待ってました! アルファのスーパーセダン「ジュリアGTA」に思うこと
2020.04.10 デイリーコラム最強のイニシャル
深紅のボディーに触れたことがあるわけではない。その姿を見るのはまだ画面の中。もちろんサウンドもスピーカー越しである。それでも……。
グルメ系ユーチューバーの動画で、食する以前に「うまいに決まっている」という文字が出ることがある。季節、素材や調理方法、たちのぼる匂いやこんもり盛られた料理の姿に美味を確信するのだろうが、ステアリングを握ったことのない「アルファ・ロメオ・ジュリアGTA」に同じ気持ちを抱く。「いいに決まっている」。
GTAはアルファ・ロメオの黄金のイニシャル。GTに添えられたA(Alleggerita)は軽量化を意味する。起源は1965年の「ジュリア スプリントGTA」。「スプリントGT」をスリムにして、直4 DOHCユニットの圧縮比を高め、ツインプラグを装着してパワーアップを図ったが、何よりGTAを伝説にしたのはツーリングカー選手権での活躍である。参戦マシンを作り上げたのは、かのアウトデルタ。日常ユースを前提にしたロードバージョンに潜む力を、目いっぱい引き出して多くの勝利を獲得した。「1日1回の勝利」は現在に至るまで語り草。これ以来、GTAはホットモデルの代名詞となったが、イタリア人にとってジュリアとGTAの合体は想像以上にホットであることを今回実感した。
GTAが発表になってすぐ「わずか3つですべてを語る最強のイニシャルの復活」とつづったイタリア人ジャーナリストがいた。興味深かったのは胸をキュンとさせるというより、(胸を)わしづかみにすると表現したこと。血を躍らせる3文字ということだろう。これはアルフィスタのみならずこの国の多くの自動車好きに共通する思いのようで、日ごろは自動運転からEVまで、いやそれ以前に、デビュー時期のもたつきをもって「何をやっても遅い俺たち」などと、自虐ネタの多いネットの書き込みが、今回ばかりは熱かった。
「アルファ、よくやった!」、「待ってました!」。称賛の嵐。ちなみに「ボクがステアリングを握る日は訪れないだろうけど、出たことがうれしい」こう書き込んだ若者がいた。GTAと、よりスパルタンなレース仕様「GTAm」(mはモディファイの意)を合わせて生産台数は500台とされ、価格は発表されていない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
アルファらしさがあふれる一台
ベースは、ジュリアの最上級バージョン「クアドリフォリオ」だ。ボディーパネルやドライブシャフト、果てはスポーツシートのシェルまで、そこここにカーボンファイバーを多用して100kgのダイエットを果たした。脂肪を落とす一方、2.9リッターV6ツインターボエンジンはパワーを30PSアップし540PSを獲得、筋肉も鍛えた。パワーウェイトレシオは2.82kg/PSである。
エアロダイナミクス向上に投入されたのはF1で培われた技術だ。ダウンフォースの増強を図るためザウバーのエアロキットが採用されている。前後トレッドが5cm拡大したのは、スプリングやダンパーといったサスペンションの一部見直しが図られたため。高速時のハンドリングをより確かなものにしたという。一方、GTAmにリアシートは見当たらない。ここはヘルメットと消火器用スペースとなった。ロールバーも設置され、やる気満々のいでたちである。
残念なことに私はハイパフォーマンスカーの魅力を引き出す腕を持っていない。アルファ・ロメオのオーナーになったこともない。しかしこのメーカーが大好きだ。時代と社会に翻弄(ほんろう)された歴史の中で、常にクルマ好きの自我を通したことに魅せられる。それは110年という長い歳月である。
ジュリアGTAは自動車変革期という混乱の時代に、アルファがあらためて差し出した答えだと思う。「技術に裏付けされた走りを実現することで生まれる喜び」。起点と継続の思想だ。2020年という世界中が揺らいだ年に、七転び八起きを繰り返した自動車会社がこういうモデルを提出したことに奇遇を感じる。将来を案じ、先ばかりに気を取られるせわしない日々にあって、GTAは「今」という時間を楽しみましょうと言っているような気がしてならない。
(文=松本 葉/写真=FCA/編集=関 顕也)

松本 葉
-
「レクサスLSコンセプト」にはなぜタイヤが6つ必要なのかNEW 2025.11.19 ジャパンモビリティショー2025に展示された「レクサスLSコンセプト」は、「次のLSはミニバンになっちゃうの?」と人々を驚かせると同時に、リア4輪の6輪化でも話題を振りまいた。次世代のレクサスのフラッグシップが6輪を必要とするのはなぜだろうか。
-
長く継続販売されてきたクルマは“買いの車種”だといえるのか? 2025.11.17 日本車でも欧州車並みにモデルライフが長いクルマは存在する。それらは、熟成を重ねた完成度の高いプロダクトといえるのか? それとも、ただの延命商品なのか? ずばり“買い”か否か――クルマのプロはこう考える。
-
ホンダが電動バイク用の新エンブレムを発表! 新たなブランド戦略が示す“世界5割”の野望 2025.11.14 ホンダが次世代の電動バイクやフラッグシップモデルに用いる、新しいエンブレムを発表! マークの“使い分け”にみる彼らのブランド戦略とは? モーターサイクルショー「EICMA」での発表を通し、さらなる成長へ向けたホンダ二輪事業の変革を探る。
-
キーワードは“愛”! 新型「マツダCX-5」はどのようなクルマに仕上がっているのか? 2025.11.14 「ジャパンモビリティショー2025」でも大いに注目を集めていた3代目「マツダCX-5」。メーカーの世界戦略を担うミドルサイズSUVの新型は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 開発責任者がこだわりを語った。
-
新型「シトロエンC3」が上陸 革新と独創をまとう「シトロエンらしさ」はこうして進化する 2025.11.13 コンセプトカー「Oli(オリ)」の流れをくむ、新たなデザイン言語を採用したシトロエンの新型「C3」が上陸。その個性とシトロエンらしさはいかにして生まれるのか。カラー&マテリアルを担当した日本人デザイナーに話を聞いた。
-
NEW
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録
2025.11.18エディターから一言世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。 -
NEW
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
NEW
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃! -
NEW
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.18試乗記ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。 -
NEW
「赤いブレーキキャリパー」にはどんな意味があるのか?
2025.11.18あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたうブレーキキャリパーには、赤をはじめ鮮やかな色に塗られたものが多い。なぜ赤いキャリパーが採用されるのか? こうしたカラーリングとブレーキ性能との関係は? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
第323回:タダほど安いものはない
2025.11.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。






































