ボルボXC40リチャージプラグインハイブリッドT5インスクリプション(FF/7AT)
もはやあって当たり前 2020.08.28 試乗記 パワーユニットの電動化を推進するボルボが、コンパクトSUV「XC40」初となるPHVを2021年モデルとして導入。1.5リッター直3ターボ+電気モーターを搭載する「リチャージプラグインハイブリッド」の出来栄えを確かめた。電動化したXC40
2020年8月25日、いわゆる2021年モデルが発表になったボルボXC40。日本におけるボルボの最量販モデルということで、関心を寄せている人は多いはずだが、一番の話題はパワートレインを一新したことではないだろうか。すでにボルボは全モデルの電動化を進めており、このXC40では新たにプラグインハイブリッド車を追加するとともに、ガソリンエンジン車には48Vマイルドハイブリッドを採用。さらに、2021年にはバッテリーEVをラインナップに追加する予定だ。
今回試乗したのは、プラグインハイブリッド車の「XC40リチャージプラグインハイブリッドT5インスクリプション」。名前が長いのはご愛嬌(あいきょう)だが、これまで「Twin Engine」と呼んでいたプラグインハイブリッド車を、今後はリチャージプラグインハイブリッドと言い換える。一方、バッテリーEVを「リチャージピュアエレクトリック」と呼び、ボルボでは“リチャージ”を電動化の核として、その取り組みを強くアピールしていくという。
ちなみに、実際にステアリングを握ったのは2020年モデルで、正確には「XC40 T5 Twin Engineインスクリプション」である。よく見ると「TWIN ENGINE」のエンブレムが装着されているが、今後ユーザーのもとにデリバリーされる車両は2021年モデルで、各所に「RECHARGE」のエンブレムが掲げられることになる。2021年モデルから5年の新車保証が導入されるのも見逃せないところだ。
CMAプラットフォームを活用
さて、CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)プラットフォームとしては初めてとなるプラグインハイブリッド車には、ボルボ初の1.5リッター直列3気筒ガソリンターボエンジンと電気モーター、容量10.91kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーが搭載されている。エンジンの最高出力は180PS(132kW)、最大トルクは265N・m(27.0kgf・m)。一方、電気モーターは最高出力82PS(60kW)、最大トルク160N・m(16.3kgf・m)の実力を持つ。
トランスミッションは、7段DCT(デュアルクラッチトランスミッション)で、駆動方式は前輪駆動。面白いのはモーターの配置で、エンジンの出力は7段すべてのギアを使ってタイヤに伝えられるのに対し、電気モーターは偶数ギア側に接続されるため、EV走行時には通常2速、高速域では4速を使うことになる。
カタログ値で45.6kmのEV走行(充電電力使用時走行距離)を可能とする駆動用リチウムイオンバッテリーは、ホイールベースのあいだ、センタートンネル部分に配置される。この影響でティッシュボックスが収まるスペースを有していた自慢のセンターコンソールは、その部分の収納が廃止されてしまったが、ラゲッジスペースはガソリンエンジンモデルと同じ広さが確保されており、プラグインハイブリッド化のデメリットはほぼないといっていい。XC40が採用するCMAプラットフォームが、プラグインハイブリッド車(およびバッテリーEV)を想定してつくられているからこそ、このパッケージが成り立つのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
電気だけでも頼れる走り
XC40リチャージプラグインハイブリッドには、主な走行モードとして、「ピュア」「ハイブリッド」「パワー」の3つがある。ピュアはできるだけモーターだけで走行するモードで、一方、ハイブリッドはエンジンとモーターを適切に切り替えて走るモード。そして、パワーはエンジンを常時使用し、モーターがエンジンをアシストすることで強力な加速を得ることができる。
このうち、基本となるのがハイブリッドで、バッテリーが残っている状態であれば走りだしはモーターが担当し、スムーズに発進したあとも、アクセルペダルを深く踏み込まなければモーターで走り続けるし、一般道から高速まで、モーターだけで事足りてしまう。素早い加速が必要な場面ではエンジンが始動するものの、3気筒ユニットが思いのほか静かでうれしい。
ハイブリッド、ピュアともに、右側のパワーメーターにはモーター走行が可能な範囲が示されるのだが、モーター優先のピュアに切り替えるとモーター走行の範囲が広がるのがわかる。そしてピュアでは、アクセル操作に対する反応が少しマイルドになり、省エネルギーを意識した走行モードであるのが実感できる。それでも急加速でもしない限りは十分な速さを見せるし、ハイブリッドモード同様、いざというときにアクセルペダルを深く踏み込むことでエンジンが始動し、パワフルな加速ができるから安心だ。
![]() |
![]() |
![]() |
圧巻のパワーモード
走行中に常時エンジンが稼働するパワーモードに切り替えると、メーターパネルのパワーメーターが回転計に変わり、エンジンが主導権を握る。この状態でも動き出しはスムーズだ。アクセルペダルを軽く踏むだけで余裕の加速が手に入ったり、右足の動きに対して間髪入れずに反応したりするのは、モーターアシストのおかげである。一方、アクセルペダルを大きく踏み込むと、1790kgと決して軽くないボディーを即座に力強く加速してみせる。
約94kgのバッテリーを車両の低い位置に積むXC40リチャージプラグインハイブリッドでは、ガソリンエンジンモデル以上に落ち着いた挙動を示し、乗り心地もおおむね快適である。
今回は試乗会でのテストということで、EV走行可能な距離を確認することはできなかったが、モーター主導のピュア、ハイブリッドともにストレスのない走りが楽しめるし、いざバッテリー残量が足りなくなっても、充電の心配をすることなく、上質で力強い走りが続けられるのは、XC40リチャージプラグインハイブリッドの強みである。もちろんあるに越したことはないが、自宅に充電設備がなくても十分活用できるため、バッテリーEVよりも気軽に所有できるのも魅力のひとつである。
現時点でガソリンエンジンモデルの最上級グレードである「XC40 B5 AWD R-Design」とは60万円の価格差がある。けれども、CEV(クリーンエネルギー自動車)補助金やエコカー減税を考慮するとその差額は約16万円に縮まるだけに、ボルボでプラグインハイブリッドの世界に足を踏み入れるには、格好のモデルになりそうだ。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ボルボXC40リチャージプラグインハイブリッドT5インスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4425×1875×1660mm
ホイールベース:2700mm
車重:1790kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:180PS(132kW)/5800rpm
エンジン最大トルク:265N・m(27.0kgf・m)/1500-3000rpm
モーター最高出力:82PS(60kW)/4000-1万1500rpm
モーター最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)235/50R19 99V/(後)235/50R19 99V(ピレリPゼロ)
燃費:14.0km/リッター(WLTCモード)
価格:649万円/テスト車=662万2200円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(11万円)/パワーチャイルドロック(1万4000円)/トレーラーモジュールプレパレーション(8200円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<フロント&リアセット>(8万9650円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1970km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。