ジープ・ラングラー ルビコン ソフトトップ(4WD/8AT)【試乗記】
“短いほう”の潔い自由 2021.08.31 試乗記 ジープ自慢のクロスカントリーモデル「ラングラー」に、限定車「ルビコン ソフトトップ」が登場。伝統の2ドア仕様で、悪路特化の「ルビコン」で、しかもホロ屋根という好事家の心をくすぐる一台は、爽快なまでに“潔さ”を感じさせるクルマに仕上がっていた。コアなファンのための限定販売モデル
webCG編集部から告げられたお題は「ラングラーの短いほう」。そう聞いて反射的に浮かんだ単語が「潔い」。同時に、対義語にはどんな言葉があたるのかが気になった。
この「ラングラーの短いほう」とは、厳密に言えば、この夏に100台限定で発売されたジープ・ラングラー ルビコン ソフトトップのことだ。“短いほう”というなら対となる“長いほう”も存在するわけで、第2次大戦中の軍用車を祖に持つジープのラングラーには、「アンリミテッド」という4枚ドアのロングホイールベース版も用意されている、のだが……。
短いほうを指す2ドアのショートホイールベース版は、約10年ぶりのモデルチェンジを経て4代目が発売された2018年時点から、(本質的な部分でジープの正統継承をうたえるのはこちらであるにもかかわらず)日本では受注生産扱いになった。耳にしたその理由は、「売れるのは圧倒的に長いほうだから」というものだった。
事情は理解できる。ラングラーを求める人々の志向は、タフな4WD機能を存分に生かしたオフロード走行はしなくとも、いざとなれば荒野の果てまで走っていけそうなワイルドさに根差している。そんな今どき稀有(けう)なリアル・クロカンを家族全員で楽しもうとするなら、4枚ドアが最適というほかにない。そしてまたアンリミテッドに人気が集中したのは、思いのほかボンネットの長いラングラーの基本デザインとロングボディーの相性がよかった点も大きいのだろう。
そんなこんなで、主要諸元では「4人乗り」と記載されつつも、後席を生かせば荷物を載せるスペースがほぼ消失する実質2シーターの短いラングラーは、いつしかマニア向けのモデルとなった。しかしジープは、短いほうの根強いファンを忘れることなく、受注生産で販売を継続。しかも、限定とはいえルビコン仕様のショートホイールベース版をリリースした。それはブランドとして美しい計らいだと思う。
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“ジープ最強”と断定して間違いない
ところで、「ルビコンって何?」についても答えなければなりませんね。この名称は、ジープが車両開発に利用しているカリフォルニアのハードな山岳路「ルビコン トレイル」に由来しているそうな。ゆえにルビコンには、険しい場所すら走り切れる特別装備が追加されている。
主なところでは、4Lのギア比をより低レンジに設定し、なおかつ前後のディファレンシャルをロックできる「ロックトラック4×4システム」を採用。それから、悪路でフロントアクスルをより柔軟に動かすため、フロントのスタビライザーを任意で解除できる電子制御式フロントスウェイバーディスコネクトシステムも装備している。これらのスイッチはセンターコンソールの下部に備わる。
以上のように強力な4WDデバイスによって、ジープ全モデルのなかで最高のオフロード走破性を誇るのがルビコンのポジションだ。4枚ドアのアンリミテッドにもルビコンはあるが、ホイールベースが550mm短い2460mmの2枚ドアのほうが、不整地での取り回しは圧倒的に有利になるだろう。それも加味すれば、ジープ最強はラングラー ルビコンのショートホイールベース版と断定して間違いない。
さておき、フルモデルチェンジを果たした4代目ラングラーの長いほうには何度か乗ったが、短いほうを運転するのは今回が初めてだった。同じ顔とドライブトレインを持つ両者だが、言うまでもなくホイールベースの違いは乗り味に大きな影響を与える。
路面の凹凸に対する反応は、皆さんのご想像通り、短いほうが明らかに敏感だ。かなり整地されているダートでも、常識的な速度で走る限り「今この瞬間にタイヤが砂利をつかんでいる」という様子は、おそらく長いほうより明確に伝わってくる。ただしそれは、小気味よい感覚と評していい。
プリミティブな自由を感じる
ステアリングの切れ角向上は、4代目の各車に共通する特記事項だ。具体的な数値が分からないのは申し訳ないのだけど、感覚的には拳1個分は奥まで切れるようになった。これがショートホイールベース版ではより生きる。ふと入ってみたくなったあぜ道が突然行き止まりになった場面でさくっとUターンできたときには、胸がすく思いがした。先に「不整地での取り回しは圧倒的に有利になるだろう」としたが、「有利になる」と書き換えてもいい。とはいえショートホイール版にも苦手はあるが、これは後述する。
追記として、今回の限定車は通常設定にないボディーカラーやサイドストライプ、手動式ソフトトップを組み合わせた特別仕様となっている。このソフトトップ、手がかかるかと思いきや、天井部分はサンバイザー裏のフックを外すだけで全体が後方に倒れ、サイドとリアのパネルはスライドレールとツメを用いた分かりやすい構造となっていて、手順を理解すれば比較的容易に脱着が可能だった。そうして黒い外装を取っ払い、身軽になったショートボディーを眺め、ひとり小さくつぶやいた。やっぱりこっちのほうが潔いよなと……。
私事だが、マイカーの購入に際してロングボディーとショートボディーの選択に悩んだ経験がある。その際、「もう1台増やすなら大人数&大荷物が積めるべき」という最大公約数的口実をもとに、長いほうを選んだ。それを悔やんではいないのだが、ごくまれに同じクルマの短いほうに遭遇すると、「やっぱりそっちだったかなあ」と、今でも羨望(せんぼう)のまなざしを向けてしまう。なぜそんな心持ちになるかというと、短いほうにプリミティブな自由を感じるからだと思う。
もとよりジープは、というかラングラーは、オフロード走行に特化する目的を持って生まれたクルマだ。それだけに一般化に結び付くいくつかの要素を切り捨てなければならなかった。その最小公倍数的な“縛り”に自由を感じるのは、偏屈な感性かもしれない。けれど、「何でもできる」よりは「これしかできない」と割り切るところに潔さを覚えるのは、必ずしも特殊な感覚ではないだろう。
こんなおもしろさを毎日味わえたなら
「それなら今すぐ短いほうに乗り換えればいいじゃないか」とおっしゃられるでしょう。いやいや、そこが同じ顔なのに長さが違うクルマの迷いどころなのです。
フルモデルチェンジ後のラングラー アンリミテッドでは、高速安定性の劇的な向上に感激した覚えがあった。なので、これが初ドライブとなる新しいショートホイールベース版でも、高速道路を走るのを楽しみにしていた。だが、正直な感想を言えば、思ったほどではなかった。その日の強風が災いしたところもあるのだろう。車速が100km/hに近づくにつれ頼りなさが顔を出してきたのである。個人の感覚かもしれないと編集部のホッタ青年にも試してもらったが同様の意見で、2WDから「4H AUTO」に駆動方式を切り替えてみると直進安定性が高まることも判明した。
これは欠点か? いや、プリミティブを極めたこのクルマの潔さとしたい。運転席から振り返ればリアシート直後が車体の最後尾というのも、普段長いクルマに乗っている者にすればあまりに大胆で、思わず笑ってしまう。こんなおもしろさを毎日味わえたなら、人生はより身軽なものになるかもしれないとさえ思えてくる。
冒頭の「潔い」の対義語。あれこれ調べてみたら、どうやら「未練がましい」をあてるらしい。ということは、短いラングラーを潔いとあがめるほどに心残りが募る図式になるのか? そう問われてもすぐに返す言葉は見つからず、心の内を読まれたようで恥ずかしくなる。
(文=田村十七男/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ジープ・ラングラー ルビコン ソフトトップ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4320×1895×1875mm
ホイールベース:2460mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:284PS(209kW)/6400rpm
最大トルク:347N・m(35.4kgf・m)/4100rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y/(後)235/40R18 95Y(BFグッドリッチ・マッドテレーンT/A KM2)
燃費:8.2km/リッター(WLTCモード)
価格:622万円/テスト車=629万9090円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション オールウェザーフロアマット(2万6400円)/ショートアンテナ(9790円)/ジープ純正Wi-Fi対応ドライブレコーダー(4万2900円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:846km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:236.5km
使用燃料:31.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:7.5km/リッター(満タン法)/7.5km/リッター(車載燃費計計測値)

田村 十七男
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