あまりに罪つくりな電気自動車「ホンダe」に試乗した
2020.09.09 デイリーコラム試乗時間は30分
「ホンダe」の最大の魅力はデザインにある。と決めつけても、多くの方に納得してもらえるのではないだろうか。全長4m足らずのつるんとしたボディーと、常にこちらを見つめているかのようなつぶらな瞳(ヘッドランプ)。嫌悪感を抱く人が極めて少ない秀逸なスタイルだと思う。ホンダeの発売日が明らかになった2020年8月27日には、インターネットでその記事を読んだ私の妻が、スクリーンショットを見せながら「次はこのクルマにしたい」と訴えかけてきた。普段はクルマに全く興味を示さない妻がである。私は「乗り出し500万円だよ」と一蹴した。
一蹴したからといって私がホンダeに無関心なわけではなく、むしろその逆である。形が気に入ったのなら次は動かしてみたくなるというのが人の心だ。
そんな折、東京都渋谷区にあるwebCG編集部の至近で、ホンダeの試乗イベントが開催されているという情報が舞い込んだ。今回はそこでチョイ乗りした印象をお届けする。与えられた試乗時間はわずか30分。走れたのは渋滞気味の都内一般道のみで、対話型インフォテインメントシステム「Hondaパーソナルアシスタント」などの新機軸を試す時間はほとんどなかった。きちんとした試乗記は今後掲載されるはずのジャーナリスト諸氏によるものをお待ちいただきたい。
キャビンに陣取るテレビ台
ドアを開けると、まずはダッシュボードを横断するディスプレイ群が目に入る。左右にサイドカメラミラーのモニターがあり、それに挟まれるようにメーターパネル、ドライバーのインフォテインメント用、パッセンジャーのインフォテインメント用の画面が並んでいる。どれも自分が持っている3年前に買ったスマートフォンと同じくらいの精細感がある。ダッシュボードはこれらを上段とした2段構えになっていて、木目調デザインの下段は少し張り出している。リビングをイメージしているので、ディスプレイ群がテレビで木目調の部分はテレビ台という造形になっているそうだ。テレビに見立てられているだけあって実際のテレビ映像も見られる。
シートの仕上がりはとてもいい。ザラザラとした風合いの布地は上質感にあふれており、これを眺めているだけでも満足感を得られる。座ってみれば見た目よりもずっとファームな感触で、ウレタンの厚みを感じられる。圧をかけたところだけがじんわりと沈み込む低反発素材みたいだ。シートベルトがブラウンというのも気が利いている。
リアシートは座面も背もたれもフラットで、聞けばソファをイメージしたという。こちらは前席よりもかなり柔らかく、ビーズクッションのようにフワフワだ。膝まわりの空間などは申し分ないものの、長時間の乗車はつらいかもしれない。ホンダもシティーコミューターとうたっているので、後席は割り切りの対象というところだろう。窓も半分くらいしか開かない。
発進加速はマイルド
少し観察が過ぎてしまったが、ようやく運転席に座ってみる。シフトセレクターはボタン式で、その周囲にドライブモード(「ノーマル」と「スポーツ」のみ)のセレクターと回生ブレーキを強めてアクセルペダルの操作のみで加減速ができる「シングルペダルコントロール」のオン/オフスイッチが付いている。
まずはノーマルモード、シングルペダルコントロールはオフで走らせてみると、ホンダeは電気自動車特有のギュイーンという加速……ではなく、だいぶマイルドな発進を見せた。モードをスポーツに切り替えてみても劇的な変化はなく、乗員がのけぞるような加速はしない。
試乗したのは高いほうのグレード「アドバンス」なので、モーターは最高出力154PS、最大トルク315N・mというスペックを誇る。しかし、よその電気自動車よりも控えめとはいえ、フロア下に大量のリチウムイオンバッテリーを積んだホンダeの車両重量は1.5tを超えている。全長×全幅が3895×1750mmというサイズを考えるとなかなかの重量級であり、目の覚めるような加速を味わいたいのであれば、他をあたるべきだろう。
最小回転半径4.3mのRWD車というだけあってコーナリングは痛快である。といってもこの日に味わえたのは交差点での右左折だけだったものの、乗り慣れたクルマと同じ感覚で右折を試みたところ、危うくUターンしそうになったほどだ(←本当)。良好な前方視界も相まってシティーコミューターとしての高い資質を感じるとともに、郊外のオープンロードで思い切り走らせてみたいとも思った。乗り心地は極めて良好。ステアリングの手応えは軽いが、クルマの挙動はヒラリヒラリという感じではなく、しっとりとしたフィーリングだ。
航続可能距離は131km
シングルペダルコントロールをオンにすると回生ブレーキが一気に強くなり、タウンスピードだとアクセルオフから5mほどで停車するような減速を見せる。シフトパドルを使うと減速の強さを3段階(スポーツモードだと4段階)に変更できるが、踏む時も緩める時もじんわりとした操作を心がければ、誰でも加減速から停止までワンペダルドライブを楽しめるだろう。ただしホイールベースが2530mmと長くはないせいか、急操作した時に発生する車体のピッチングはなかなか強烈だ。
航続可能距離はかなり悲観的である。試乗開始した時点でのバッテリー残量は94%。メーター内に示された航続可能距離は131km(!)だった。ただし、この日の外気温は34度。事前にスタッフがエアコンの温度設定を「LOW」、風量を「MAX」に設定してくれていたのである。エアコンをオフにすると航続可能距離は190kmにまで回復した。
しかし日本の自然環境において、エアコンオフで運転するというのはかなりストイックな行為だ。冬は着込めばいいが、夏はいつも汗だくというのも気が引ける。空調を普通に使用した場合の最大航続可能距離は、170~180kmあたりというところだろうか。
当然ながら、この航続可能距離もマイルドなモーター性能も、すべてはホンダの意図した通りのものだ。企業別平均燃費基準などをにらみつつ、ホンダの企業哲学や市場調査に沿って導き出されたスペックであり、その上で「シティーコミューターとして受け入れられる方にぜひ」という提案である。だからホンダeは「都市部の生活に特化したとてもよくできたフツーのクルマ」に仕上がっている。
一方で、だからホンダとホンダeは罪つくりだとも感じる。冒頭に書いた通り、このデザインは人を魅了してやまない。この日の短い試乗時間でもスマートフォンのカメラを何度も向けられた。誰もが欲しくなるクルマでありながら、実は使う人を選ぶというのはちょっと酷な話ではないか。セカンドカーとして迎えるにはあまりに高価だ(わが家ではファーストカーでも無理)。ホンダeが日本中に広くあまねく行き渡ることを望む。
(文と写真と編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
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