ボルボXC40 B3モメンタム(FF/7AT)
熟成の感あり 2022.03.11 試乗記 ボルボのエントリーSUV「XC40」に新設定された、48Vマイルドハイブリッド搭載モデル「B3」に試乗。2リッター直4ターボに、高効率をうたうボルボ内製の新型7段DCTを組み合わせた電動パワートレインの仕上がりやいかに。パワートレインの設定をリニューアル
電動化に前のめりとなっている自動車メーカーが多い欧州でも、とくに急進的な戦略をかかげているのがボルボだ。わが日本市場でも“全車電動化”をすでに達成しており、グローバルラインナップのすべてをピュアな電気自動車(BEV)にする期限も2030年と公言している。あとたった8年である。これは伝統的な欧州車ブランドのなかでも、2025年に全車BEV化予定のジャガーに次いで、メルセデス・ベンツとならぶ早い期限である。
とはいえ、現在市販化されているボルボブランドのBEVは「C40リチャージ」の1台しかなく、残るはプラグインハイブリッド車(PHEV)と48Vマイルドハイブリッド車(MHEV)である。
XC40も2020年8月末に全モデルが電動化されており、当時はPHEVの「T5」が1グレードのほか、2リッター直4ターボに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた197PSの「B4」が5グレード(FFと4WD)、同じく250PSの「B5」が1グレード(4WD)というラインナップとされた。
そんなXC40も、2021年の11月にラインナップがあらためて見直された。その直接的なキッカケは変速機の刷新だ。それまでのボルボの変速機といえばアイシン製の8段ATがおなじみで、それはMHEVでも継続して使われてきたが、今回から全機種が新しい7段デュアルクラッチトランスミッション(DCT)に換装されたのだ。
ボルボのDCTといえば、2010~2015年ごろに使われていたゲトラグ製の6段式を思い出す向きもあろうが、今回はそれとは別物。新しい7段DCTはすでにPHEVで使われているのと基本的に共通で、自社開発の内製なのが大きな特徴である。アイシンの8段ATも市場では好評だったはずだが、このご時世ゆえの、さらなる駆動効率アップと、PHEVと統一することによるコスト抑制が目的だろう。
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居心地のいいインテリアは健在
というわけで、XC40の新しいMHEVラインナップには、エンジン性能を示す数字が1ずつ下げられたB3とB4が用意される。より手ごろ価格のB3は、これまではエントリーモデルあつかいだったB4より出力は控えめ(163PS)となる。ただし、エンジン本体はPHEVに使われている1.5リッター直3ターボではなく、B4や従来のB5と共通の2リッター直4ターボである。
さらに駆動方式もあらためて整理されて、B3はすべてFF、そして以前はFFと4WDがあったB4は全車4WDに統一された。ちなみに200PSの最高出力を発生していたB5は、残念ながらカタログ落ちとなった。
今回試乗したXC40は、新たに追加されたB3の上級グレードとなる「B3モメンタム」である。モメンタムはB4にも用意されているグレードであり、この価格帯の輸入車としては過不足ない装備が標準でそろう。
ほどよく大径の18インチアルミホイールが標準装備で、ジャージ風素材のコンビシート表皮も肌ざわりがいい。さらに運転席は電動調整となるし、ちょっと豪華気分の内装イルミネーションも標準だ。あとは、フロントとリアのシートヒーターとステアリングヒーターがセットとなる5万5000円の「クライメートパッケージ」をオプション追加すれば、個人的にはなんら不満はない。
インテリアももはやすっかり見慣れた空間だが、相変わらず居心地はいい。全長4.5m以下のコンパクトなCセグメントSUVとしてはヒップポイントも高めで見晴らしよく、ドアトリムにはカーペットやクッションが大胆にあしらわれており、視覚的にも触覚的にも、温かみがある。
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こう見えて実はパワフル
新しいB3エンジンと7段DCTの組み合わせはなかなか完成度が高い。かつては最高出力310PS/最大トルク400N・mというハイチューン版も存在したエンジンだけに、同163PS/同265N・mというB3のスペックでは、なんとも余裕しゃくしゃくで洗練されたパワーフィールである。
アクセルペダルを踏み込んだときの過給ラグめいた“間”も、意地悪に観察すれば皆無ではないが、実際にはほとんど気にならないレベルだ。それは、このクラスの最新ターボエンジンとしては余裕のある2リッターという排気量に加えて、MHEVならではのスターター兼アシストモーターの効果もあるかもしれない。モーターのスペックは最高出力10PS/最大トルク40N・mなので、加速時の電動っぽさはほぼ体感できないが……。
それにしても、新しい内製DCTの変速マナーにはちょっと感心した。DCTは高効率で切れのいい変速が売りであるかわりに、シフトショックは小さくないケースが多いが、このクルマではDCT特有の変速ショックや、せわしないフィーリングがまるで感じられないのだ。よくできたトルコンATのような滑らかな変速である。これもMHEVのモーター効果だろうか。
B3は現在のXC40でもっとも穏やかなパワートレインとなるが、基本は2リッター直4ターボで、最大トルクは265N・mもある。積極的に走れば、動力性能に不足があろうはずもない。上り勾配でアクセルペダルを一気に踏み込むと、フロントタイヤが空転しかけるくらいにはパワフルである。
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所有欲も満たす万能モデル
XC40そのものはデビューからすでに4年以上が経過しており、パワートレインのみならず、車体やシャシーも、熟成の感あり……である。
今回の試乗車はスタート時のオドメーターがたった21kmの正真正銘“おろしたて”のド新車だったからか、あるいはPHEVなどの開発経験がプラスに働いているのか、車体の剛性感もこれまで以上に高かった。対してサスペンションは、ド新車なのに低速域でもいきなり滑らかに作動して、すこぶる快適な乗り心地を披露した。とくに高速道でのフラットライドは感心する。ここから距離を重ねたらもっとしなやかになるのかも……と思うと、さらに期待は高まる。初期のXC40のシャシーは、どちらかというと小気味いい躍動感が売りだったが、今回の乗り心地とストローク感は、いかにも熟成された味わいである。
XC40はもともとショート&トールなディメンションなので、山坂道などで旋回速度が上がるとちょっとロールが増えるが、ハンドリングは軽快そのものだ。パワートレインも十二分にパワフル。そして、高速道でのアダプティブクルーズコントロールの所作も見事なもので、とくに追い越しなども半自動運転とは思えないほど積極的で小気味いい。
XC40のB3は新しいパワートレインといっても、エンジンはダウンサイジングでもなく、MHEVも黒子に徹しており、正直インパクトは薄い。そのかわり、走りの完成度はさすがに高い。また、デジタルメーターやインフォテインメント機能こそちょっと物足りなく思わせつつあるものの、内外装デザインはいまだに古さを感じさせない。「今この瞬間に、使いやすく所有満足度も高い輸入車」ということなら好適な一台だと思う。
ボルボはこういうクルマで日銭をしっかり稼ぎつつ、BEVにまい進していく。こういうボルボに乗れる日も終わりに近づいていると考えると、ちょっとさみしい気もする。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ボルボXC40 B3モメンタム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4425×1875×1660mm
ホイールベース:2700mm
車重:1660kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:163PS(120kW)/4750-5250rpm
エンジン最大トルク:250N・m(27.0kgf・m)/1500-4000rpm
モーター最高出力:10kW/3000rpm
モーター最大トルク:40N・m/2250rpm
タイヤ:(前)235/55R18 100V/(後)235/55R18 100V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:12.8km/リッター(WLTCモード)
価格:469万円/テスト車=530万1000円
オプション装備:ボディーカラー<サンダーグレーメタリック>(8万5000円)/チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(21万円)/harman/kardonプレミアムサウンドオーディオシステム<600W、13スピーカー、サブウーハー付き>(10万8000円)/パワーチャイルドロック(1万4000円)/ワイヤレススマートフォンチャージ(2万9000円)/パワーシートパッケージ<助手席8ウェイパワーシート、マニュアルクッション調整式エクステンション、ラゲッジプロテクションネット>(11万円)/クライメートパッケージ<ステアリングホイールヒーター、シートヒーター>(5万5000円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<フロント&リアセット>(8万9650円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:21km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:259.4km
使用燃料:24.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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