ホンダ・シビックe:HEV(FF)
納得の完成度 2022.10.01 試乗記 「タイプR」の設定でにわかに盛り上がりをみせている「ホンダ・シビック」だが、ベースモデルの仕上がりもかなりの水準にある。とりわけエンジンを新規開発したハイブリッド車「e:HEV」は、燃費と走りの楽しさを両立した隠れた名車といえる存在だ。e:HEVこそが本命
2021年夏に1.5リッターターボからスタートした11代目シビックだが、ハイブリッド=e:HEVの存在はその時点から存在が公言されていた。ちなみにe:HEVの読みかたは、公式な商品名として“イー・エイチイーブイ”とされる。ただし、開発陣が社内で会話するときには“イーヘブ”と呼ぶようだ。それはともかく、関係者は当時から来るべき“イーヘブのデキには自信あり”と語っており、e:HEVこそシビックの本命……とでもいいたげな様子でもあった。
もっとも、シビックといえばホンダ屈指のグローバル商品であり、台数的には北米や中国が圧倒的なメイン市場となる。北米や中国を含めて、グローバルでは少なくとも今後しばらくは1.5リッターターボが主力になることが見込まれている。
ただ、今回のシビックそのものはまず欧州でプラットフォームの先行開発をした後に、それを各市場のニーズや環境に合わせて最適化する……という特徴的な開発プロセスをとっている。なんだかんだいっても、クルマの基本的なフィジカル性能を問う交通環境がそろっているのが欧州だからだ。そんな第二の故郷ともいうべき欧州で販売される11代目シビックは、(タイプRを例外とすれば)e:HEV一本となる。それはいうでもなく世界一厳しいCO2排出規制をクリアするためで、現行型の「フィット(現地名:ジャズ)」や「ヴェゼル(現地名:HR-V)」も欧州では最初からe:HEVのみである。
関係者がシビックのe:HEVを本命視するのにはそうした欧州をめぐる背景に加えて、第一の故郷である日本市場でも、最終的な売れ筋になるのはやはりハイブリッドになることが期待されるからだろう。そして、繰り返しになるが、開発陣がクルマそのもののデキに絶対の自信をもっている。
エンジンの強さがものをいう
先行開発で欧州に持ち込まれた従来型ハイブリッドシステムは、現地R&D部隊に“パワー不足でラバーバンドフィール”と酷評されたという。ラバーバンドフィールとは、アクセル操作に対して実際の加速が遅れてしまうなど、運転操作に対してエンジン回転やクルマの加減速が比例しない現象のことだ。それはハイブリッド(やCVTもそうだ)の宿命……というか、逆にそうでないと効率や燃費は悪化するのだが、欧州ではラバーバンドフィールが徹底して嫌われる。
そんな欧州で真正面から受け入れられるハイブリッド……を目指して開発されたシビックe:HEVは、実際に走らせると、まずはとにかくパワフルなのが印象的だ。その源流は「アコード」用よりさらに高圧縮比化したほか、ホンダハイブリッドとしては初の直噴となる新開発の2リッターエンジンだろう。
シビックに似た車格のホンダハイブリッドといえば、先日まで販売されていた「インサイト」を思い出す。同車のハイブリッドも基本構造は最新のe:HEVと同様だが、エンジンは最高出力109PS、最大トルク134N・mの1.5リッターだった。また、シビックと競合するトヨタの「プリウス」や「カローラ」が使うハイブリッドのそれは98PS、142N・mの1.8リッターである。対して、シビックe:HEVの2リッターは141PS、182N・m。前身ともいえるインサイトやトヨタの競合車と比較しても、明らかに心臓が強い。
ハイブリッドはバッテリーに電力が残っていれば、モーターが介助することで小排気量エンジンでもパワフルな走りが可能だ。それは低負荷巡航時以外はモーター駆動のシリーズハイブリッドとなるe:HEVもしかりである。ただ、高速連続走行や上り坂を延々とのぼるような“自転車操業”になってしまうシーンでは、ハイブリッドでも結局は心臓=エンジンの地力がものをいう。
欧州人も納得(?)のパワーフィール
関東近郊でいうと、中央自動車道下り線の談合坂や、同じく長坂ICから諏訪南ICなど、急勾配かつ長い上り坂をアクセルを踏み込んだまま走り続けても、シビックe:HEVは息つくようなそぶりを見せない。それでも、エンジンパワーを完全に使い切るわけではなく、バッテリーには常に一定の電力を残す制御なのか、そこからさらに追い越しをかけても、明確にグイッと押し出す余力を残す。
欧州で公表されるシビックe:HEVの最高速は180km/h。この急坂でのパワフルさや、120km/h巡航でも余裕しゃくしゃくなところを見るに、このクルマの180km/hは息も絶え絶えでたどり着くような絵に描いたモチの数字ではなく、完全な常用域と思われる。これなら、パワージャンキーな欧州人も文句はいわないだろう(と、ハイブリッド慣れした日本人は勝手に思う)。
シビックe:HEVはパワフルなだけでなく、ラバーバンドフィール対策も入念である。エンジンが回っていようと止まっていようと、アクセルレスポンスがとにかくリニアなのは、昨今のe:HEVに共通する美点である。エンジンが回っているかぎりは回転数がアクセル操作とある程度リンクしており、不自然感もほぼない。モーター主体のシステムなので加速がいいのは当然(?)としても、アクセルを緩めたときも右足に吸いつくようにぴたりと減速してくれるのもいい。それでも足りなければ、パドル操作で「減速セレクター」を作動させると、まるでシフトダウンしたかのように減速度が強まる。
徹底したノイズ排除
いっぽう、アクセルを深々と踏み込むと、エンジンが吹けては回転が落ちて、再び吹け上がる……というステップドATのようにふるまうのが面白い。しかも、眼前のパワーフローメーターの針もまるでタコメーターのごとく上下して、減速セレクターを効かせているときには、疑似変速のたびにセレクター表示が1個ずつ減る……という芸の細かさだ。
……と積極的にエンジンが回るシーンではエンターテインメント性バツグンのe:HEVも、ドライブモードを「ノーマル」や「ECON」にして市街地や高速を淡々と走るときは、これまた印象的なほど静かである。実際はエンジンが頻繁に始動と停止を繰り返しても、意識しないでいるとほとんど気づかないくらいだ。
聞けば、新開発2リッターエンジンは高剛性クランクシャフトや必要な場所をきっちり肉厚化したブロックを採用するなど、基本構造から静粛性を高めているそうだ。また、低回転トルクを根本から高めた2リッターのおかげで、低負荷時の回転数はこれまでにないほど低い。
そんなe:HEVそのものの騒音対策に加えて、シビックにはスピーカー音でノイズを相殺する「アクティブサウンドコントロール」も備わる。そのうえで、ドライブモードを「スポーツ」にすると、そこに今度は「アクティブサウンドコントロール」で音を足して、エンジン音をより高らかに演出する。なんとも執念めいた凝りっぷりである。
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吸いつくような接地感
ただ、シビックe:HEVで個人的にもっとも印象的だったのはシャシーの完成度だ。開発陣によると1.5リッター比でことさら変えたつもりはないというが、いかにも電動車らしく滑らかしごくのパワートレインも含めて、車格がワンランク上がったかのような乗り心地である。それは1.5リッターより約100kg増えた車重、後席下にバッテリーを収めることで前後重量配分や重心高がより改善したこと、バッテリー搭載のためにリアフロア周辺を強化したことによる剛性バランスの変化、e:HEV専用開発タイヤの「ミシュラン・パイロットスポーツ4」、そして加速だけでなく減速側も1.5リッターよりリニアなe:HEVなどの相乗効果らしい。
とにもかくにも、e:HEVは1.5リッター以上に吸いつくような接地感と、フルバンプ付近ではいい意味でフランス車を思わせるようなしなやかさは、筆者的にはタイプというほかない。また、コーナーでの脱出時にわずかにテールを沈めたような、理想に近い旋回姿勢もたまらない。……と開発陣に賛辞をおくったら、「これらがすべて事前に意図したものならもっと自慢できるのですが、正直いうと、できあがってみたら予想外に……という部分も少なくありません」と答えてくれた。シビックe:HEVの走りは、結果論としてはまれに見る成功例というべきか。
そんなこんなで高速から山坂道まで、たっぷり楽しんだうえでの燃費は16.9km/リッター(満タン法)。これだけのパワフルな走りで、トヨタの競合車やインサイトのちょい落ちの実燃費なら十二分に優秀というべきだろう。1.5リッターでも目を見張る爽快なデキのシビックだが、開発陣も本命視するe:HEVは「シビックで400万円かよ」とため息が出つつも、1.5リッター比で約40万円高という比較論では素直にリーズナブルだと思う。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・シビックe:HEV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:141PS(104kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:182N・m(18.6kgf・m)/4500pm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)235/40ZR18 95Y XL/(後)235/40ZR18 95Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:24.2km/リッター(WLTCモード)
価格:394万0200円/テスト車=408万8700円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイト・パール>(6万0500円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<DRH-204WD>(3万9600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ[ブラック]フロント・リアセット e:HEV用>(4万8400円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4801km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:312.8km
使用燃料:18.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.9km/リッター(満タン法)/16.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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