ボルボV90クロスカントリーB6 AWDプロ(4WD/8AT)
直火のぬくもり 2022.03.29 試乗記 将来的な電気自動車(BEV)専業化への道筋を掲げるブランドはいくつもあるが、ボルボはすでに具体的な歩みを始めている。それはつまり「油で動くボルボ」に残された時間がわずかということでもある。熟成極まる「V90クロスカントリー」を連れ出してみた。すでに軸足はBEVに
半ばおさらい的な話になるが、ボルボは2030年には販売車両の全数をBEV化するという計画を掲げ、2025年には全数の半分をBEVに、半分をハイブリッド系にするというパワートレイン戦略のロードマップを敷いている。そこに向けて現在は、全数の電動化を完了。「C40リチャージ」で本格的なBEVの販売を開始したという段階だ。
ちなみに日本でも2025年にはBEVの販売比率を4割に高めようという意向を表明していて、つい先日はC40リチャージの1モーターFWDモデルを599万円という意欲的な価格設定で投入した。容量69kWhのバッテリーで434kmの航続距離(WLTP値)という性能を知れば、日本製のBEVに対しても十分な競争力があるといえそうだ。
と、そんな本気の裏側で、内燃機を搭載するボルボのモデルは徐々にフェードアウトしていく運命にある。2015年以降、新たに発売されたモデルは「スケーラブルプロダクトアーキテクチャー(SPA)」の採用に伴い、すべてのパワートレインを横置き2リッター4気筒に一本化。そこに過給器やモーターなどのアドオンでパワーを上乗せしていくという鮮やかな施策をとったわけだが、BEVへの切り替えに伴い、そのアーキテクチャーも短命にて終了ということになるのだろう。ちなみに直近の情報では、自社設計のモーターや大型キャスティング部品による車台構築など、すでにリソースが次代に集中しつつあることも伝わってくる。
ボルボらしさあふれる荷車感
こうなってくると、油を燃やすボルボに乗る機会も大事にかみしめとかないとなぁ……。
そんな思いでV90クロスカントリーを北に走らせた。今や金額的なボルボの最上級車種は「XC90」になるが、ガソリンをぼーぼーたいて育ってきたオッさん的には、ボルボといえば脊髄反射でステーションワゴンが思い浮かぶ。積む物がなかろうが、前後のドアガラスよりも長い荷室のガラスに生活の豊かさを重ねていた、そんな時代だ。
もはやアメリカでもその役割はSUVが担う時代。生き残ったステーションワゴンはスポーティーさを際立たせるべく、ファストバック調デザインを採用し、そのおかげでクオーターウィンドウは視界の足しにもならないおまけ程度にくっついているものが多い。V90もリアウィンドウは相応に寝かされているものの、サイドシルエットはギリギリのところで古き佳(よ)きボルボの荷車感を残している。
なくなるのが惜しくなる
V90クロスカントリーには「B5」と「B6」、2つのグレードが用意されている。そのメカニズム的には2リッター4気筒エンジンに用いた過給器の違いが大きく、B5はターボのみ、B6はターボに加えて電気式のスーパーチャージャーがアドオンされている。ともにインテグレーテッドスタータージェネレーターを組み合わせた48Vのマイルドハイブリッドとなり、そのアウトプットはB5の側が最高出力250PS/最大トルク350N・m、B6の側が300PS/420N・mだ。組み合わせられるトランスミッションは8段AT、4WDシステムは80N・mのトルクを後輪側にかけて駆動の応答レスポンスを高めたプレチャージ型の旧ハルデックス5、現ボルグワーナーAWDカップリングを用いている。
今回試乗したのはB6の側だが、初速からのモーターアシストに電気式スーパーチャージャーの過給も加わり、低回転域でのドライバビリティーは2リッターのキャパシティーをまったく感じさせない。今回は降雪地域まで足を延ばして低ミュー路面も存分に味わったが、勘どころの転がり始めの使いでもよく、緻密に駆動力をコントロールできた。
そこから回転を高めていくにつれても、パワーの乗り方に複雑なメカニズムがゆえの違和感はほとんど感じられない。そのシームレスなフィーリングを知るにつけ、この調律能力をみすみす封印してしまうのはなんとももったいない話だなぁと思う。ちなみに2tに迫る四駆の巨体にしてほぼ11km/リッターをコンスタントにマークするなど、このパワートレインは燃費も悪くない。マイルドハイブリッドとしてもきちんと機能しているというわけだ。
安直でもいい物はいい
逆になかなかうまく機能してくれなかったのが、直近のマイナーチェンジでインフォテインメントの中軸として採用されたグーグルのアプリだ。「グーグルマップ」で行き先を設定するには現状英語で対応する必要があるようで、恵比寿駅に行きたいと「I wanna~Ebisu station?」と幾度話しかけてもかたくなにABC Stationに、やむなく隣の渋谷駅で妥協してもCBS Stationにと、必死でアメリカのテレビ局を案内しようとする。単に僕の発音の悪さに困り果ててのことだろうが、AIの優しさに期待できるようになるまでは、駅前留学のつもりで臨む必要があるのかもしれない。
個人的には現在買えるクルマのなかでも3指に挙げられるシートに支えられて、冬の高速で淡々と距離を刻んでいると、ふと気づくのは空調の柔らかさだ。かつて家に居た「サーブ9-3」で冬を迎えるたびに感心させられていたのは、ふわっと包み込むように体を温めてくれるヒーターの効き味だったが、このV90クロスカントリーにも似たようなまろやかさが感じられた。北欧のクルマといえばイスと暖房自慢って安直じゃね? と言われれば返す言葉もないが、でもそれは意外と的外れではないような気もする。
果たしてこの先、直火を失うボルボはこのほっこり感を守り続けることができるのだろうか。暖かいけど眠くならない魅惑のエアフローを温泉のように味わいながら、ちょっと未来に思いをはせて心配になったのも確かだ。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ボルボV90クロスカントリーB6 AWDプロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4960×1905×1545mm
ホイールベース:2940mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(220kW)/5400rpm
エンジン最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-4800rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)/3000rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/2250rpm
タイヤ:(前)245/45R20 103T/(後)245/45R20 103T(ノキアン・ハッカペリッタR3 SUV)
燃費:11.0km/リッター(WLTCモード)
価格:844万円/テスト車=940万9350円
オプション装備:チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(23万円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1400W・19スピーカー>(36万円)/電子制御エアサスペンション&ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(26万円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー(8万9650円)/ボルボ防災バッグ(2万9700円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:4291km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:446.2km
使用燃料:41.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.7km/リッター(満タン法)/10.5km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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