メルセデス・ベンツGLC220d 4MATIC(4WD/9AT)/GLC400e 4MATIC(4WD/9AT)
小さくも着実な一歩 2022.09.15 試乗記 「メルセデス・ベンツGLC」の新型は、驚くような進化点は少ないものの、ありとあらゆる面でブラッシュアップが図られている。まさに売れ筋らしいフルモデルチェンジだ。スペイン・バルセロナからの試乗リポートをお届けする。すべてのパワートレインを電動化
パワートレインの変容をものともせず、鉄壁のSUVラインナップを敷き続けるメルセデス。そのなかで販売面においても中核を担うのがGLCだ。先代の登場は2015年。「Cクラス」をベースにしたその車格は特に全長や全高において都市生活向きなところもあって、日本市場でも大きな支持を得るに至っている。
その重責を担うべく、7年目でのフルモデルチェンジとなったGLC。新型の大きな特徴は、すべてのパワートレインが電動化されたことだ。これはベースとなる現行Cクラスの特徴と重なるところで、ディーゼルとガソリンの4気筒ユニットを軸に最新世代のISGを組み合わせた48Vマイルドハイブリッド車と、そして最高出力136PSの駆動用モーターを組み合わせるプラグインハイブリッド車(PHEV)と、現状の6つのバリエーションはすべてモータライズされている。
うち、今回は日本仕様への導入可能性が最も高いディーゼルの「220d」を中心に、オフロードではガソリンPHEVの「400e」に試乗。加えてベーシックな「300」と「300e」も少しながら試すことができた。
Eクラス ステーションワゴン並みに積める
現行Cクラスのアーキテクチャー「MRA II」をベースとする新型GLCのディメンションは全長が4716mm、全幅が1890mm、全高が1640mm、ホイールベースが2888mm。現行型に対しては全長が60mm長く全幅は同じ、全高が4mm低くホイールベースで15mm長い。室内寸法は前席ヘッドルームが若干低くなっており、他はわずかに大きくなっている程度だ。ただし荷室容量は70リッター大きい620リッターとなっており、プラス60mmの長さはここに反映されているものとみられる。参考までに「Eクラス ステーションワゴン」は640リッターというから、新型GLCはそのあたりとほぼ同等の積載力を備えているというわけだ。
サスペンション形式はフロントが4リンクすなわちダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンクとなるが、こちらもアーキテクチャーの更新に合わせて新設計のジオメトリーに改められた。バネはコイルが標準だが、オプションのエアサスを選択すると、ダイナミックセレクトの設定や走行状況と連動するかたちで上下に最大100mmの車高調整が可能となる。加えて新型GLCには最大4.5度の後輪舵角を採る後輪操舵システムもオプションで用意されており、今回の試乗車はすべてエアサス+後輪操舵の仕様だった。日本仕様にこれらのオプションが設定されるか否かは、今のところ分からない。
装備面ではCクラスと同じ、11.9インチの縦長画面を持つ最新世代のインフォテインメントシステムを搭載。多彩な機能は「MBUX」を介してのボイスコントロールも可能となっている。先進運転支援システム(ADAS)も最新世代にアップデートされており、けん引時の安定した運行をアシストするトレーラーマニューバリング機能も備えている。
入念な騒音対策
前席のヘッドクリアランスが小さくなったとはいうものの、運転席に座る限りはその影響がくつろぎに表れている感はない。横方向の広さもあって、同じアーキテクチャーの「Cクラス ステーションワゴン」よりも視点高だけでなく、空間面での開放感も明らかに高いのが美点だ。後席の広さに先代との差は感じ取れなかったが、ファミリーカーとしてみても必要十分な居住性は確保しているといえるだろう。
メインで試乗した220dが搭載するのはOM654M型の2リッター直4直噴ディーゼルターボで最高出力は197PS、最大トルクは440N・mとなる。そこに組み合わせられるISGは23PS/200N・mのアウトプットだ。おのおのCクラスの220dに比べるとわずかな数値差はあるが、モデルごとのユーティリティーに伴うキャリブレーションの範囲でハードウエアの違いはない。トランスミッションは「9Gトロニック」で、4MATICの前後駆動力配分は45:55のフィックスとなる。0-100km/hは8.0秒、最高速は219km/hと十分以上だ。特に最高速の伸びについては、先代より0.02ポイント低い0.29のCd値も効いていることだろう。
エンジンはアイドリング時や加速時にはディーゼル系のノイズが粒立って聞こえることがあるが、低負荷の巡航時はほとんどその種別を感じさせない。キャビンの風切りや下まわりからのロードノイズ系を含めて、騒音は総じて低レベルで抑えられている。後に思い起こせばエアサスの作動音さえ相当入念に封じ込められていたから、ノイズ対策は新型GLCの大事な課題として取り組んだに違いない。
エアサスという点は差し引かなければならないが、新型GLCの乗り心地のよさはライバルに対するアドバンテージのひとつに挙げられる。大きなバネ下を持て余すことなくかっちりと支持しながらきれいに減衰していく、その感触はCクラスにも増して頼もしい。先代に対して車体剛性が15%向上しているというが、その頼もしさは額面以上のように感じられる。
オフロードも意外に走れる
ワインディングロードでは気持ち回り込みが強く表れるかなと思った後輪操舵は、タイトな悪路での取り回しで本領をしっかり発揮してくれた。日本でこのクルマを本格的なオフローダーとして使う場面は考えにくいが、例えば別荘地などの狭い取り付け路でも効果を発揮するだろう。現在、半導体不足の関係で日本仕様のCクラスでは後輪操舵がオプションでも選択できないようになっているが、新型GLC導入発表の暁にはこれが解消されていることを願いたい。
400eは252PS/400N・mを発生する2リッター直4直噴ガソリンターボと、140km/hまでの走行域をカバーする136PS/440N・mのモーターが組み合わせられ、システム総合出力は381PS/650N・mに達する。一方で、電池容量の拡大によりEV走行換算距離は100kmを超えるという。
今回はEV走行のみで悪路を走ったが、モーターの緻密な駆動制御による低ミュー環境でのグリップの引き出しやすさなど、モーターの素性が実は悪路向きであることをあらためて実感させられた。GLCは初代もオフロードの走破性を美点として押し出していたが、パワートレインが電動化された新型でもその趣旨は継承されているというわけだ。もちろん本拠はオンロードの側にあるので無理は禁物とはいえ、意外なトラクション能力がドライバーをその気にさせてしまう。
ちなみにインポーターによれば、この新型GLCの導入は2023年の上半期を予定しているという。
(文=渡辺敏史/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLC220d 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4716×1890×1640mm
ホイールベース:2888mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:197PS(145kW)/3600rpm
エンジン最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)/1800-2800rpm
モーター最高出力:23PS(17kW)
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)
タイヤ:(前)235/55R19 105Y XL/(後)255/50R19 105Y XL(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:5.9~5.2リッター/100km(約16.9~19.2km/リッター。WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
メルセデス・ベンツGLC400e 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4716×1890×1648mm
ホイールベース:2888mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:252PS(185kW)/5800rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-3200rpm
モーター最高出力:136PS(100kW)
モーター最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)
システム出力:381PS(280kW)
システムトルク:650N・m(66.3kgf・m)
タイヤ:(前)235/55R19 105Y XL/(後)255/50R19 105Y XL(ブリヂストン・トランザT005)
ハイブリッド燃料消費率:0.8~0.6リッター/100km125.0~166.7km/リッター(約125.0~166.7km/リッター。WLTPモード)
EV走行換算距離:104~120km(WLTPモード)
充電電力使用時走行距離:104~120km(WLTPモード)
交流電力量消費率:268~240Wh/km(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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