第174回:第一印象は毒虫
2020.05.05 カーマニア人間国宝への道残念なインテリア
「ヤリス ハイブリッド」の走りに感動し、「うおおおお欲しい!」とケモノのような欲望を抱いた私だが、一方では「絶対買わねぇ!」とも叫んでいた。
理由は、インテリアとデザインで御座います。
インテリアは大いに安っぽい。なかんずくダッシュボードの質感は、コンビニ弁当のパッケージを思わせる。いくらベーシックカーでも、いまどきこれはなかろう! オプション&諸経費コミならば支払総額300万円近くにだってなるのだから。宿敵「フィット」が癒やし感満点で良きセンスのインテリアを実現しているのと比ぶれば、15-3でコールド負け!
仮にヤリス ハイブリッドを買うとなると、我が家の場合、「シトロエンDS3」との入れ替えになりますが、そちらとのインテリア対決ならば50-3のコールド負け。まったくお話にならぬ。
おそらく世間一般の皆さまは、あまりインテリアにはこだわらぬのでありましょう。日本のベストセラーカーには、インテリアがメタメタなのが多いでありますから。
近年の好例は「ノートe-POWER」だ。あちらもワンペダルドライブは新鮮で大いに楽しいけれども、インテリアは落第。安っぽい樹脂感バリバリのダッシュボードに、ピアノブラックのセンター部のマッチングセンスは残念無念。トヨタと日産には猛省を促したい。んなこと言ってもインテリアでクルマは売れないんでムリでちゅね……。
毒虫のようなデザイン
そしてデザイン。ヤリスのエクステリアの第一印象は「毒虫」で御座いました。
いや、毒虫が悪いわけではない。今の時代の自動車デザインは、毒虫上等、毒虫あるある。毒蛇や毒蛾(ドクガ)もいらっしゃい。しかしヤリスの場合、わけありな毒虫で、どうも好きになれない。
私と長年、デザイン対談の連載を続けてくださった元日産チーフデザイナーの前澤義雄氏(故人)いわく、「デザインがいいとか、悪いとか思ったら、その理由を一生懸命考えて言語化しろ」との由。
その教えに従ってみますると、まず全体のフォルムですが、ウエストラインより下に対して、上屋(グリーンハウス)がやや小さすぎるのはともかく、全体形状がヌイグルミのようにポワンとしており、パネル面はつるりと深みがない。上屋が小さければ重心が低く、スポーティーに見えるはずなれど、なぜかファンシーグッズの如く見えるのはそのせいか。あとほんの2~3mmでもAピラーがスッと立っておればかなり違っていたかもと思うところであります。
ディテールでは、まず顔のエラが不自然に張りすぎている。ツリ目のヘッドライトは、外側の端がこれまた不自然に細く突出している。そしてグリル下側は開放されており、だらしなくベロを出してるようにも見える。
サイドでは、リアのオーバーフェンダー風の造形が、無理にえぐったようで演出過剰。記号的なスポーティーさであり、タイヤ径が小さいことと相まって、とんとスポーティーに見えない。立体的なテールランプとそれに続くリアの造形は、インプレッシブではあるがやや品がない。
総合すると、「悪態をついている毒虫のヌイグルミ」という印象になる。シンプルな美とは反対の方向性で、一目見たら忘れられぬが、自分の愛車にするのはイヤイヤイヤ!
「ヤリス」のデザインは傑作か!?
ところが!
そんなヤリスと、自分のDS3を並べてみたら、姉妹のようだったのです。よく見りゃすべて違うけれど、一般の方が遠くから眺めたら、同じクルマに見えるやもしれぬ。
なにしろツリ目やガバッと開いた口(グリル)のイメージがかなり近い。たまたまボディーカラーも赤系のツートーン同士だったので、細部の違いにしか見えないかもしれない。ショック!
DS3には一目ぼれしたけれど、ヤリスは一目でムリだと思ったのは、単なる違和感レベルの差であって、ヤリスに目が慣れてないだけなのか?
実をいえば、第一印象から違和感ゼロで受け入れられてしまうデザインは、人畜無害で後に残らない。逆に最初は強烈な違和感を覚えたデザインこそ傑作だったりする。
自分の例で言えば、ハタチくらいの頃、初めて「シトロエンDS」(元祖)を見たときは吐き気を催したにもかかわらず、10年、20年たつほどに恋情が深まり、今ではほとんど「人生最後の夢」になりました。
私のヤリスに対する拒絶感は、この大胆かつ斬新なデザインに、保守的な目がついていけてないだけなのだろうか。あと10年20年たつと、「ヤリス最高だったなぁ……」と思い返すのだろうか~~~~!
今の予想では、1~2年で目が慣れ、いいとも悪いとも思わなくなるというあたりなのですが、実のところヤリスのデザインはどうなのか。ああ、明照寺さんに聞いてみたい。
そんなことを思っていたら、「ヤリスクロス」の写真が公開され、三たび衝撃を受けました。それについてはまた次回。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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