フルモデルチェンジした「プジョー208」 新型のここに注目せよ!
2020.07.10 デイリーコラム電動化時代の意欲作
2019年から展開されているプジョーのブランドスローガン「MOTION & e-MOTION」は一目瞭然。販売車両のすべてを電動化して、内燃機と同列化していくという決意の表明です。ちなみにそれ以前のスローガンは「MOTION & EMOTION」だったから、うまいことやったもんです。
去る2020年7月2日にオンラインで行われた新しいプジョー208のローンチイベントを見ていて強く感じたのは、まさにこの意向が色濃く表現されていたことです。具体的にいえば、ガソリンモデルの「208」と電気自動車(BEV)の「e-208」が同時にお披露目されただけでなく、その扱いも全く同列。そこには性能面でも機能面でも電動車両のプライオリティーをイキって誇示すること自体が旧態的であって、内燃機でもBEVでもあなたの用途や価値観でフラットに選べばいいんじゃない? というブランドのクレバーなメッセージが見えてきます。
そんな話を“地に足のついたもの”にしたのが、グループPSAの新しいアーキテクチャー「CMP」です。CMPはコモン・モジュラー・プラットフォームの略。その名の通り、ブランド全体のBセグメント以下級のモデル群をカバーするアーキテクチャーとして2019年の「DS 3クロスバック」から用いられています。そして新型208では、このアーキテクチャーがいかに少ない工数でBEVに転用できるかが初めて世に示されたわけです。
e-208のパッケージは従来型のエンジンやトランスミッションがおさまるボンネット下にモーターやパワーコントロールユニットなどを集約的にマウントし、バッテリーは前席下部やセンタートンネル、燃料タンク部などに凝縮しておさめています。つまり、内燃機モデルの白場を徹底的に生かして衝突安全性能などを担保しつつ、重量増加に対して補強を施すなどの手間でBEV化を成立させたのです。
市場での競争力は十分
BEVの物理的弱点である価格と航続距離を適正なものに抑えるためには、バッテリーの搭載量をうまく調整する必要があります。で、e-208の搭載量はといえば50kWh。これは「日産リーフ」でいえば標準グレードと上級グレード「e+」のちょうど中間くらいで、「レクサスUX300e」よりはわずかに小さく、「ホンダe」や「マツダMX-30」よりは4割ほど大きいボリュームになります。
そして航続距離はWLTPモードで340km。実質8割とみても270kmあまりです。一方の充電時間は200V・6kWの普通充電を使えば9時間で満充電に、もちろんCHAdeMOにも対応していて、出先では50分で80%の充電が可能です。Bセグメントの用途を鑑みれば実用的な行動範囲が十分カバーできることでしょう。
使い勝手の面では、前席の床面がバッテリー搭載の関係で若干高く、後席に座った際に爪先の置き場に難儀するところはありますが、前席の居住性や積載性などは内燃機モデルの208と比べて遜色ありません。あと走りについては、車台の補強やサスペンションの強化によって、乗り心地のうえでは粗いところもありますが、動力性能面ではEVならではの“低中速域の極厚トルク”が、内燃機モデルとは全く異なる個性となっています。
価格については地域によって補助金体系などの差はありますが、購入時に内燃機モデルよりe-208が高くなるのは致し方ありません。が、プジョー的には「ライフサイクルの中で廉価な夜間充電などを用いることで内燃機モデルとの差が詰まり、最終的にはほぼ同等のトータルコストにおさまる」という皮算用のもと、値付けを頑張ったそうです。結果、既に販売されているリーフと“じっくり比べて悩める価格”におさめたのはお見事だと思います。ただし、VtoH(Vehicle to Home:車両にためた電力を家庭で使えるようにすること)などの発展性については未知数であることは理解しておかねばなりません。
ハイライトはインテリア
このように、とかくe-208の方に興味がいってしまうのは、内燃機モデルの側のパワーユニット&ドライブトレインが、前型比で大きな変化がないのも一因でしょうか。とはいえ、驚くほど低振動でスキッと回る1.2リッター3気筒ターボエンジンとアイシン・エィ・ダブリュ製8段ATの組み合わせは、現行Bセグメントの中でもトップクラスの性能と質感を両立しているといっても過言ではありません。
昨今、グループPSAはプジョーとシトロエンのすみ分けを乗り味面で明確にしていて、プジョーの側はこれまでにも増してスポーティネス志向になっています。208もしかりで、ワインディングロードではそのアジリティーと“旋回限界”に驚かされる一方、タウンスピードではちょっと硬めのライド感、そして凹凸越えなどのフィードバックがドライに感じられるのも確かです。新型208、ドイツ車あたりからの乗り換えならば全然違和感はないでしょうが、既にフランス車に慣れたユーザーにとって、一番賛否が分かれるのは乗り味ではないかと個人的には思っています。
逆に誰にも驚かれるほどのストロングポイントとなりそうなのは、まさかの内装の質感、装備の充実ぶりではないでしょうか。新型208、ここはとにかく気合が入っていまして、ほぼフルスペックなADAS(先進運転支援システム)の作動状況などを示す「3D iコックピット」の、実像に3Dホログラムを重ねた多彩な情報表現には思わず見とれてしまいます。ほかにもスマホとの連携を前提としたインフォテインメントまわりの使い勝手や見やすさも美点です。
個人的には苦手だった超小径ステアリングホイールも、これらの表示ロジックをもってやっと整合性がとれてきたというところでしょうか。また、樹脂部品の仕上げや取り付けの剛性、はめ込みの緻密さやソフトパッドのシボといったスタティックなもののクオリティーもBセグメントトップにあるといっても過言ではありません。
と、これらの美点をくまなく標準で備えたグレードといえば、真ん中相当の「アリュール」でしょう。それが260万円以下というプライシングは、少なくとも輸入車のライバルにとっては相当威嚇的なものになっていると思います。
(文=渡辺敏史/写真=グループPSA/編集=関 顕也)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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