メルセデス・ベンツGLC220d 4MATICコア(4WD/9AT)
これぞ本場の味わい 2025.05.26 試乗記 「メルセデス・ベンツGLC」に新グレードの「コア」が登場。装備や仕様を厳選することで価格低減を図ったという新たなエントリーモデルだ。ラグジュアリーなSUVだけにあまり寂しい気持ちは味わいたくないところだが、仕上がりはどんなものだろうか。売れまくるGLC
2023年に現行の2代目に切り替わったGLCは、昨2024年に日本でもっとも売れたメルセデスだったという。JAIA(日本自動車輸入組合)による外国メーカー車モデル別新車登録台数でも、GLCはあの「フォルクスワーゲン・ゴルフ」をおさえての2位だった(1位は、統計的に全モデルがまとまった数字になってしまうMINI)。
ただし、GLCがメルセデスの国内販売トップになったのは今回が初めてだ。2024年の同ランキングには、GLCのほかに「GLB」「Cクラス」「Gクラス」「Eクラス」もトップ10入りしている。モデルチェンジを問わずにトップ10入りを欠かさない不動のCクラスを中心に、その年ごとにいろんなモデルがトップ10に顔を出すのが、日本における輸入車販売で10年間トップであり続けているメルセデスの強さでもある。
いっぽう、グローバルでのGLCは、日本以上の存在感を示している。本国での2代目への切り替えは2022年秋だったが、初代GLCはモデル末期ともいえる2020年にメルセデスのSUVでトップの売り上げを記録して、最末期の2021年にいたってはCクラスを抜いて、同社乗用車のベストセラーとなったとか。
メルセデス・ベンツ日本は、この2025年3月、そんなGLCにコアという戦略モデルを追加した。ベースはおなじみの「220d 4MATIC」だが、その仕様装備を吟味することで、ベースより57万円安い819万円という本体価格をうたう。今回取材したのはGLCだが、「GLCクーペ」のコアも同時発売されており、そっちの本体価格は、ベース比で32万円安の866万円である。
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オプションゼロの試乗車
ご承知の向きも多いように、こうした買い得モデル作戦は、モデル末期の販売テコ入れに使われるケースが多い。それをまだまだ新型と呼んでもさしつかえないGLCにあえて投入する意図は、グローバルでのGLCのポジションを考えると、日本での販売実績がまだまだ物足りないということか。あるいは、この2025年は大物ニューモデルの発売がどうやらなさそうなメルセデスが、輸入車1位の座を盤石のものとするためか。
そんなコアを対象とした今回のメディア試乗会には、クーペも含めた試乗車が複数用意されていたが、わがwebCG取材班が引き当てたのは、正真正銘の素のコアだった。コアにも「パノラミックスライディングルーフ」と「AMGラインパッケージ」という2つのライン装着オプションが用意されるが、この試乗車にはどちらも追加されていなかった。
さらに、この「ポーラーホワイト」という外板色にも追加料金は不要。というわけで、今回の取材車は正真正銘、819万円の本体価格のみで手に入る個体ということである。
GLCコアではほかに“黒”と“銀”の外板色も選べるが、その「オブシディアンブラック」と「ハイテックシルバー」という2色はいずれも8万5000円の追い金が必要となってしまう。ちなみに、コア以外のGLCには7色の選択肢があるのだが、その7色すべてが、じつは追加料金を要するオプションカラーあつかいとなっている。通常のGLCでは、“白”も今回のポーラーホワイト(ソリッド)ではなく、19万円のオプションとなるメタリックの「MANUFAKTURオパリスホワイト」になるのだ。
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装備の厳選レベルを精査する
装備表とにらめっこしてみても、コアだからといって、装備が省略されているようにはまったく見えない。安全装備は当然すべて共通だ。外観でも18インチホイールは既存のGLC220d 4MATICの標準装備品とサイズはもちろん、デザインまで同じだし、キック操作で電動開閉可能なハンズフリーテールゲートを筆頭にルーフレールやプライバシーガラス、熱反射・ノイズ軽減ガラスといった、一見地味だが実用的な装備も省かれていない。
内装でもステアリングホイールがウレタン(笑)なんてことがあるはずもなく、前席はしっかりシートヒーター付きフル電動調整だし、「ARTICO」と名づけられた合皮のシート表皮も既存のGLC220d 4MATICと同じだ。「ARナビゲーション」も含めたインフォテインメントシステム、そして液晶メーターの「デジタルコックピットディスプレイ」やヘッドアップディスプレイも含めたインターフェイスも変わりない。もっというと、指紋認証機能やスマホのワイヤレス充電といったガジェット的な装備もそのままだ。
とはいえ、実際には運転席からの雰囲気がなんとなくちがう……と思ったらダッシュボードの素材が、レザーARTICOから普通のソフトパッドになっていた。ただ、装備表を見るかぎり、コアならではの部分はこれくらいだ。
にもかかわらず、本体価格で57万円安を実現したキモは、3色に絞られた外板色に加えて、ライン装着オプションも前記2つにかぎられることだ。本革シートやBurmester名義の上級サウンドシステムを含む「レザーエクスクルーシブパッケージ」や、電子制御エアサスペンションと後輪操舵による「ドライバーズパッケージ」など、普通のGLC220d 4MATICでは選べるオプションが、コアには用意されない。こうして仕様を(メルセデス・ベンツ日本の言葉を借りれば)“厳選”したことによるコストダウンが、コアの価格の源泉との説明である。
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古典的な欧州車らしいドライブフィール
現行GLC220d 4MATICそのものに試乗するのは、筆者としては発売直後の2023年3月以来。そのときの試乗個体はオプションてんこ盛りで、20インチタイヤに加えて、電子制御エアスプリングと連続可変ダンパーによる「AIRMATICサスペンション」や後輪操舵の「リアアクスルステアリング」など、ダイナミクス性能に多大な影響をおよぼすであろうデバイスが満載だった。
そのときの、豊かな接地感と水平姿勢を保ったまま、見えないレールにハマったかのような安定した走りには、これらのハイテクの効能大に思えた。繰り返しになるが、今回のコアにそれらは備わらない。
パワートレインは相変わらず好印象だ。ディーゼルとしては十二分に静かでパワフル。普段はディーゼルであることを忘れる程度には静かだし、ストップ&ゴーでの滑らかなふるまいや、過給ラグの小ささにはマイルドハイブリッドが効いているっぽい。
気になる乗り心地は、以前乗った20インチ+電制サス+後輪操舵の所作がさしずめ“フワピタ”だとすれば、18インチと完全メカニカルなシャシーを組み合わせたコアのそれは“モチモチ”とでも形容すればいいだろうか。
高速の特別区間で110km/hを超えてから上下動が少し増えるのと、凹凸に蹴り上げられたときの収束が1発でなく2発になるところが、18インチ+アナログシャシーの特徴といえば特徴だ。いうても800万円台の高級車なので少しはハイテク味も……と思わなくもないが、いかにも練り込まれた古典的欧州車の味わいも、これはこれで滋味深い。ドイツ本国で実際に走っているGLCも、大半はこういう味わいのはずである。
このように、そもそもGLCをツルシで乗りたい人には、コアは決定版となりうる。個人的に唯一の不満は、外板にド定番の3色しか選べないことで、せめて色くらいは遊びたい……と思うと、コアは選択肢から外れてしまう。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLC220d 4MATICコア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4725×1890×1640mm
ホイールベース:2890mm
車重:1930kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:197PS(145kW)/3600rpm
エンジン最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)/1800-2800rpm
モーター最高出力:23PS(17kW)
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)
タイヤ:(前)255/60R18 103W XL/(後)255/60R18 103W XL(ミシュランeプライマシー)
燃費:18.1km/リッター(WLTCモード)
価格:819万円/テスト車=819万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:856km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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