第737回:積載車が行き交うイタリア中部 積まれた車両を観察してみた
2021.12.23 マッキナ あらモーダ!陸送車を目撃する理由
プレゼントの季節、ミニカー好きの子どもや孫を持つ読者諸氏のなかには「キャリアカー」をツリーの下に用意した方もおられるのではなかろうか。
玩具メーカー、タカラトミーの「トミカ」にはキャリアカー、つまり車両積載車が長年にわたって存在している。なかには、リモコンで動いたり、ボタンひとつで内部に載せたミニカーを一気に荷降ろしできたりする商品もある。これは大人の筆者でさえ欲しくなる。
そこで今回は、陸送車の話を少々。
イタリアでは2021年夏から、電気自動車「フィアット500e(500エレットリカもしくはヌオーヴァ500)」を載せた車両積載車を頻繁に見かけるようになった。
イタリア語で積載車は「bisarca(ビザルカ)」という。
先日筆者が住むシエナで、その500eを運ぶ積載車を見つけたときのことである。近年イタリアで、そうした業務に携わっているドライバーは中東系やアフリカ系とおぼしき人が多い。
「これ、電気自動車だよね?」と筆者が話を切り出すと、ドライバー氏は「そうだよ」と得意げに答えた。ただし、アジア系の筆者を見て彼は真顔でこう続けた。
「これ、中国でつくっているのか?」
正しくはトリノのミラフィオーリ工場製であることを説明すると、分かったような、分からないような顔をしていた。彼がたとえトリノ周辺から車両を積載して出発したとしても、イタリア製であるかどうかは知らなかったのだろう。
いやはや、もはや「ハイテク製品の生産国」というイメージは、日本でなく、中国なのかもしれない。
ところで、筆者が住むイタリア中部トスカーナ州では、車両積載車を目にする機会が少なくない。
その理由の第1は「太陽の道」こと高速道路A1号線が南北に縦断していることである。
2011年の登場にもかかわらず今日でも新車販売台数ナンバーワンの現行型「フィアット・パンダ」は、南部ナポリ郊外のポミリアーノ・ダルコの工場で生産されている。
その多くは積載車に載せられ、太陽の道をたどって各地に供給されるのである。
第2は、州西部にあるリヴォルノ港だ。港を管理する北ティレニア海港湾機構の2018年データによると、自動車の陸揚げは52万4597台、船積みは13万1737台を数えた。また2017年統計で、リヴォルノは自動車取扱量においてイタリアで1位、全欧州でも10位の港である。
イタリアの販売店では日本と違い、まだ積載車から下ろしたままの状態で展示されていることがよくある。工場で貼られた生産管理用のバーコードなども貼られたままということもある。そこに「LIVORNO」の文字が記されていることがたびたびあることからも、リヴォルノの自動車積み出し・陸揚げ港としての重要度を感じる。
トスカーナで陸送車を多く見るのは、港と港を結ぶためでもあるのだ。
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「無料色」まで分かってしまう
陸送車といえば、かつて東京の出版社に勤務していたときのことである。編集部の先輩がある日「いま、ボディコン見ちゃった」とうれしそうに言いながら帰社した。
時は1990年代。妙齢の女性でも目撃したのかと思ったが、聞いてみると、事実は異なっていた。
白いカバーをかぶせられた未発売車が陸送車の上で走行風を受け、ボディー形状がくっきりと見えてしまったことを、「ボディコン」と表現していたのだった。
イタリアでも、輸送中にボディコン状態になってしまった自動車をたびたび目撃する。ただし最近は、すでに発売されている高級車でも、同様にカバーが施されて輸送される場合があるから、貴重な未発売車かどうかを見分けるのが難しくなっている。
陸送車で「無料色」を想像することもできる。
載せられたクルマの全部、もしくは大部分が同じ色であることがよくある。家に帰ったあと、そうしたボディーカラーをメーカーのウェブサイトで調べてみると、かなりの確率で、顧客がオーダーする際に特別料金が発生しない塗色であった。
第722回に登場した「ダチア・サンデロ」のオーナー、サンドロ氏のように、標準色を選ぶユーザーがいかに多いかを匂わせている。
フィアット・パンダは2021年12月現在、全5色のなかで追加料金がない塗色は、「グリージョ・モーダ」と名づけられたソリッドのグレーのみ。あとは600ユーロ(約7万7000円)もの追加料金が必要だ。どおりで、近年はグレーのパンダが積載されていることが多いわけだ。かくして積載車のクルマを見るだけで、「お買い得色」を判定できるのである。
写真にはおさめられていないものの、他にもさまざまな積載車に遭遇してきた。
多種多様な外国車を混載して国境を越えてきたトラックは、本欄第712回で記したような並行輸入業者がチャーターしたものであろう。
いずれも真新しい警察用のアルファ・ロメオや、各地のイタリア郵便会社にリース供給されるフィアット・パンダを満載したトラックも目にする。
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買い替えを迫られているような……
週末と週明けには、ヒストリックカーを何台も載せた積載車と遭遇する。イベント会場に向かったり、またそこから引き揚げたりするためであることは間違いない。
そのように何台ものクルマを背負ってたくましく走る陸送車は、幼児期のイエス・キリストを担いで川を渡ったとされ、イタリアで旅や交通安全の守護聖人としてあがめられている聖クリストフォロスを想起させる。
いっぽうで、見るのがつらいケースもある。それは廃車を運んでいる積載車だ。その、あまりにやつれた状態からして、バルカン半島や北アフリカの国々に中古車として旅立つのではない。明らかに解体ヤードに向かっていると思われる。『ドナドナ』のメロディーが頭をよぎる。
そうしたクルマのなかに、筆者が今まさに運転しているのと同じモデルを時折見かけることがある。「そろそろ買い替えろよ」と言われているようで、複雑な心境に陥るのである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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