早期終息を願う気持ちは世界共通! コロナ禍に対する自動車業界の取り組み
2020.04.22 デイリーコラム 拡大 |
新型コロナウイルス感染症対策は長期化の様相を呈してきた。マスクや医療用ガウン、消毒用アルコール、人工呼吸器など、さまざまな物資が不足し、普段とは違うものづくりに挑戦する企業も増えている。自動車業界も例外ではなく、本稿ではここまでの自動車業界各社の取り組みを紹介したい。
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世界へ届けたいメッセージとは
新型コロナウイルスは想像していた以上に感染力が強く、また軽症者や無症状者がウイルスを拡散している可能性が指摘されている。それゆえ、世界中で都市封鎖や外出禁止・外出自粛といった措置が取られている。日本では「密閉・密集・密接の三密を避けよう」と呼びかけているが、英語圏では「Social Distance(Distancing)」「Stay Home」などの表現が拡散。要は社会的距離を取ろうということだ。
このスローガンを自社のロゴマークで表現したのが、アウディとフォルクスワーゲン(VW)だ。アウディは4つの輪を、VWはVとWを、それぞれ離すことで社会的距離を取る重要性を表現。そして、「ともにこの難局を乗り越えよう」と呼びかける。制作費用は商品CMやコンテンツと比べたら驚くほど安く、制作期間も短いだろう。しかし、タイムリーに、強いメッセージを発信したことは人々の記憶に刻まれる。
メルセデス・ベンツも「#Stay Home」を訴える動画を公開している。冒頭ではメルセデスにとっても大切な「安全」を強調し、スーパーのレジ係や消防士、医療関係者、警察官、介護者など困難な中でも職務を全うしている人々、そして家にとどまっている人々への感謝を伝えるという内容だ。こちらも、アウディ、VWと同様、コンテンツとしては非常にシンプルだが、しっかりと“らしさ”が表現されている。
また、メルセデス・ベンツミュージアムはコロナ禍で休館中だが、社名の由来やブランドの歴史を紹介する動画も公開中。絵本のように親しみやすいコンテンツは“Stay Home中”のエンターテインメントとしてもオススメだ。
マツダUSAが3月27日に公開したコンテンツも必見だ。動画では静かなBGMに乗せて、外出時に注意すべき、いくつかのルールを切々と訴える。食料品の買い物や処方薬の受け取りなど生活に必要な外出の際には社会的距離を保ってほしい。自分を取り巻く環境に注意し、何かに触れた手を洗ってほしい。これらのルールを守ることで、この困難をともに乗り越えていける……と締めくくる。動画に登場する男女が乗っているクルマがマツダ車なのは当然だが、主役はクルマではない。「#SafeHands(手を洗おう)」がメインメッセージなのである。
国内では、トヨタが3月25日に『世界中のトヨタの仲間たちへ』を公開。ターゲットは世界中にいるトヨタとレクサスで働いている仲間たちだ。豊田社長が自らカメラの前に立ち、困難の中で働いている彼らとその家族に感謝を伝え、「僕らに乗り越えられないものなんてない!」と励ます。アウディやVW、メルセデス、マツダUSAのコンテンツとは雰囲気が異なるが、日本でメッセージ性のあるコンテンツがほとんど作られていないことを考えれば、トヨタの動画は非常に貴重な存在かもしれない。
本格的な支援の動き
もちろんコンテンツだけではなく、自動車業界全体で具体的な支援も始まっている。特に動きが早かったのはトヨタ自動車だ。まだ日本での感染が局地的だった1月29日、医療用品の購入費用1000万元を中国赤十字社に寄付。その後も、追加支援策や感染防止対策などを次々に講じていく。
トヨタに対しては早期から人工呼吸器の製造を期待する声もあった。しかし、ひとつのミスが人命に直結してしまう点は自動車も医療機器も同じであり、不慣れな分野のものづくりには慎重な姿勢を見せてきた。その上で、トヨタができる支援策として4月7日に表明したのが次の6点だ。
(1)医療用フェイスシールド(防護マスク)生産
(2)トヨタ生産方式(TPS)活用による医療機器メーカーの生産性向上への協力
(3)軽症の感染者移送に対するサポートの検討
(4)サプライチェーンを活用したマスクなど衛生用品の調達支援
(5)医療機関にて活用可能な備品の供給
(6)治療薬開発や感染抑制に向けた研究支援への参画
また、4月10日には豊田社長が日本自動車工業会の会長としてスピーチを行い、クルマの部品からマスクを作ってみたものの最初の試作品はゴワゴワだったというエピソードなども交えながら、自動車メーカーが真摯(しんし)に取り組んでいる姿勢を伝えている。
その4日後、ホンダは「感染者搬送車両(仕立て車)の提供」を開始すると発表した。ベース車両は「オデッセイ」や「ステップワゴン」で、その特徴は運転席と後部座席とを分ける仕切りと、前後席間の圧力差を利用した飛沫(ひまつ)感染抑制策だ。車両前方のエアコンの通気口から外気を導入し、後方にある排気口から吐き出すようにすると、運転席側から後席(患者)側へと空気の流れができる。両者の間には仕切り板もあり、運転席側は圧力が高く、後席側は圧力が低くなるので、運転席への飛沫感染リスクが低減できるというわけだ。すでに東京都の港区と渋谷区に納車しており、今後も順次納車するという。
なお、フェイスシールドについてはトヨタだけでなく、ホンダと日産も生産を表明。生産体制や納品数などは各社それぞれだが、いち早く必要な場所に必要な物資を届けたいという思いはどの企業も変わらない。
それは海外勢も同じだ。アメリカではトランプ大統領の号令の下、ゼネラルモーターズやフォード、テスラなどが人工呼吸器の製造に乗り出すという報道が出ている。また、マスクやガウン、フェイスシールドなどについては欧米の主要メーカーのほとんどが生産に取り組むことを表明している。
あのランボルギーニまでもが既存のラインを変えて、マスクとフェイスシールドを生産するという。彼らの母国イタリアは最も被害が甚大な国のひとつ。支援活動をせずにはいられないというのが本音かもしれない。なお、ランボルギーニを含むVWグループではフェイスシールドの生産には3Dプリンターを活用すると発表しており、その点でも注目を集めている。
そしてうれしいことに、各社のこうした動きは拡大するばかり。この記事が掲載される頃にはもっと多くのメーカーが、もっと多くの取り組みを発表していることだろう。
日本国内の緊急事態宣言は5月6日を一応の期限としているが、ウイルスの完全制圧には年単位の時間が必要と指摘する研究者もいる。完全終息で「アフター・コロナ」になるか、うまく共生する「ウィズ・コロナ」になるのか。いずれにしても、いま大切なことは三密を避け、家にとどまり、手を洗うことだ。この時をともに乗り越えていこう。
(文=林 愛子/写真=アウディ、フォルクスワーゲン、ダイムラー、マツダUSA、本田技研工業、日産自動車、ランボルギーニ、フェラーリ/編集=藤沢 勝)

林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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