トヨタ・ヤリス ハイブリッドZ(FF/CVT)/ホンダ・フィットe:HEVネス(FF/CVT)
“軽さ”と“低さ”の妙味 2020.07.14 試乗記 かたや、小型車の常識を変えるという「トヨタ・ヤリス」。こなた、心地よさを強くアピールする「ホンダ・フィット」。今回は、今が旬のコンパクトなハイブリッドカー2台を乗り比べ、それぞれの持ち味を浮き彫りにした。まずは先攻、新型ヤリスについてリポートする。販売競争もデッドヒート
2020年の2月10日に発売となったトヨタ・ヤリスに対して、新型フィットはその直後の2月13日に発売された。(わずか3日ちがいの)実質的な同時発売といっていい。
ご記憶のように、これは最初から意図されたものではない。本来は2019年秋の予定だった新型フィットの発売が、軽自動車の「N-WGN」に端を発する電動パーキングブレーキ問題の影響で大幅に遅れてしまったのだ。とはいえ、この2台のガチンコ競合車が紆余曲折を経たうえで、ここまでドンピシャに発売時期が重なるとは、逆に因縁めいたものを感じてしまう。
両車の実質的な発売初月となった3月の国内登録車販売台数ランキングでは、フィットが2位でヤリスが3位となり、まずはフィットに軍配が上がった。しかし、続く4月と5月はヤリスが逆転して、2カ月連続で1位を獲得(フィットは2位と3位)、そして直近の2020年6月はヤリスが2位でフィットが4位だった。
現在の新車販売台数は新型コロナウイルスの影響を差し引いて見る必要があるにしても、両車とも立ち上がりは上々の様子で、しかも僅差で争っているのは確かである。ただ、それよりも印象的なのは、ヤリスとフィットの完全な一騎打ちではなく、そこに「ライズ」や「カローラ」、「シエンタ」などのトヨタ車が割って入っているところだ。昔から強かったトヨタだが、最近は“一強”とでもいいたくなる勢いが目立つ。というわけで、フィットのみならず、がんばれホンダ(そして、日産、スズキ、マツダ、スバル、ダイハツ、三菱……)のココロだ。
ところで、クロスオーバーSUVの台頭もあって、このクラスの伝統的なハッチバックが一定以上の規模で売れる市場は、すでに日本と欧州だけになった。よって、新しいヤリスとフィットも明確に日欧市場の嗜好に特化したつくりとなっている。欧州(≒EU)では厳しいメーカー平均CO2排出(≒燃費)規制が導入されているので、欧州でのヤリスはハイブリッドが主体、フィットの欧州仕様は基本的にハイブリッドのみだそうだ。
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新型ヤリスはかなり欧風?
とくにヤリスは、見るからに欧州車のライバルに正面から対峙せんとする思いがほとばしっている。そのプロポーションから想像できるように、ヤリスは後席空間にあまり重点を置いていない。そして抑揚の強い肉食系デザインはエクステリアだけでなく、インテリアにも取り入れられている。運転席も囲まれ感の強いコックピット感覚が強調されている。
地元市場に軽自動車という難敵がいるせいもあって、日本メーカーには「コンパクトカーでも大人4人がゆったり座れないと失格」みたいな強迫観念が定着している。対して、現代の欧州ではコンパクトカー(=Bセグメント)は「普段乗るのはせいぜい2人まで」と割り切ってスタイル重視・キャラクター重視の商品が主流だ。
トヨタも「ヴィッツ」時代は広い室内空間を売りにしていたが、新しいヤリスは欧州Bセグメントのど真ん中で勝負すべく、カジを切ったように見える。かといって、日本市場も軽視しているわけでもない。その証拠に、ヤリスは日本と欧州それぞれに全幅の異なる専用車体を用意するほどだし、「本気の欧州戦略キャラクターは、今は日本でも売れる」とトヨタは考えているのかもしれない。
ただ、実際のヤリスの室内は見た目の印象よりは広く、実用的である。欧州メーカーのBセグメントにはこれより後席がせまい例も少なくない。ダッシュボードやドアトリムも第一印象では存在感がありすぎる造形だが、よくよく観察すると、あちこちに使い勝手のいい小物置き場がちりばめられている。このあたりのノウハウとセンスは、いかにも日本的といってもいい。まあ、もっとも下に下げてもルームミラー視界の大半を蹴ってしまう巨大なヘッドレストの構造だけは修正いただきたいが……。
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驚くほどのヒラヒラ感
新世代コンパクトカー用「GA-B」プラットフォーム(と同じく新しいTNGA世代パワートレイン)を土台とするヤリスはなにより車重の軽さが特徴だ。今回のフィットと比較すると、ともに1.5リッターハイブリッドを搭載しつつ、車検証上の車重はちょうど100kg(!)軽い。
ヤリスの軽さは、タイヤが転がりだした瞬間から実感として伝わってくる。動きも軽ければパワステも軽い。パワートレインの核となる1.5リッターエンジンはフィットのほうがパワフルなのに、細かな加減速でのピックアップ感ではヤリスのほうが活発で若々しいのは、車重の軽さも奏功しているのだろう。
ただ、フィットと実際に乗り比べたときの運転感覚は、100kgという実重以上に差がある。ヤリスはとにかくヒラヒラと軽いのだ。ヤリスは相当な軽量級だが、絶対的には「スズキ・スイフト」のほうがもっと軽い。じつはGA-Bプラットフォームの自慢はただ軽いだけではない。あらゆるメカニズムを低く搭載した低重心、そして前後オーバーハングをとくに軽量化した慣性モーメントの小ささが隠れたキモらしい。
そうしたウンチクを頭に入れたうえで、あらためてヤリスに乗ると、なるほどと思う。ヤリスは路面にへばりつくようにグリップして、ヨー方向の動きがとにかく鋭い。クルマを振り回すほど、どんどん軽さに拍車がかかっていく錯覚すらおぼえるのだ。
ヤリスのパリッとした剛性感やキビキビとした身のこなしは、なにもわざわざ山坂道に持ち込まずとも、市街地でも十二分に味わえる。どこかで聞いたことがあるキャッチフレーズではあるが、そんな味わいのヤリスを、つつしんで「街の遊撃手」とお呼びしたい気分である。
進化・熟成の余地はある
街中でも明らかに気づくヤリスの快活な乗り味は、軽さや低重心、低慣性モーメントといった基本骨格だけで醸成できるものでもない。聞くところでは、心臓部の新世代ハイブリッドにも、これまでにない“エンブレ”制御を、燃費には少しばかり不利であることを承知で入れ込んでいるという。また、1.5リッターエンジンも3気筒特有のビィー音は美声とまではいわないが、高回転でもまったく苦しげでないし、つくりこまれたと思しき吸排気音は確かにソソる音色である。ヤリスにかぎらず、TNGA世代になってからのトヨタには、こういうエンスーな開発秘話が多い。
ただ、このように街中で明確に素性の良さをうかがわせるいっぽうで、山坂道に持ち込んだヤリスには、今のところ少しばかり物足りない部分があるのも事実だ。
パワートレインはなるほど活発で快音なのだが、かなうことなら、ステアリングやシートから提供される接地感はもっとリアルで鮮明にあってほしい。つまり、パワートレインのレスポンスに対して、荷重が乗ったサスペンションはもう少し素直に沈み込んでほしいし、パワステも全体にちょっと軽すぎるし、フィードバックも薄い。また、大きめの凹凸を超えたときに“キンッ”という金属的な低級音が出がちなのは、安っぽさを助長してしまう。
ヤリスはGA-Bプラットフォームの上市第1弾である。「プリウス」で初めて世に出たGA-Cでも、その後の進化・熟成ぶりを見るに、GA-Bでも次の「ヤリスクロス」、そしてヤリスのさらなる改良にも期待したい。こういうことを望みたくなるのも、今のトヨタがダイナミクス性能における味の追求に貪欲だからだ。日本を代表する自動車メーカーのこうしたエンスーな覚醒は、日本人のクルマ好きのひとりとして素直に頼もしい。(後編・フィット編に続く)
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
トヨタ・ヤリス ハイブリッドZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm
ホイールベース:2550mm
車重:1100kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3600-4400rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:32.6km/リッター(WLTCモード)
価格:229万5000円/テスト車=296万0500円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万3000円)/185/55R16タイヤ&16×6Jアルミホイール<切削光輝+ブラック塗装センターオーナメント付き>(8万2500円)/カラーヘッドアップディスプレイ(4万4000円)/ブラインドスポットモニター<BMS>+リアクロストラフィックオートブレーキ<パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]>+インテリジェントクリアランスソナー<パーキングサポートブレーキ[静止物]>(10万0100円)/トヨタチームメイト アドバンストパーク<パノラミックビューモニター付き>(7万7000円)/合成皮革+ツイード調ファブリック(1万1000円)アクセサリーコンセント<AC100V・1500W×1個>(4万4000円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビキット(11万円)/TV+Apple CarPlay+Android Auto(3万3000円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビキット連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万3000円)/トノカバー(1万1000円)/フロアマット<デラックス>(2万3650円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:6164km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:523.4km
使用燃料:24.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:21.5km/リッター(満タン法)/21.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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ホンダ・フィットe:HEVネス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:109PS(80kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:27.4km/リッター(WLTCモード)/35.0km/リッター(JC08モード)
価格:222万7500円/テスト車=260万8100円
オプション装備:ボディーカラー<ルナシルバー・メタリック×ライムグリーン>(5万5000円)/コンフォートビューパッケージ(3万3000円)/ ※以下、販売店オプション 9インチプレミアムインターナビ<VXU-205FTi>(19万8000円)/ナビ取り付けアタッチメント(4400円)/ドライブレコーダー<DRH-197SM>(2万7500円)/ETC2.0車載器 ナビ連動タイプ(2万7500円)/ETC車載器取り付けアタッチメント(6600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(2万8600円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:4028km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:501.1km
使用燃料:27.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.6km/リッター(満タン法)/19.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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