの走りは、その名からイメージする以上に丸く、洗練されている。試乗車は標準装備の「ポルシェアクティブサスペンションマネージメント(PASM)」にオプションの「ポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)」を組み合わせたものと、オプションのエアサスに「ポルシェサーフェイスコーテッドブレーキ(PSCB)」を組み合わせたものの2種類の仕様があったが、乗り心地的にはPCCBによるバネ下の軽さが効いていることもあり、標準のサスでも十分な快適性は確保されていた。
もちろんエアサスはイニシャルのまろやかなダンピング特性に加えて、SUVにとっては活用機会の多い車高調整機能も備わっており、一概に良しあしは決められない。が、購入費用や維持しやすさなどであえてデフォルトのコイルサス+PASMを選ぶのもありだと思う。
![]() |
![]() |
![]() |
相変わらずのキレの良さ
新しいエンジンは基本的には高回転型にキャリブレーションされているにも関わらず、1750rpmから最大トルクを発生することもあり、低速域での扱いやすさにもなんら不満はない。PDKの制御も実にこなれており、試乗中、ギアやクラッチのリンケージでドライなフィードバックが気になるような場面は一度もなかった。
マカンGTSのキャラクターが最も光る場面はワインディングロードだと思うが、そこでのキレの良さは相変わらずだ。軽快という点においては基準車やSの側に分があるも、GTSはガチッとした路面とのコンタクト感や操舵応答の正確性など、動きの精緻さが心地よい。
前述したオプションのPSCBは、ディスク表面にタングステンカーバイト加工が施されており、耐摩耗性向上やダストの減少といった実用的な効果が期待できる。ブレーキタッチは極初期に若干の空走感を覚えるが、踏み込むほどに締め込み感がきっちりと伝わってくるポルシェらしいタッチといえるだろう。
ブランドイメージに応える十分以上の動力性能と、それを完全に生かせる専用チューニングのシャシー。代々のGTSはその双方を常にカスタマーの期待値を上回る高次元で両立し続けてきた。新しいマカンGTSもまた、その伝統を継承するに十分な資質を備えたスポーツモデルといえるだろう。
(文=渡辺敏史/写真=ポルシェ/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ポルシェ・マカンGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4686×1926×1609mm
ホイールベース:2807mm
車重:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:380PS(294kW)/5200-6700rpm
最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)/1750-5000rpm
タイヤ:(前)265/45R20 104Y/(後)295/40R20 106Y
燃費:9.6リッター/100km(約10.4km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値はすべて欧州仕様車の参考値
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。