日産GT-Rエゴイスト(4WD/6AT)【試乗記】
スーパーカーの正しいあり方 2011.02.10 試乗記 日産GT-Rエゴイスト(4WD/6AT)……1673万2800円
ただの“おしゃれゴージャス仕様”ではなかった! 「日産GT-R」のテーラーメイド仕様、エゴイストに試乗した。
ここをそんなに凝るなんて
2年ほど前、重要無形文化財(いわゆる人間国宝)に指定された輪島塗のエキスパートにお話をうかがったことがある。金粉や銀粉で描かれた絵の美しさもさることながら、何より驚いたのは漆を塗る工程の複雑さだ。
まずは気が遠くなるほどの時間をかけて下地(木地と呼ぶらしい)を整え、そこから漆を塗る作業に入る。漆を塗っては乾かし、乾かしては研ぎ、研いでは塗り、といった作業を繰り返す。輪島には下塗り専門の職人さんもいれば、上塗りの達人もいる。だから漆器は、完成までにさまざまな工房を渡り歩くことになる。場合によっては数カ月もかけて上塗りまで終えたところで、ようやく絵や紋様を描く加飾の過程に入る。
作り手こそ違うけれど、眼前のステアリングホイール中央でぬめっと輝く「GT-R」ロゴは同じような工程を経ている。GT-Rのテーラーメイド仕様「エゴイスト」のステアリングエンブレムは、輪島蒔絵なのだ。「凝ったことするなぁ」というのが第一印象。そして、「はたしてこのこだわりがユーザーに正しく伝わるのか?」というのが第二印象。輪島塗の現場を見ていなかったら、自分にはこのエンブレムの凄さが実感できなかったかもしれない。
いかにも柔らかそうな本革シートは、ドイツの工房で革を縫い込んで日本に送り返したもの。掌のひらでなでてみると、そのキメの細かさに驚く。腰掛けると、腰から背中にかけてがふんわりと包まれた。目と手のひらと腰で味わうシートだ。
スターターボタンをプッシュしてエンジンスタート、サイドブレーキを下ろして駐車場を出る。この時点ではまだ、「GT-Rの内装ゴージャス仕様だろう」ぐらいに思っていたのだけれど……。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
ただのゴージャス仕様にあらず
走り出してすぐに、「GT-Rってこんなに大人っぽかったっけ?」と思う。悪い路面が連続する時に感じるザラザラ、ゴロゴロした感触、大きな凸凹を乗り越えた時のドシン、バタンといったショックなどが、きれいに取り除かれている。単純に乗り心地がやわらかくなったというのとも違って、クルマ全体の透明度がワンランク上がったように感じる。
ただ乗り心地がよくなっただけではない証拠に、コーナリング時のシャープさはいささかも失われていない。オン・ザ・レールの安心感と日本刀の切れ味を併せ持つ、“GT-R味”はこの「エゴイスト」でも健在だ。
昨年の大がかりなマイナーチェンジによって「日産GT-R」はフロントのキャスター角、ショックアブソーバー、スタビライザー、タイヤの内部構造などに手が入っているけれど、「エゴイスト」はさらに専用のサスペンションセッティングとなっている。
なめらかプリンのような感触は速度を上げるほどに増す。高速域では路面の変化にサスペンションがきっちり追従、4本のタイヤが常に正しい姿勢で地面と接している感触が伝わってくる。タイヤがばたばたする印象が一掃されたのは、「GT-R Spec V」と同じ軽量の鍛造アルミホイール(ただしカラーはエゴイスト専用)を履くことでバネ下重量が軽くなったという理由もあるだろう。
これがホントの「GT-R」!?
マフラーが「Spec V」と同じチタン製になっているほかは、パワートレインや吸排気系は他の仕様から変更はない。アクセルペダルを「ドン!」と踏み込んだ時の、離陸直前の飛行機みたいな無敵のパワー感にも変わりはないけれど、変速の滑らかさは3年前のデビュー時から大きく向上している。
あるいは、瀟洒(しょうしゃ)なインテリアに囲まれて足まわりの洗練されたフィーリングを味わうことで、エンジンやトランスミッションの感触まで澄んだものに感じている可能性もある。
もしそうだとしたら、演出がうまくいったということだ。日本の高級車やスポーツカーが不得手だった「演出」「雰囲気作り」という領域に踏み込んだのだ。「演出」をバカにする人もいるかもしれない。でも、おいしいワインには上質なグラスが必要だし、素晴らしい料理には素敵なレストランが必要。同じように、スーパーカーにもふさわしい器が必要だ。
そんなことを考えながらオーディオにCDをセットして驚いた。ボーカリストの姿が鮮明に立ち上がり、どれだけ音量を上げても音の粒がゆがみも潰れもしない。このBOSEプレシジョンサウンドシステムは、オプションで120万7500円なり。
蒔絵のエンブレムからオーディオシステムまで妥協なし。3年前に「日産GT-R」が登場した時、このパフォーマンスでこの価格なら安いと思ったけれど、作り手としてはここまで妥協せずに作り込みたかったのだろう。そういう意味では、これがホントの「GT-R」かもしれない。
「エゴイスト」という車名は、ユーザーのわがままを受け入れるという意味だと聞いた。けれども自分としては、「こういうクルマを作りたい」という作り手のエゴだと思えてならない。
で、スーパーカーにはこうした「わかる人だけに伝わればいい」というゴーマンな部分があっていいというか、あるべきだと思う。だから蒔絵の凝り具合がユーザーに伝わるかどうかとか、ノーマルと比べて約700万も高いけど大丈夫かなんて、心配する必要はないのだ。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。
































