第738回:高額ナビが絶好調!? ホンダアクセスの「ギャザズ」にみるディーラーオプションの存在意義
2023.03.02 エディターから一言![]() |
便利で多機能なスマートフォンの普及により、ときに「もう要らないんじゃないの?」と後ろ指をさされることもある、純正アクセサリーのカーナビ。しかし販売現場を見ると、どっこい今も好調を保っているという。去る2022年に誕生35周年を迎えたホンダアクセスのオーディオ&ナビゲーションブランド「Gathers(ギャザズ)」の取材会に参加し、実機と関係者のお話から、純正アクセサリーの存在意義を探った。
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車載機器の進化と共に歩んできた歴史
現在、ホンダのディーラーで取り扱われるカーナビ&オーディオには2つのラインナップがある。ひとつはホンダ自身が開発する、いわゆる純正ナビ/オーディオ。もうひとつが、ホンダの純正アクセサリーを手がける、ホンダアクセスのカーナビ&オーディオブランド、ギャザズだ。ギャザズの機器は、ホンダの純正とは別物で開発も別。ざっくりと言えば、グローバル車種には純正ナビ、日本向けの色合いが濃い車種にはギャザズと使い分けられているようだ。
そんなギャザズの誕生は1987年。カーオーディオの普及は始まっていたが社外メーカーの製品が主であり、自動車メーカーはあまり力を入れていなかった。当時のギャザズの製品を見ても、その中身はアルパイン、クラリオン、パイオニアなどオーディオメーカーのもの。つまりギャザズはセレクトショップのような存在であったのだ。
その後、カーオーディオの音源はカセットテープからCDへと移行。一世を風靡(ふうび)したMDも登場する。また1990年代にはカーナビが製品に加わり、ホンダアクセスはギャザズの宣伝のためスーパーN1耐久レースのチームをスポンサードするようになった。2000年代に入るとナビの記憶媒体はDVDからHDDに進化し、さらに通信機能を備えたインターナビが登場。接続機能付きの携帯音楽機器やスマートフォンが普及すると、カーナビ/カーオーディオもUSB接続に対応するようになっていった。
また2010年代に入ると、ホンダ車にギャザズ製品の装着を想定したオプションパッケージ「ナビスぺシャルパッケージ」(ナビスペ)が用意されるようになり、その装着率が高まっていく。2010年代前半はモニターの大画面化がトレンドで、またナビ連携ドライブレコーダーも登場した。
35年にわたるギャザズの歴史は、こうしたカーナビ&オーディオの進化と共に歩んできたものだった。それでは今、2010年代後半から現在にかけてのトレンドは何かというと、それは“高付加価値”だという。
最新のギャザズが提供する“高付加価値”
最新の「リアカメラdeあんしんプラス3」(2万2000円)も、こうした高付加価値時代に対応したギャザズのアイデア商品だ。これは、先述したナビスぺに付いているバックカメラに、オプションとしてさらなる機能を追加するというもの。専用CPUを付け足すことで(グローブボックスの裏付近に設置できる)、「後退出庫サポート機能」「後方死角サポート機能」「後退駐車サポート機能」「後方車両お知らせ機能」を実現できるのだ。
「後退出庫サポート機能」は、カメラで駐車枠を認識しつつ、モニターにクルマの進行ラインを表示するもの。枠に正しく入りそうならラインは緑で表示される。「後退出庫サポート機能」は、後方の歩行者や他車の存在を知らせるもの。そして「後方死角サポート」は、車両の斜め後ろの他車の存在を知らせるものだ。最後に「後方車両お知らせサポート」は、他車が自車のすぐ後ろまできたことを知らせるもの。いわゆる「あおり運転」の被害に遭っていることをドライバーに知らせるものだ。こうした新しいアシスト機能を安価に実現できるのが、この商品の魅力となる。
このほかにも、オプションの「ハイグレードスピーカー」(3万0800~5万9400円)を装着すると、追加でパナソニック製のナビなら「音の匠(たくみ)」、三菱電機製のナビなら「DIATONE SOUND」と呼ばれる音響チューニング機能で製作された、車種ごとに独自のサウンドセッティングを楽しむことが可能になるという。
「ギャザズとして求めるサウンドは決まっています。情報量豊かで、空間表現や解像感の高い音を目指しています」とホンダアクセスの開発部の古賀勇貴氏は説明する。サプライヤーは違ってもサウンドの目指す方向性は変わらないというわけだ。実際にその音を聴いてみれば、ノーマルよりも格段にクリアで臨場感が増しており、また低音はタイトで聴きやすい。そして、その方向性は「音の匠」でも「DIATONE SOUND」も同じであった。これが“ギャザズの音”ということだろう。
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スマホの普及でオプションナビの存在意義はどうなる?
そんな最新のギャザズを体験しつつも、個人的に非常に気になることがあった。それがスマートフォンの存在だ。スマートフォンがあれば、それを介してナビゲーションのアプリを利用できるし、音楽などのコンテンツを媒介する通信機能も用意されている。つまり、クルマ側にモニターと音響設備、つまりディスプレイオーディオとスピーカーがあれば、それで十分のはず。20万円も30万円もするディーラーオプション品は、必要ないのでは? という疑問だ。
そんな疑問をぶつけたところ、ホンダアクセス商品企画部の大坪浩也氏いわく「いわゆるディスプレイオーディオにスマートフォンをつないで、ナビとして利用するニーズはあると思っています。商品化は検討しています」とのこと。ホンダアクセスもスマホユーザーの声は理解しているということだ。
ただし、「従来の車載のナビと、スマートフォンを活用する商品の両方が必要だと考えています。今は残念ながら、Apple CarPlayやAndroid Autoに対応するにはディスプレイ側に高いスペックが求められます。そうすると、ナビをつくるのと変わらない値段のハードになってしまう」とのこと。スマートフォンとの連携を前提としたディスプレイオーディオも、意外に安くするのは難しいようだ。
さらに別の理由もあるという。「ホンダのユーザーにはご高齢の方も多い。今までと違うものだと困ってしまうというお客さまも、やはりたくさんいるんですね」。そう語るのは商品企画部の加藤智久氏だ。これはクラシックなカーナビの話だけではなく、例えばDVDやCDを利用する人もまだまだ多いのだ。「それほど使わない方でも、DVD/CDのプレーヤー機能があるのとないのとでは、保険という意味合いでプレーヤー機能付きを選ぶ方が多いようです」。……意外とホンダの日本のユーザーは、クラシックなのかもしれない。
では実際には、どれほどホンダの純正/ギャザズは売れているのか? 「以前はずっと社外の市販品が強かったのですが、ここ数年は新車に社外品を付けられるケース、オーディオレスで買われるケースは少なくなっています。10年くらい前は純正+ギャザズの比率は半分くらいだったのですが、今は8割を超えていると思います」(大坪氏)
なんと、15~30万円もするメーカー/ディーラーオプションが8割を超えるほど装着されているというのだ。純正が社外品を押しのけた理由は、車両連携による通信機能やバックカメラの存在が大きいという。また、大画面モニターを新車発売と同時に用意できるのも有利な点だそうだ。
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日本市場を向くホンダアクセス&ギャザズの貢献
このように、依然として高い人気を誇るディーラーオプションのナビ/オーディオを手がけるホンダアクセスだが、実はそれ以外にも、重要な役割がある。
先に触れたとおり、日本ではスマートフォンが普及しつつもDVDやCDのプレーヤー機能を持つ従来型カーナビのニーズがいまだに健在だ。しかし海外は違う。音楽や動画を楽しむ際はスマートフォンをつなぐため、DVD/CDプレーヤーのニーズはない。そして、ホンダの開発者の目はグローバルを向いている。すると、どうしても日本の実情と合わないことが生じる。
例えば最新の「ステップワゴン」の開発では、当初はカーナビにDVD/CDプレーヤーの搭載が想定されていなかったという。見栄えをよくするため、搭載スペースはギリギリまで低くデザインされていたのだ。ちなみに、ステップワゴンは日本市場向けの製品ではあるが、他のグローバル向けの製品と同じ目線で開発されていた。しかし、その後ステップワゴンの開発にはホンダアクセスからギャザズ担当のスタッフも参加し、そこで日本のニーズに合わせた修正が行われた。つまり、いまだ根強いニーズのあるDVD/CDプレーヤーの採用だ。それでも低められたデザインに合わせるため、プレーヤーのメカのレイアウトには、相当苦労したという。
いずれにせよ、ここにギャザズの担当者が参加していなければ、ステップワゴンのカーナビは日本のニーズに応えられない製品になっていた可能性が高い。グローバル目線で日本市場がおろそかになりそうなときに、日本市場向けのギャザズのチームがご意見番として機能したのだ。これもまた、ギャザズの大事な存在意義のひとつといえるだろう。
ディーラーオプションは今も根強い人気で売れているし、日本市場の動向を開発に反映させるためにも、それは重要な存在である。結果、ディーラーオプションの車載機器は、まだまだ消えてなくなることはないということだ。
(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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