【F1 2021】レッドブル&フェルスタッペン、作戦変更でメルセデスに“仕返し”
2021.06.21 自動車ニュース![]() |
2021年6月20日、フランスのサーキット・ポールリカールで行われたF1世界選手権第7戦フランスGP。パーマネントコースで復活したメルセデスにレッドブルが食らわせた一撃は、シルバーアローお得意の戦略によるものだった。
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玉虫色のタイヤブロー問題
前戦アゼルバイジャンGPで高速走行中のマックス・フェルスタッペンとランス・ストロールに起きた左リアタイヤのブローの原因が、ピレリから発表された。FIA(国際自動車連盟)と協力して行われた調査の結果、当初疑われたコース上の破片によるものではなく、またタイヤの製造や品質上の問題でもなく、疲労やトレッドの剥離(はくり)などの現象も認められなかったという。ピレリの指摘は、「アストンマーティン、レッドブルとも、スタート時に定められたタイヤの最低内圧とタイヤウォーマーの最高温度が守られていたにもかかわらず」としたうえで、「インナーサイドウォールの円周に沿って破損が起きていたことがブローの原因であり、これは“タイヤの走行条件”に関連している可能性がある」と、間接的にではあるが、チーム側のタイヤの使い方に向けられていた。
タイヤに過剰な負荷をかけると壊れる可能性が高まるため、メーカーのピレリには内圧を一定以上に保ち、中の空気でしっかり負荷を緩衝して構造物を守りたいという意向がある。そこで規定で最低内圧を定めて安全性を担保しているのだが、一方でチーム側では、内圧が高いタイヤでは路面との接地面積が減り、グリップが失われ遅くなるということでこのセッティングを嫌ってもいた。
そこで一部チームは規定の“抜け穴”を見つけ、レース中タイヤ内圧を下げて走行していたのではないか。ピレリはチームを直接的には批判していないものの、行間に込められた“真の原因”はそこにある。例えば、タイヤウォーマーで念入りに中の空気を暖め膨張させておき計測を受ける方法、あるいは空気に加え特殊なガスを使う方法などの裏技は以前からうわさされていたのだ。そうしたグレーエリアを排除すべく、フランスGPから内圧検査がより厳格化されることになったのだが、あれだけ危険なブローだったにもかかわらず、なんともはっきりしない玉虫色の決着ではないだろうか。
近年、ピレリはレースウイーク中に最低内圧を変更することが多々あり、先のアゼルバイジャンGPでも初日を終えてリア内圧が19psiから20psiに高められていた。こうしたマシンセッティングに大きく影響する変更が、チームの悩みの種であったことは想像に難くない。またF1マシンは年々重くなっており、パワーも増えているのだから、タイヤを独占供給するピレリにしても安心・安全でスペクタクルに富んだ戦いができるタイヤづくりへのハードルは高まっている。今回のタイヤブローの原因説明がどこか釈然としないのは、こうしたちぐはぐなF1の一面のせいなのかもしれない。
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フェルスタッペン、完璧なラップで今季2回目のポール
モナコ、アゼルバイジャンと続いた狭いストリートサーキットから、広大なランオフエリアのあるパーマネントコース、ポールリカールへと舞台を移したF1。市街地で苦戦したメルセデスが息を吹き返したことで、レッドブルとの2強対決が再び見られることとなった。
予選Q3では、レッドブルとメルセデスの4台がポール争いを繰り広げ、結果フェルスタッペンが完璧なラップで開幕戦バーレーンGPに次ぐ今季2回目、通算5回目のポールポジションを奪った。ハミルトンは0.258秒遅れで2位、バルテリ・ボッタスが3位とメルセデス勢が続き、前戦のウィナー、レッドブルのセルジオ・ペレスが4位につけた。
中団勢のトップはフェラーリのカルロス・サインツJr.で5位、チームメイトで過去2戦のポールシッターだったシャルル・ルクレールは7位。アルファタウリのピエール・ガスリーは母国GPで健闘し6番手だった。そしてマクラーレンのランド・ノリス8位、アルピーヌのフェルナンド・アロンソ9位、マクラーレンのダニエル・リカルドは10位からレースに臨むこととなった。
なおアルファタウリの角田裕毅は、Q1セッション開始早々に縁石に乗りすぎてスピン、リアをガードレールに当ててストップしたことで赤旗中断をもたらした。サスペンションやギアボックス交換の末、ピットレーンスタートとなった。
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フェルスタッペン、1コーナーで2位に後退
4点差でチャンピオンシップをリードしていたポールシッターのフェルスタッペン、そして2番グリッドからレッドブルのエースを追うハミルトンの戦いは、スタートから動きをみせた。ターン1の飛び込みまでトップを守ったフェルスタッペンだったが、直後にマシンをコントロールしきれずコースオフ、首位をハミルトンに譲ってしまったのだ。2位に落ちたフェルスタッペンの後ろには、3位ボッタス、4位ペレス、5位サインツJr.、6位ガスリーらが続いた。
このレースでカギを握っていたのがタイヤ戦略。おおかたが1ストップで走りきるつもりで、ミディアムかハードタイヤを履いてスタートしていた。長めのスティントを覚悟してか、序盤は各車様子をみながら抑え気味で周回を重ねる展開となり、53周レースの10周を過ぎると徐々にタイムが落ちはじめ、我慢比べの様相を呈した。
そんな折、18周目に3位ボッタスがミディアムからハードに交換し、これに反応してレッドブルも翌周2位フェルスタッペンにハードを与えた。続いて1位ハミルトンもハードに履き替えてピットを出ると、フェルスタッペンがメルセデスの鼻っ面を抑えて前、ハミルトン、そしてボッタスと、首位逆転となった。だが、勝負はここで終わりではなかった。
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レッドブル、1-3フィニッシュ&3連勝
タイヤ交換後、フェルスタッペンの真後ろにメルセデスの2台というフォーメーションが続いたが、やがて3位ボッタスが遅れはじめたことで、チャンピオンシップを争う2人に優勝争いも収束していった。しかしレースは残り20周以上もあり、接戦を続けるには長いうえにタイヤのデグラデーションも心配だった。
そこで、レッドブルが積極的に仕掛けてきた。33周目、1位フェルスタッペンが2ストップ作戦に切り替え、ハードからミディアムに変更したのだ。トップから18秒後方の4位でコースに復帰すると、フレッシュなタイヤで追い上げる作戦に出た。
36周目、フェルスタッペンはチームメイトのペレスをかわし3位に上がった。この時点でトップとの差は13秒。それが40周目になると7.5秒に縮まり、残り10周で2位ボッタスの射程圏内に入ると、タイヤに苦しむメルセデスをオーバーテイク。フェルスタッペンの次なる照準は、いよいよトップのハミルトンに合わされた。
ハミルトンの5秒のリードは、残り4周で2秒を切り、ラスト3周で1.5秒、残り2周で1秒以下に。そして長いストレートを分断するシケインで、フェルスタッペンは堂々と首位に返り咲き、ハミルトンは力なく2位に後退したのだった。
その後ろでもレッドブルの快進撃が続いていた。第1スティントを長めにしていたペレスが、そのアドバンテージを生かしてボッタスに襲いかかり、見事3位を奪い取っていたのだ。
レッドブルは1-3フィニッシュで、ターボハイブリッド規定になってから初の3連勝。フェルスタッペンは、キャリア初のハットトリック(ポール、優勝、そしてファステストラップ)を達成した。その勝ち方は、最大のライバル、メルセデスが得意としていた攻めの戦略そのもの。今季の第4戦スペインGP、そして2019年のハンガリーGPと、メルセデスに逆転され苦杯をなめたレッドブルの“仕返し”がここに成功したことになる。
一方、2-4でゴールしたメルセデス勢は、過去2回のレースで完勝していたフランスで惨敗。コンストラクターズチャンピオンシップでレッドブルに37点差を、またハミルトンはフェルスタッペンに12点差をつけられてしまった。
明暗の分かれた2強対決、怒涛(どとう)の3週連続開催の2戦目以降は、レッドブルの本拠地、オーストリアに場所を移しての同地2連戦。レッドブル・リンクでの第8戦シュタイアーマルクGP決勝は、6月27日に行われる。
(文=bg)