第193回:イタリア公用車は国産車がボロ負け! その理由は?
2011.05.14 マッキナ あらモーダ!第193回:イタリア公用車は国産車がボロ負け! その理由は?
「アウト・ブルー」
イタリアでは運転士付きのクルマを「アウト・ブルー(auto blu)」という。「blu」は英語の「blue」だが、イタリア語のbluには「高貴な」という意味があり、直訳すれば「高貴なクルマ」ということになる。
アウト・ブルーは、広義では運転士付き観光レンタカーまで含むことがあるが、一般的には「政治家やお役人が後席に乗る公用車」を指すことが多い。今週のお題は、このアウト・ブルーだ。
今週イタリアの民放テレビ局カナーレ5の「TG5ニュース」では、このアウト・ブルーを二夜にわたって採り上げた。内容は、以下のようなものだった。
レナート・ブルネッタ行政イノベーション担当大臣の諮問機関がまとめたレポートによると、最も大きな税金の無駄遣いのひとつは、ずばり「公用車」である。イタリアには国家機関のものだけで8万6000台の公用車がある。
内訳は
・制度上、正規に定められている運転士付き公用車/5000台
・管理職公務員用の運転士付き/1万台
・運転士なしの公用車(アウト・グリージャ=グレーのクルマと呼ばれている)/7万1000台。
これらの購入・リース・運転士の給与・整備維持などのために年間10億ユーロ(1150億円!)が使われているという。
ボクが発見した別の調査結果では、アメリカ合衆国と比較した場合、イタリアは人口が5分の1なのにもかかわらず、公用車の数は10倍にのぼるらしい。運転士なしの公用車の数からすれば少ないが、イタリア国民の目につきやすいのは、やはり運転士付きの公用車「アウト・ブルー」だ。大抵は青色回転灯をつけた護衛車を前後につけ、一般車を蹴散らしながら第3車線を高速で走り抜けてゆく。まさに大名行列である。ボクもアウトストラーダを走っていると、かなり頻繁にアウト・ブルーに出くわす。
それを見るたびボクは「これでは、鉄道や空港などのインフラ整備について、他の欧州諸国より遅れているという現実を、政治家や役人はわからないだろうな」と思う。
だが同時に、幹線こそ発達しているものの、地方行きはいきなりダメになる鉄道網ゆえ「クルマを使わなければ、とてもじゃないけど公務が務まらないだろうな」という同情的な目も個人的には向けている。
外国車が選ばれる理由
ところで、このニュースリポートがもうひとつ問題に挙げていたのは、「公用車における輸入車の多さ」である。たしかに、近年はドイツ製の公用車が多い。そもそもベルルスコーニ首相は「アウディA8」、フィーニ下院議長は「BMW7シリーズ」、ボッシ連邦制改革大臣・北部同盟党首は「ボルボ」と、イタリア政界の主役たちの移動車はいずれも輸入車である。
番組内でカリトック系日刊紙『アヴェニーレ』のマルコ・タルキーニョ編集長は、「イタリアの政治家は、国民の労働と知識の結晶の証として国産車に乗るべきだ」とコメントした。
いっぽうでリポート第2夜では、輸入公用車が増える理由を探っている。それによると、けっしてイタリア人特有の「エステローフィラ=esterofila(舶来主義)」だけでないことが浮かび上がる。
公用車導入(リースを含む)の入札を行った場合、応札価格がイタリア車よりも外国車の方が安いケースが近年続出し、最大30%も安い場合もあるというのだ。最近は入札の透明性を確保すべくインターネットで情報公開されているので、イタリア車の価格的不利はさらに明白らしい。そうしたなか、最近はジャガーもイタリア公用車市場の一角に食い込み始めたと、ニュースは報じていた。
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フィアットのニューモデルに期待
ちなみに、近年イタリア車が不利なのは、警察車の入札でも同じだ。それはともかく、「イタリア政治家ならイタリア車」論については、かつてフィアットのモンテゼーモロ会長(当時)も苦言を呈したことをボクは覚えている。
しかし現実を見てみると、今や閣僚や高級官僚が使えるイタリア車が少ないことに気づく。例えば「マセラティ・クアトロポルテ」は、一連のドイツ車よりひとクラス上である。前述の入札では明らかに不利だ。最後の公用車向けモデルだった「ランチア・テージス」も2009年に生産完了している。カタログから外れたモデルは「維持費用がかかる」との理由で嫌われ、早々に入れ替えが行われることが多い。
防弾性能などテロ対策に関しても、ドイツ系メーカーの方が進んでいる。事実、ベルルスコーニ首相が愛用するアウディA8は「セキュリティ」と名づけられたアウディの一部門によるハイレベル防弾仕様車だ。もちろんフィアットも2003年、「プロテクタ」と称するランチア・テージスの防弾仕様車を発表したことがある。また2004年に同社は、当時のチャンピ大統領とベルルスコーニ首相に、マセラティ・クアトロポルテの防弾仕様車を1台ずつ寄贈している。
しかしフィアットの「プロテクタ」部門はドイツ系メーカーの同様のセクションほど発展をみなかった。ベルルスコーニ首相もアウディA8に乗り続けている。今日でこそだいぶ落ち着いたが、1980年代にはさまざまなテロに直面したイタリア閣僚としては、少しでも命を守ってくれるクルマを選ぶのは当然であろう。
またこれも現実を見たボクの考えだが、今やイタリア系メーカーのさまざまなパーツはドイツ車にも多く採用されている。かつ多くの優秀なイタリア人自動車マンやスタイリストがドイツ系メーカーで重要な役職に就いて活躍している。これだって、「国民の労働と知識の結晶」の一部である。
モノ・ヒトともに交流が高度になった欧州社会で、一概に「イタリアのブランドはOK、外国メーカーはアウト」という意見は意味をなさなくなりつつあると思う。
そうした中、ちょいと気になるのは、2012年に市場投入予定の新型「ランチア・テーマ」だ。ご存じの方も多いと思うが、新型テーマは資本提携先クライスラーの「300」をベースにしたもので、生産も300と同じカナダで行われる。ただし欧州市場を意識して設定したディーゼルエンジンはイタリア製だ。
最新の報道によると、フィアットは近いうちクライスラーへの出資比率を70%まで高める可能性があるという。イタリアのブランドだが中身はアメリカ車。資本でいえば、ほぼフィアット。こうした新時代の国際協調で誕生した新テーマを国産車擁護主義者がどうとらえるのか? これに乗るイタリア閣僚が現れるのか? 今から興味がわく。まあちょっと皮肉な見方をすれば、もし国産ブランド愛用の気運が高まったとき、輸入車ファン閣僚のエクスキューズとして最適、かもしれない。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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