マセラティ・グラントゥーリズモ モデナ(4WD/8AT)/グラントゥーリズモ トロフェオ(4WD/8AT)/グラントゥーリズモ フォルゴーレ(4WD)
未来からの曙光 2023.02.13 試乗記 イタリアの名門マセラティのグランドツアラー、その名も「グラントゥーリズモ」がいよいよ復活。エンジン車(ICEV)に加え、ブランド初の電気自動車(BEV)もラインナップする新型は、そのいずれにおいても第一級のパフォーマンスを実現していた。名門の未来を占う存在
マセラティの今後の躍進をある程度まで期待できると思ったのは、スーパーカーの「MC20」に乗って、ではなく、ミッドサイズSUVの「グレカーレ」で、だった。
一点豪華主義的な最近のスーパーカーは“よくて当たり前”。その完成度の高さをもってブランドの行方を推し量ることなどできない。翻って販売の中核となるモデルであれば、そのブランドの開発現場がどんな方向に向かっているか、おおよそのことをつかむこともできる。「GT-R」を見ただけで日産を語ることはできないけれども、「サクラ」でならある程度語ることができるだろう。
グレカーレの完成度もまた(MC20に負けず劣らず)とても高かった。内外装はもとより動的な質感さえも「ギブリ」や「レヴァンテ」を大きく上回っていた。これからマセラティはきっともっとよくなっていく。電動化の推進も、このぶんなら懸念材料にはならないはずだ。
もっとも、相手は歴史と伝統のある、それゆえ紆余(うよ)曲折のあったイタリアンブランドである。生来の気まぐれな貴族性がいつ何時アタマをもたげるやもしれぬ。油断は禁物。せめてもう1モデルくらい確かめてみるまでは、未来を確信などできない。そう、せめてブランドの本筋であるGTモデル、つまりは新型グラントゥーリズモを実際に駆るまではうかつなことは言えない。グレカーレのデキを大いにたたえた一方で、心の中でそんなふうにも思っていたのだった。
これ以上、名門の評価をもてあそぶわけにはいかない。結論を急ごう。新型グラントゥーリズモには老舗の底力を思い知らされた。古くて全く新しいその走りに、思わず頰が緩んだ。エモーショナルな走り(ICEV)を実現したという点でも、そして電動テクノロジーの新境地(BEV)をひらいたという点においても、魂が揺さぶられるほど感動した。つまり、伝統の再構築も未来の新構築も、彼らは“ひとつのボディー”で見事に実現してみせた。もっと早くにその力を見せてくれてもよかったのに、と、昔からのファンならかえって恨めしく思うに違いない。新型グラントゥーリズモは、旧型とは似て非なるGTだった。
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ひとつのボディーに2種類のパワートレイン
見た目には、フロントまわりを最新のマセラティフェイス=MC20顔に変えただけのグラントゥーリズモに見える。実際、スタイリングやボディーサイズは旧型と比べてもほとんど変わらない。やや幅広く、やや低く、そしてホイールベースがやや短い。それにMC20顔だから、全体的にはやや小ぶりに見えるが、見た目の印象はほとんど同じだ。
このうち、最も重要なポイントは“やや低い”ことだろう。なぜなら前述したように、新型にはICEVモデル以外にも100%バッテリー駆動のBEVモデル、その名も「フォルゴーレ」(イタリア語の発音では実はフォルゴレで、“フォ”にアクセントを置く)もあって、それらを基本的には同一のボディー&シャシーでまとめ上げたからだ。容量92.5kWhという大きなバッテリーを積んでいるにもかかわらず、車高はICEVモデルと変わらない、どころか旧型よりも低い。当然ながら“シークレットブーツ”モデルの多いBEV界にあって、車高の低さでは目を見張るものがある。
秘密はLG製バッテリーの形状にあった。エンジン+トランスミッションのモデルと同じ床下構造を使えるように、Tボーン型としたのだ。これによって前後重量バランスも50:50を実現(ICEVモデルは52:48)。重量増を出力増で補いつつ、ICEVモデルに勝るとも劣らない運動性能を手に入れたという。
ICEVとBEV。骨格を共有するとはいえ、パワートレインやドライブトレインはまるで違う、言ってみれば全く別の2モデルがひとつの形になって現れた。当然ながら技術的に解説したい点はたくさんある(例えば重いバッテリー搭載を考えて徹底的に軽量化を施したアルミボディー骨格。ICEVモデルで旧型より100kg以上軽い)のだが、それらをいちいちつまびらかにしていると、なかなか本題のインプレッションにたどり着かない。技術的解説を最小限にして、まずはファーストインプレッションをお届けしたいと思う。
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それぞれによさがある「モデナ」と「トロフェオ」
新型グラントゥーリズモは、3グレードが同時に出現した。出力の低い順に並べると、「モデナ」「トロフェオ」「フォルゴーレ」となる。最高速の順もそうで、フォルゴーレはBEVとしては異例の325km/hをうたう。
モデナとトロフェオのエンジンは、MC20に積まれた新開発の……以前のフェラーリ設計・生産ではなく、マセラティ設計・生産のプレチャンバー付き3リッターV6ツインターボ「ネットゥーノ」で、ドライサンプ式(MC20)ではなくウエットサンプ式である(それゆえ、グレカーレ用と同じく組み立てはMC20用とは別の場所で行われている)。8段AT+4WDシステムと合体したパワートレインは、完全フロントミドに置かれた。グレード間での違いはスペックがメイン(そのほかはデフロックシステムが機械式か電子式かなど)で、モデナが最高出力490CV(約496PS)、最大トルク600N・m、トロフェオが最高出力550CV(約557PS)、最大トルク650N・mだ。
よりGTらしいのは、当然ながらモデナだ(ドライブモードにも過激な「Corsa」が用意されていない)。全体的にボディーのシッカリ感が勝る、ジェントルで洗練された乗り味である。スポーツモードでのエンジンサウンドの聞こえ方もかなりおとなしい。エアサスペンションがもたらす乗り心地は微速域でこそやや硬めに感じるが、速度が上がるにつれてしなやかさを増す。ノーズの動きの軽快さは旧型とはまるで違い、自由自在という表現がよく似合うものだ。それでいてGTらしいまったりとしたクルージング性能も一級品で、落ち着いた大人の選択というべきグレードだった。
トロフェオに乗ると、そんなジェントルな気分が霧散する。クルマがひと回り小さくなったように感じ、ドライバーとの一体感もはっきりと上がった。フロントは明らかに引き締まったように感じられ、軽々しくは動かないふりをして、実は手応えよく自在に動く。モデナよりもう数cm、コーナーギリギリにノーズを寄せていける感覚があった。そして「Sport」「Corsa」モードでのV6サウンドは、モデナはもちろん、MC20よりたけだけしい。管の長さが想像できるようなサウンドだった。
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未来への希望を感じさせる
BEVのフォルゴーレは、まずシステム構成が特異である。300kW(約402CV)の最高出力を誇るラジアルモーターをフロントに1つ、リアには左右独立で2つ、合計3つのモーターで全輪を駆動する。これを単純に足し合わせれば最高出力1200CVのモンスターになってしまうが、BEVの場合にはバッテリーの出力がシステム出力の上限を決めてしまうので、放電能力610kWのバッテリーを積んだフォルゴーレの場合、最高出力は751CV、ブースト時でも817CVに収められている。一方で、3つのモーターはそれぞれ最大402CVまで発生できる。つまり、3つ足して751CVを超えない範囲で、0~402CVの間で各モーターがコントロールされるというわけだ。ちなみに、バッテリー容量は92.5kWh(このうち83kWhを使用可能)、最大航続距離は450km(WLTPモード)だ。
まずは出力を8割に制限するデフォルトの「GT」モードで走りだす。驚いたことに、その動きはとてもICEVモデルとよく似ていた。BEVにありがちな分厚い鉄板の上に乗っかっているような感覚は皆無だ。当然だろう。バッテリーがそんな形をしていないからだ。軽快な動きもBEVらしくない。乗り心地は快適のひとこと。専用に調律された電子音が煩わしくない程度に響いて心地いい。ちなみに完全ノーサウンドの設定はない。
そこからSport、さらにはCorsaとモードを過激にしていくと、クルマの動きという動きがすべて俊敏になっていく。出力配分は常に細かく制御されており、違和感を覚えることもほとんどない。コーナリング速度の速さには驚くばかりで、これぞ次世代スポーツカーの走りというものだった。
プロのドライブでドリフト走行の助手席体験もしたが、いとも簡単にテールを滑り出させ、いとも簡単に修正しながら、いとも簡単に美しいアングルを決めて駆け抜ける。超精密な制御のたまものだろう。加えてSportやCorsaではなかなか刺激的なサウンドが立ち込める。外部へもリアバンパー脇にあるスピーカーから音を出す。欲を言えば、Corsaモードのときくらい、耳をつんざかんばかりの音でもよかったのではないか。時代の流れに逆行するとはいえ。
ちなみに「MAX RANGE」というエコ走行モードもある。これはバッテリーの残容量が16%以下となって近くに充電器が見当たらないというときに推奨され、FWDで最高速も130km/h以下に抑えられるという。
一番のお気に入りは(20世紀のクルマ好きゆえ無難なチョイスながら)トロフェオだったが、フォルゴーレの新しい走りには、電動化の未来への希望が見えた思いがした。
(文=西川 淳/写真=マセラティ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
マセラティ・グラントゥーリズモ モデナ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4959×1957×1353mm
ホイールベース:2929mm
車重:1795kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:490CV(365kW)/6500rpm
最大トルク:600N・m(61.2kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)265/30ZR20/(後)295/30ZR21
燃費:--km/リッター
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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マセラティ・グラントゥーリズモ トロフェオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4966×1957×1353mm
ホイールベース:2929mm
車重:1795kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550CV(410kW)/6500rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)265/30ZR20/(後)295/30ZR21
燃費:--km/リッター
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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マセラティ・グラントゥーリズモ フォルゴーレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4959×1957×1353mm
ホイールベース:2929mm
車重:2260kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター(右):交流同期電動機
リアモーター(左):交流同期電動機
フロントモーター最高出力:402CV(300kW)
リアモーター(右)最高出力:402CV(300kW)
リアモーター(左)最高出力:402CV(300kW)
システム最高出力:751CV(560kW)
システム最大トルク:1350N・m(137.7kgf・m)
タイヤ:(前)265/30ZR20/(後)295/30ZR21
交流電力量消費率:--Wh/km
一充電走行距離:450km(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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