フィアット500eアイコン(FWD)/ホンダeアドバンス(RWD)
未来はきっとバラ色だ 2022.07.02 試乗記 日伊のコンパクトな電気自動車(EV)「ホンダe」と「フィアット500e」。ともにラブリーなデザインが魅力の都市型コミューターだが、両車のドライブフィールは全く異なるものだった。“選べる幸せ”を体現した2台の試乗を通し、ジドーシャの未来に思いをはせた。乗ってみると全然違う
みなさん、お電気ですか。失礼しま~す(前編参照)。
EV化は画一化につながる。そう私は思っていた。ところが、ホンダeとフィアット500e、乗り比べてみたら、そうではなかった。
初試乗の500eは、まずもって着座位置が意外と高いことに驚いた。全高1530mmのおむすび形ボディーはダテではない。500eはホンダeより200mm近くも全長が短いのに、20mm車高が高い。「トヨタ・カローラ」(セダン)の1435mmを基準とするなら、それより100mm弱も背高で、見晴らしがステキにいい。それを、そう背高に見せていない。そこにおむすび型ボディーの秘密がある。と私はニラんでいる。
インテリアはイタリアンモダンとクラシックが同居している。液晶スクリーンがダッシュボードの中央にあり、イタリアン・モダンのモダンがよりモダンに、21世紀的に更新されてもいる。
室内が広々としているわけではない。前言を翻すようだけれど、全高は高いのに、筆者の場合、頭髪が天井の梁(はり)に触る。なんたることか。おそらく座高の低いイタリア人向きだから、だろう。これもイタリア車である。そういえば、1980~1990年代の「アルファ・ロメオ164」の天井も低かった。最初は首が傾く。そしてやがて慣れる。イタリア車というのは、そういうもんやから。だんだんミルクボーイ風になってきた……。
頭髪が天井に触ってしまう理由を、もうちょっと聞かせてくれる? そのひとつに、シートのアンコがたっぷりしていることがある。このシート、環境に配慮したリサイクルレザーを表皮に用いており、背中とお尻の当たる部分にFIATのモノグラムがスティッチで描かれている。これには滑り止めの機能もあると思われる。高級車もかくやの職人仕事ではないか。ヴィヴァ、イタリア! である。
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発進加速はとにかく元気
スタートのボタンを押すと、なんとも耳に心地よい甘い音楽がほんの数秒流れてくる。これはフェデリコ・フェリーニの映画『フェリーニのアマルコルド』で使われたニーノ・ロータの曲が元になっているそうである。『アマルコルド』が見たくなっちゃうようなサウンドで、なんというのか、気分がイタリアになる。イッタリアッ。地中海の私の太陽。♪お~・そ~れ・み~お。
恵比寿の街を走りだしてみると、お、お、おっと、加速が鋭くてビックリ。「ひゅむむむむむっ」というコンバーターのそれとおぼしきサウンドを発しながら、元気ハツラツ。電気ですか~。乗り込んだとき、電池の残量は98%、走行可能な距離は241kmと出ていた。木更津まで片道60km程度。あちらでウロウロして戻ってくるのにも十分である。
ドライブモードには「ノーマル」、ブレーキが強まる「レンジ」、航続距離を最大化する「シェルパ」の3つがある。筆者は今回、ほとんど「ノーマル」を選ぶ。それがノーマルというものだろう。ブレーキをかけると、ひゅ~ん、というエネルギー回生をしているらしきサウンドが聞こえている。試しにレンジに切り替えると、アクセルを離しただけで強力な制動力が得られる。その感覚に合わせるのが面倒なので、ノーマルに戻す。
静かである。エンジンのないEV特有の静けさである。信号で止まるとき、ゴトゴトというような路面からのノイズが入ってきたりする。ソープボックスカーというのはこういうものかもしれない。と思ったりする。
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ドライブフィールにライブ感がある
乗り心地は2320mmのショートホイールベース車にしては良好だ。ボディーの剛性感が高いことも印象的で、これは電池を衝突から守るために補強しているからだろう。オモシロイのは、単に快適な乗り心地、というわけではないことだ。205/45の17インチという薄めの大径タイヤを履いていることもあってタイヤの“あたり”が硬めで、路面コンタクトの状況を含め、いま、走っています。というライブ感がある。楽しさを感じさせる乗り心地なのである。
その、ちょっとやりすぎとも思える、最初のトルク感たっぷりの加速っぷりも、この乗り心地も、高速に上がっての風の音やロードノイズ、その他もろもろも、元気いっぱい。コメ・スタ(元気ですか)? ベーネ、ベーネ。ピアチェーレ(はじめまして)。リチェブータ・ペルファボーレ(領収書ください)。と知っているイタリア語を並べてみたくなるほど、♪お~・そ~れ・み~お! とイッタリアに行ったりした気分。
リチウムイオンバッテリーはフロア下の中央に配置してあり、着座位置は高めなのに重心が低い感覚がある。路面にベターっとひっつきながら走行している。アクセルをひとたび開けると、マイナス極とプラス極の磁石がパッと同極同士に切り替わったみたいに、ふわっと加速する。一瞬地上からほんの数センチ、浮かび上がるように。
アクセルの踏み込み具合によって液晶メーターの画面の色が変わる。おとなしく走っていればグリーン、全開にすると赤、中間だと黄色。繰り返しになるけれど、ガバチョと踏み込むと、速いんだな、これが。
ひとクラス上の落ち着きと快適さ
アクアライン経由で内房に渡り、圏央道の木更津東インターチェンジで降りて、道の駅うまくたの里に到着。フィアット500eはこのちょっと前、電力の残量が84%で、206km走行できる、とメーターは告げていた。だから、筆者は電気についてなんの不安も抱いていなかった。ところが、相方のホンダeは違った。うまくたの里到着時で、残量63%、航続可能距離119kmにまで減っていた! ホンダeの一充電走行距離は259km。フィアット500eは同335km。その差はたった79kmで、大同小異かと思っていたら、さにあらず。フィアット500eのほうが2倍近く走れることになっていた。
うまくたの里には急速充電器が設置してあり、ここでバッテリー残量を92%、後続可能距離を173kmに延ばしたところで、筆者はホンダeに乗り換えて再出発した。
フィアット500eから乗り換えると、乗り心地も加速もゆったりしていて、ひとクラス上のクルマに感じた。実際、ホンダeは1クラス上のサイズと210kgも重い車重の持ち主だった。ホンダe単体で乗っているときにはコンパクトなシティーコミューターそのものだったのに、フィアット500eという比較対象があらわれたことで、筆者の体内基準器が大きく振れた。ぐわらん、ぐわらんとばかりに、センターが移動した。
ボディーのサイズの違いをはっきり意識したのは、前編の最後に書いたように木更津のオシャレなケーキ屋さんの前で2台を並べたときだった。ホンダeのほうが、ふたまわりほども大きいのである。スペック表には、全長×全幅×全高=3895×1750×1510mm、ホイールベース=2530mmとある。フィアット500eは3630×1685×1530mm、2320mmで、そもそもホイールベースが200mm近くホンダeより短い。これでも先代500よりちょっぴり大きくなってはいるけれど、ちょっぴり大きくなっただけで、新型は依然、ヨーロッパの分類でいうところのAセグメント、フォルクスワーゲンでいうと「up!」のクラスにとどまっており、ホンダeはBセグメント、VWだと「ポロ」のクラスに属している。われわれは、up!とポロを比較テストする、というような自動車メディアとしてはおきて破りの、無頼行為を働いていた!?
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駆動方式にみる“歴史のねじれ”
そもそも500eは2ドア+ハッチ、ホンダeは4ドア+ハッチというボディー形式である。当然、500eの後席はタイトで、後席は緊急用、もしくは子ども用と割り切るべきスペース。ホンダeはフル4シーターである。
サザエさんで言うと、お父さんの磯野波平さんはホンダe、旦那さんのフグ田マスオさんは500eを選んだほうが賢明、ということになる。ただし、500eを波平が選んだとしても筆者は反対しない。カツオとワカメは永遠の小学生だし、サザエさん一家が全員乗るには7人乗りのミニバン、もしくはSUVが必要だからである。
日伊EVコミューターのもっと大きな違いは駆動方式である。ホンダeはRWD、500eはFWDと、正反対のタイヤを、正反対の位置に搭載したモーターで回している。ホンダeのご先祖は「N360」、もしくは初代「シビック」、500eは“ヌオーヴァ500”だとすると、前者の祖はFFで、後者のそれはRRだった。つまり、どちらもご先祖さまに異を唱えていることになる。取り換えっこしたら、双方丸くおさまる……。と筆者なんぞは思ったりもするけれど、無責任な思いつきにすぎない。
「EVはみんな同じ」なんて誰が言った?
モーターの性能を比べてみると、「ホンダeアドバンス」の最高出力はスタンダード版より18PS高い154PS/3497-1万rpm、最大トルクは両グレード共通で315N・m/0-2000rpm。フィアット500eのモーターはそれぞれ118PS/4000rpmと220N・m/2000rpmだから、ホンダeよりパワーで38PS、トルクで95N・mも低いことになる。
ところが、である。車重はホンダeアドバンスが1540kg。フィアット500eは1330kgにおさまっている。おまけに、フィアットはモーターの特質を生かして、トルクが最初に大胆なほどドバッと威勢よく湧き出し、おお! ヴィヴァ、イタリアッ!! とドライバーを熱狂させる。ホンダeはもうちょっと理性的で、乗り心地同様、落ち着いている。
と、いろいろ書いてきましたが、結局のところ筆者をいちばん驚かせたのは、かたやリアにモーターを搭載して後輪を駆動するRWD、こなたフロントにモーターを搭載して前輪を駆動するFWDというレイアウトうんぬんではなくて、ホンダはあくまでニッポン車で、フィアット500eに比べると、ものすごくマジメに感じたことだ。マジメというのは、近ごろはホントにそうなのか疑わしい事件も多発しているけれど、一応、ニッポン人の美徳とされている。
対するフィアットはあくまでイタリア車で、♪お~・そ~れ・み~お、とマンジャーレ、カンターレ、食べて、歌う生活の喜びというものを前面に押し出している。つまるところ、EVになってもホンダはホンダ、フィアットはフィアットだったのである。自動車の未来はバラ色ではないか!
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資/撮影協力=エル・プランタン合同会社)
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テスト車のデータ
フィアット500eアイコン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3630×1685×1530mm
ホイールベース:2320mm
車重:1330kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:118PS(87kW)/4000rpm
最大トルク:220N・m(22.4kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス)
一充電走行距離:335km(WLTCモード)
交流電力量消費率:128Wh/km(約7.8km/KWh、WLTCモード)
価格:485万円/テスト車=493万8000円
オプション装備:ボディーカラー<オーシャングリーン[メタリック]>(5万5000円)/フロアマット プレミアム(3万3000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1655km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:177.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:6.7km/kWh(車載電費計計測値)
ホンダeアドバンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3895×1750×1510mm
ホイールベース:2530mm
車重:1540kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:154PS(113kW)/3497-1万rpm
最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)205/45ZR17 88Y XL/(後)225/45ZR17 94Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
一充電走行距離:259km(WLTCモード)
交流電力量消費率:138Wh/km(約7.2km/kWh、WLTCモード)
価格:495万円/テスト車=502万7814円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(3万3000円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(3万8500円)/工賃(6314円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:7751km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:179.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.7km/kWh(車載電費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。